何も知らない道化師
この頃、双子というのは不吉なものとして捉える人も多く、男の両親もその例外ではなかった。双子が産まれたことを今後の吉凶の現れと感じたピエロの両親は、双子が誕生したことは内々にして、あろうことか勝手にエカテリーナを村の別の男性の元へと嫁がせる準備をしてしまったのだ。その男性は、一風変わっていたせいで嫁がなかなか来ず、もともと村で手伝いの仕事を担っていたエカテリーナに好意を抱いていたため、産まれたての子ども共々エカテリーナを嫁に欲しいとピエロの両親の話に食いついたのだった。
一方ピエロはというと、黙ってそれを見ていたのではなく、本人の知らぬうちに事が進んでいったのであった。
双子であったことで、予定よりも早く産気づいたこと、出産に間に合うように、と仕事を前倒しして片付けようと頑張っていたため、遠方への出張も重なり、帰省が出来ていなかったことなど、様々な事が、ピエロにとってのマイナスに働いた。ピエロはもともと街にエカテリーナを呼び寄せる予定であったが、お腹が張りすぎていたため、街への移動は難しかった。また、安全を考えると日中街中の自分の家で1人で過ごさせるよりも、ピエロの実家で過ごさせた方が安心だと判断したためだ。なんせ2人分のお腹は大きすぎて、起き上がるのにも人の手助けが必要なほどだった。そんな訳でピエロの両親に強く出られないエカテリーナにとっては、子どもをどこか知らぬ所へ連れ去られるのから守るだけで精一杯だった。
男児の方はピエロの実家で世話をすることになった。
子の予想より早い誕生の知らせを受けて実家に駆けつけたピエロの前に愛する女性の姿はすでになかった。残されていたのは、産まれたての男児と、全てを受け入れて男児の成長を願ったエカテリーナからの伝言だけだった。両親は仕事の忙しいピエロに代わって、男児の養育を申し出た。両親が密かにエカテリーナを追いやったことや、双子がどちらも無事に産まれたことさえ知らされなかった道化師は、女児とエカテリーナが同じ村で暮らしていることにも気付かぬまま、街に戻っていったのだった。