彫刻
二日後の火曜、風邪が治った少年と真船はカウンターを挟んで向かい合っていた。
「急なお願いになるんですが、一つ仮面に彫刻を入れてもらうことは出来ますか?」
真船は切り出した。
「はい。どんな彫刻にしましょうか」
真船はプリントアウトした画像をカウンターの上に置いた。
「これを」
少年は微笑んだ。
「かしこまりました」
少年はお茶を勧めた。真船は一口飲む。香りが随分よかった。
「僕、昨日ベッドで考えてたんです」
真船は頷いて続きを促した。
「大人って多分、子供とあんまり違わないんです」
「あなたの子供の定義はなんですか」
「ええと、子供ってなんでも全部が新しいんです。それを見つけてくのがやっぱり子供の仕事なんです。それを続けてたら大人になるんです」
「なろうとしてなるものではない、と」
「はい。子供でいようとしたら大人になってくんです。いつの間にか自分で自分のことが全部出来るようになってる」
真船はもう一口やや上達したお茶を飲む。いい答えだと思った。私は大人だろうか。
「じゃああなたは私よりずっと大人ですよ」
「僕のていぎの上で、ですけどね」
成長しようとしていれば自然に大人になるなら、今からだって大人になれる。
真船はふと、津野のことを考える。津野とのしがらみも、本気で向き合おうと努力したことはあっただろうか。彼ばかりに関係の進行を押し付けていた。
感情的にはならなかった。そんな努力をしなかった。二人ともきっと子供のままですれ違っていたんだ。
「お茶、ご馳走様でした」
真船は席を立つ。
「上手になりましたか?」
「さあ、どうでしょう」
真船が言うと少年は笑った。
「ツノさんも笑顔が上手になりましたね」