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透明人間  作者: 岡倉桜紅
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透明の心

これは、私が中学生の頃に書いたものだ。(一部修正あり)

今読むと、どうして書きたかったのかわからないし、幼稚で下手だ。しかし、消してしまうわけにもいかないので投稿することにした。自分の作品を愛することは、作品を生み出したものの責任だからだ。私が愛さないなら、いったい誰が愛すのか。

 真船夜(まふな よる)は溜息をついた。


 長時間椅子に座りっぱなしだったので腰が痛い。最新から一つ前のモデルの不干渉眼鏡(ふかんしょうメガネ)の端を押し上げ、帰り道の最短経路を表示させる。夜道を歩きつつ、スマートフォンを片手で操作する。秋に入り、手袋を出したいところだ。


 今日も津野から連絡はなかった。


 なるほど、人の心とは変わりやすいという。その通りだ。別にこれは彼のせいではない。仕方のない事なのだ、と真船は思う。


 眼鏡が前方に青い点を表示させた。通行人だ。ぶつからないように真船は道の脇に寄って歩き続ける。


 時は2043年。2030年代に果物のロゴの会社が開発した透明マントに始まり、人類は透明時代に突入した。今では世界人口の約半数が自身を透明にできる透過仮面を身につけて、その上から日常生活に必要な情報だけを厳選して脳に届けてくれるという役目をもつ、不干渉眼鏡というグラス型のデバイスを着用して生活している。


 プライバシーの保護というやつだ。肖像権やら、風貌権、呼吸権までが叫ばれるようになり、人類は皆、他人との交渉、交流にうんざりし、極力他者と関わらない為にと捻出された方法がこれだ。


 自分が透明になり、相手のことも最低限しか認識しないようにし、個々が一人一人生きていくことで煩わしさが消える。勿論、全てを無視したら社会や、会社、経済活動が成り立たないから、眼鏡は特定の人との交流をサポートする。現代の必須アイテムだ。


 真船が学生の頃は二人に一人くらいしかこの眼鏡を持っていなかったが、今の学生を見ると、ほとんどが持っているようだ。


 津野は学生時代、眼鏡を掛けようとしていなかった。


 今思えば最初から妙なやつだった。いつも誰かと共に居ないと死ぬとでも言うかのように、人の気を引き、注意をいつも自分の周りにとどまらせようとしているように感じて真船はあまり彼を好かなかった。


 一方、津野の方はしきりに真船を気にし、ちょろちょろと付きまとって来た。


 愛だかなにか知らないが、愛なんか偽物だ、と真船は思う。こんな透明な世の中で人の心などわかるものか。


 津野から好きだと言われたから交際していたが、高校の卒業と同時に疎遠になってしまった。細々と互いの記念日の日だけ集まって一緒に食事をするという薄い交流だけ続いていたが、今年は彼から連絡をよこすことはなくなった。私の愛想の無さにしつこい彼もとうとう飽きてしまったのかもしれない。


 ただ、最後に会った時、彼もまた、一般の大衆と同様に眼鏡を掛けていたことに少しだけ違和感を感じた。


 眼鏡は人を心地よい孤独に包み込んでくれる。


 彼がそれを心地よいと感じるようになったのならそれもいいだろう。


 マンションに着き、真船は部屋にするりと入り込むとすぐに鍵をかけ、眼鏡を外す。ひどく肩が凝る。もう少し軽量モデルの購入を検討しなければならない。


 レトルトを温める間にシャワーを浴び、レトルトを食べながらスマートフォンと仕事用PC、眼鏡と仮面を充電する。口頭でアラームに指示して明日は7時前に起こすようセットすると、最短ルートで眠りについた。

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