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絶刀・鏡花水月  作者: さのだいき
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序章

 この物語の舞台である国の名は『日ノ皇国』 我々が住む日本と名前がよく似ているが全く違う国だ。首都の名前が江戸であることも、幕府という機関が存在していることも偶然である。そうただの偶然なのだ。






 清兵衛は走った。偶々入った店で起きた食い逃げの犯人を追うためだ。恐らく常習犯なのだろう。多くの人でごった返す巽町の人込みのわずかな隙間を縫って止まることなく走っている。このままでは逃げられてしまう。

「親分!あとは俺に任せてくんな!」

前方から声がする。声の主は儀エ門だ。リップも大筒を抱えて隣にいる。恐らく儀エ門の新しい発明だろうが清兵衛は嫌な予感しかしなかった。

「おい!儀エ門!そいつは俺が捕まえるからお前らは手をだすな!」

「安心しなよ親分。あっという間に捕まえてみせるさ!頼むぞリップ」

「任せなよ!コレをあいつに向かって当てればいいんだよね?」

「その通り!それは改良に改良を重ねたトリモチ弾を放つ大筒。難点としてはかなりの膂力がないと引き金を引けないこと。だからこそリップの鍛え抜かれた身体で…」

「おりゃーーーーーーーー!!!」

リップは叫びと共に儀エ門だから渡された大筒を思い切り食い逃げ犯に向かって投げた。

「使い方違う!バカー!!!」

儀エ門の叫びと大筒の爆発音が巽町に木霊した。




「幸い怪我人は食い逃げ犯だけ。半壊した建物が十軒です」

「…食い逃げ犯1人捕まえるのに大層な働きだな」

従者の林からの報告を受けた巽町の奉行、田沼喜一はこめかみに指をあてながら眼前にいる清兵衛たちに冷たい声を浴びせた。

「いえ…全くもって言い訳のしようもございません」

「今度からはなるべく爆発しない発明品を作ります」

「武器に頼らず自分の武術だけで犯人を捕まえられるようにします」

ただひたすら謝る清兵衛。儀エ門とリップも本気で反省はしているが、反省の方向性が明らかにズレている。

「はぁ…もう良い。今回のところは壊した建物の修復を手伝うことで許す」

「奉行!それは…」

林に言葉を継がせぬよう田沼は手を挙げ制した。

「田沼様!ありがとうございます。我々、『助人屋・せいべえ』 これからも田沼様と巽町を守るべく心身を賭して勤めに励みます!!」

清兵衛が地面に穴が開くと思うほどの勢いで地に伏し、その姿に儀エ門とリップも続いて頭を下げた。

「うむ。では早いところ行ってこい」

「はい!では失礼いたします」

清兵衛たちは足早に部屋を出ていった。嵐が去ったあとのように凪いだ部屋で林は苦虫を潰した顔で田沼に告げた。

「奉行。少々あの者たちに甘すぎるのではないですか?今回のことが初めてのことでもないのに」

「まぁ、お主の気持ちもわからんでもない。だが、あやつらはそれ以上に町の平和を守っておるからの」

「それを言うなら我々も…」

「勿論。お主らの働きにも感謝をしておる。だがな、屋敷に籠っておる我々より町の者と毎日顔を合わせ、言葉を交わし、町の平和のために泥だらけで走る清兵衛たちには敵わんよ」

「……」

「そんな顔をするな。何もあいつらのやること全てを許すわけではないぞ。今回のこともしっかりと他に罰は与える」

「いえ、無礼を働きました。それでは失礼いたします」

頭を下げ林も部屋から去っていった。

「やれやれ。あいつと清兵衛を足して2で割れば丁度いいんだがな」

そう言った田沼の眼は手のかかる子どもを見るような慈愛に満ちた色をしていた。




日ノ皇国の首都、江戸は数年前から始まった海外との交流により人口が爆発的に増えていた。江戸にある町の1つ、職人が多く住む巽町も例外ではない。実質的に国を動かしている機関、幕府は人口に比例して増え続ける犯罪を奉行だけでは対処しきれないと判断。そこでそれぞれの町の奉行が個人的に雇った民間人に事件の解決を任せる制度を導入。彼らは『助人屋』と呼ばれ、宗像清兵衛もその1人である。発明好きの儀エ門と最強の武術家を目指すリップ・リーと共に巽町の助人屋として日々を過ごしているが彼らの行動は破天荒。今回のように奉行所に呼ばれ、お叱りを受けることもしばしばだった。

「いや~しかし今回も最終的にはただ働き同然になっちゃったね」

「世知辛いね」

「誰のせいだ!誰の!」

「痛っ!悪かったって親分。今回のことで反省もしたから」

「そうか。お前も少しは成長したんだな儀エ門」

「おう!今回の失敗を活かしてもっと丈夫な発明品を作るよ!」

「やっぱり反省してないだろお前!」

「してるって!本当に!現に今、僕の頭には助人屋・清兵衛の経済状況を打開する秘策が思い浮かんでいる」

「本当か!?」

助人屋は雇い主である奉行所から毎月給金が貰えるが、あくまで必要経費と食事が賄えるぐらいだ。助人屋に直接依頼が入れば、依頼主から支払いがあるが今回のように騒動を起こせば赤字なのだ。清兵衛が営む『助人屋せいべえ』は活躍も多いが今回のような騒動を度々起こすので、常に閑古鳥が住み着き常に鳴いている状況である。なのでこの経済状況を打破する方法があるのなら、耳に入れておきたかった。

「で?その秘策ってのは何だ?」

「うん。これにはリップの協力が必要だ」

「私の?」

「あぁ、お前に一肌脱いで欲しい」

「え…。ま、まぁ確かに世界最強の武術家を目指すために鍛えて抜かれた私の体は魅力的かもしれないけど…」

「何勘違いしてるんだ。第一いくら金に困ってるからって仲間の体を売るなんてする訳ないだろう」

「儀エ門… 疑ってごめん!私にできることがあったら言って!」

「ありがとう!じゃあこれからお前は常に語尾に『アル』をつけて話せ!」

「よしっ。歯ァ食いしばれ」

言うやいなや、リップの拳が儀エ門の顎へと吸い込まれた。

「おい儀エ門。生きてるか」

「だ、大丈夫だ。顎が外れるかと思ったけど」

「そうか。だがあんなフザケタ考えを話す顎なら外れた方が良いと俺も思ったがな」

「いや、言っとくけど真剣なんだぜ?三丁目のラーメン屋のオヤジ。あの人もリップと同じ華ノ帝国出身で、いつも『ラーメン食うアルか?』って言ってくるじゃん。その話し方がウケて客入りも良いって聞くからさ。こっちも同じ事をすりゃあ、お客が入ってくると思ってよ!」

「あのオヤジ、出身は博多らしいぞ」

「ウソぉ!?」

江戸より遥か西にある都市、博多は外交が盛んでありリップが生まれ育った華ノ帝国の料理であるラーメンもいち早く根付いた。武術を極めるためカン帝国から修行へと日ノ皇国へやったきたリップも博多から上陸し、江戸まで旅を続け、紆余曲折あり清兵衛の助人屋を手伝うことになったのだ。

「騒がしい人たちがいると思ったらやっぱり親分たちか」

「おう、菫か…」

「菫ちゅわー――――――ん!!!!!」

儀エ門は獲物に飛び掛かる肉食動物のような動きで声の主である女性、菫へと駆け寄った。

「菫ちゃん。今日も貴方は可憐で聡明で美しい。立てば菫、座れば菫、歩く姿もまた菫!」

「ありがとう儀エ門くん。言ってる意味はまったくわからないけど褒められて悪い気はしないよ」

菫は『藤屋』というお茶屋の看板娘だ。清兵衛たちはそこの常連であり儀エ門は説明するまでもなく菫にベタ惚れである。とうの菫はお店にくる酔っ払いや荒くれ者の相手をすることも多いため、肝が据わっており、そのような輩のあしらい方も上手い。故に儀エ門の大胆なアプローチも冗談半分としか受け取っていない現状だ。

「相変わらず儀エ門は押すことしか考えてないから駄目ね」

「いやアレは考えなんて無しに本能で攻めているだけだと思うぞ」

リップと清兵衛にとっては最早日常と化した光景だった。

「あ、そうそうリップちゃん。秋水先生の新作出たってさ!」

「え!ホントに!?」

「うん!」

「秋水って…最近噂の絵師か」

秋水は4か月ほど前に巽町に住み始めた男の絵師だ。秋水の描く華麗で幻想的な絵はたちまち人々の心を惹きつけた。また彼自身、目鼻立ちに品がある為、主催する絵画教室への参加権利の倍率はかなりのもので特に女性が殺到しているともっぱらの評判だ。清兵衛は直接、秋水に会ったことはないが、ここ最近立ち寄る店全てにと言っていいほど秋水が描いたものだという絵が飾られているため、その存在は知っていた。

「リップがハマっていたのは知っていたが、菫まで秋水先生にご執心だったとはな」

「あら、親分。この町では老若男女が秋水先生のファンよ。何なら親分も1枚買ってみたら?」

「無理だよ菫。ウチの親分は芸術ってもんがまるでわからないから」

「うるせェよ」

「秋水の絵か…彼の絵には魂が込められている。いやと言うよりも魂が込められないとここまで人を惹きつけることはできないだろうね」

「そういうもんか」

儀エ門が真剣な眼差しで秋水の絵を評価していることに清兵衛は少なからず驚いた。儀エ門は『からくり儀エ門』と人から綽名されるほどの発明好きだ。助人屋の仕事でも発明品を作ってもらうことがあるが仕事が無い時でも常に発明のことについて考え、その為に動いている。発明と菫以外には興味がないと思っていたが、発明と絵画、ジャンルは違えど同じ創造の世界にいる人間として儀エ門は秋水にシンパシーを感じているのだろう。

「まぁ発明品には絵には無い実用性がある!だから菫ちゃん!僕と一緒に人生を発明しませんか」

「うん。意味がわからないし、町を壊すような発明をする人は嫌かな」

「い、いや~ソレは僕じゃなくリップの馬鹿力のせいで…」

「人のせいにするなんて男らしくないよ!」

「いや、アレはどう考えてもお前が悪いだろ」

4人が往来で賑やかに話していると「すみません」と断りを入れて女性が横切って行った。笠を被り顔は見えなかった。

「じゃあ菫ちゃん。早速、秋水先生の新作を買いに行こうか!」

「あ、話しといてゴメン!実は今買い出し中で…終わったら時間空くから、藤屋で待っててくれる?」

「じゃあ僕は菫ちゃんのお供を…」

「わかった!じゃあ藤屋で待ってるね」

菫について行こうとする儀エ門の襟首を掴みリップは藤屋へと向かおうとすると清兵衛が険しい表情を張り付けていることに気づいた。

「…親分?どうかしたの?」

「ん、あぁいや。すまん… ちょっと野暮用を思い出した。お前ら先に藤屋に行っといてくれるか」

「…そう。わかった。待っとく」

「おう。菫も気を付けてな」

「ありがとうございます」

清兵衛は3人が見えなくなってから、歩き出した。

「どうしてあいつが…」

追うべき人物に遇った。その人物を追っているはずが、忘れたい過去に迫られ逃げているような錯覚に陥りながら清兵衛の歩く速度は上がっていく一方だった。




 町のはずれにある寂びれた茶屋にその人物はいた。先ほどすれ違った笠を被った女性。顔は見えずとも過去の因縁からそれが誰なのか清兵衛はわかっている。

女のそばに腰を下ろし、お茶を注文した。届いたお茶で渇いた喉を潤した。

「どうしてお前がここにいる赤蜘蛛」

清兵衛は小さくも鋭い声をその女へと向けて放った。

「おや、昔みたいに篝って呼んでくれないんだね」

赤蜘蛛と呼ばれた女、篝は清兵衛の威嚇を受け流し、口元をわずかに妖しくゆがめた。

「質問に答えろ」

「用がなけりゃ、来ちゃいけないのかい?」

「お前が用もなく俺の町に来るはずがないだろうが」

「ふむ。俺の町…ね」

清兵衛はカッとなった心を落ち着かせるために、またお茶を喉に流し込んだ。口の周りへ流れたお茶を拭う。目の前にいる女はいつも問答を真正面から受け止めずにのらりくらりと躱す。ここで焦っては相手の思う壺だ。

「ふふ。随分とまぁ、我慢強くなったもんだね。大人になって」

「俺をからかう事が目的なら、もう用はないだろう。早く帰ってくれないか」

「あんたをからかうのは私にとって呼吸みたいなもんだ。目的になるはずないだろう」

「相変わらず最低だな、お前は」

「それはどうも。ま、久々にあんたに遇えたんだ。何しにきたのかぐらいは教えてやるよ」

篝は立ち上がり、笠から眼を出し清兵衛へと笑いかけた。

「単刀直入に言うと仕事だね。昔の誼で教えといてやるよ。もうすぐこの町は蜘蛛の子を散らすような騒ぎになる。精々、頑張りなよ。清兵衛親分」

篝の話が終わった瞬間に清兵衛は鯉口を切った。しかし糸を巻かれた手からはそれ以上、刀を抜くことができなかった。

赤蜘蛛の篝―

恐らくこの国一の女盗賊だ。彼女の操る糸は人の動きを封じ込めることも、豆腐を切るかのように人の体を切断することができる。その技術はまるで衰えていない。

篝が去っていくと糸は緩み、清兵衛の手は自由を取り戻した。

 去っていく篝の背中を見つめながら、かつて彼女と共に過ごした日々を清兵衛は思い出していた。




 バラガキ清兵衛―

 かつて清兵衛はそう呼ばれ、巽町では有名な札付きの悪だった。ただ、清兵衛自身は売られた喧嘩を買っていただけ。3人のチンピラを倒せば、次は6人に。その6人を倒せば次は12人にと日々喧嘩相手は徒党を組み清兵衛に挑んだ。しかし、清兵衛は負けなしだった。

 いつしか挑んでくる相手は減り、勝手に自分を慕う子分たちが増え「兄貴」だの「親分」だの言われて始めた。そうやって、お山の大将になり自分より強い者などいないと調子に乗っていた。

 篝とはその頃に知り合った。賭場でイカサマをしていたゴロツキと争っていた時に清兵衛も含め、大の男数十人を芸術的と言いたくなる糸の技でその場を治めたのが篝だった。賭場の元締めだった篝は清兵衛の腕と気骨が気に入り用心棒として雇った。自分の動きすら封じてしまう女に興味が出たので清兵衛はその話を飲んだ。しかし心を許した訳ではなかった。篝も同様でそうやって互いが互いを警戒し合うことが妙な信頼関係を生み、いつしか2人は巽町のゴロツキたちの頭目となっていた。

ある日、篝の提案で豪商の屋敷に忍び込み盗みをはたらくことになった。盗みたいものがあった訳ではない。ただ、喧嘩相手もいなくなり退屈だった。スリルが欲しかっただけなのだ。結果は失敗。篝は裏切り、自分を置いて逃げた。

 捕らえられ奉行所に突き出された。これまで好き勝手にやってきた自分にはブタ箱がお似合いなのだと諦念が心と体を支配した。

 そんな清兵衛に罰を下す役目を務めたのが、当時、巽町の奉行になった田沼喜一である。田沼は清兵衛の縄を解き、木刀を渡した。「自分に勝ったら無罪放免にしてやる」と田沼は清兵衛に提案した。始めは言われた意味が解らなかったが、段々と清兵衛は怒りが込み上げてきた。これまで誰にも負けたことのない、バラガキと呼ばれた自分に対して目の前の男は勝負を挑んできた。この男が着ている上等で綺麗な着物を泥だらけの八つ裂きにしてやろうと清兵衛は血が出るのかと思うほど木刀を強く握りしめた。

 しかし何度挑んでも田沼には勝てない。振るう木刀は軽くいなされ何度も転ばされた。泥だらけになっていたのは清兵衛自身だった。まともに呼吸が出来ない自分と比べて田沼は汗一つかいていない。誰よりも強いと信じていた自分の強さが通じない相手がいる。その事実に清兵衛の心は完全に砕かれてしまった。

 木刀を握る感覚すら無くなってきた頃、田沼も構えを解いた。

「お前はまだまだ弱いな。だが、それだけに強くなる可能性を秘めている。どうだ。その力を俺の下で使ってみないか?」

笑いながら田沼は言った。清兵衛は流れる汗でまともに目を開けられない。いや、もしかしたら流れているのは涙かもしれなかった。自分よりも強い男がいる。自分が弱いことを知った。嬉しさなのか悲しさなのかはわからない。初めて自分を負かし、そんな自分を必要だと言ってくれる男の下で強くなりたいと心から熱いものが込み上げてきた。

それから清兵衛は百叩きの刑を受けた後、田沼の下で剣を磨き、学問を修め、町の人のために働いた。数年後に助人屋として独立し、今や巽町の人から親分と慕われている。

かつて自分を裏切った女は名にし負う大盗賊となった。その大盗賊が、この町に騒ぎが起きると言った。十中八九、篝がその騒ぎを起こすと清兵衛は確信している。

この町には自分の全てがある。辛い過去も誇れる今も、恩人も大切な仲間も。どんな困難が来ようとも、この町は自分が守る。清兵衛は拳を強く握り仲間の待つ藤屋へと足を速めた。




 藤屋に到着した。儀エ門とリップはいつもの席に着いて、お茶を啜っているところだった。

 藤屋は甘味処として看板を掲げているものの本格的な食事も出るし夜は酒も出るので決まった時間に仕事をする訳ではない清兵衛たちは重宝している。何より料理の味が美味いのだ。

「親分、用は済んだの?」

「あぁ、済んだ」

 儀エ門の質問にメニューを見ながら清兵衛は答えた。今日のオススメは鰆の西京焼きのようだ。

「…親分。大丈夫?」

「何だ、リップ。藪から棒に」

「う~ん。何というか、親分の体から闘気が揺らめいているように見えるから」

 篝に会った時からの警戒心が解けていなかったのか。武の道を往く者としてリップの推察は鋭かった。

「腹が減って気が立っていただけだろう。それよりも菫はまだ戻っていないのか」

 リップからの指摘から逃げるように話題を変えたのだが、菫がまだ戻っていないことは本当に気になった。

「確かに遅いよね。店が混んでるのかな?」

「もしかしたら悪い男にナンパされているのかもしれない!日ノ皇国一の美人なんだもの、菫ちゃんは!くそっ!菫ちゃんをナンパするとは何て最低な男なんだ!」

「おい、コレはつっこみ待ちか?」

「いや、本気で言ってると思うよ」

 儀エ門の一人舞台に清兵衛とリップが呆れていると、女性の叫ぶ声が聞こえてきた。

「おい、この声は…」

「菫ちゃんだ!」

 リップは既に店を飛び出している。清兵衛と儀エ門も後を追った。

 藤屋を出ると、数メートル先に蹲っている菫を見つけた。その目の前には男が立っている。リップは駆け出した。あの男が菫に何かをしたのだ。怒りが走りを加速させる。叫びと共にリップの飛び蹴りが男の胸に突き刺さった。

 清兵衛が店を出るとリップが1人の男に飛び蹴りを炸裂させているところだった。距離があったこととリップが陰になっていたのでハッキリとはわからないが、男は自ら後ろに飛んだように見えた。

「菫!大丈夫?」

顔を両手で覆い、菫は震えている。余程怖い目にあったのだろうかとリップは不安になった。

「…ほ」

震えた声を出しながら菫は咲いたような笑顔で叫びだした。

「本物の秋水先生に会えるだなんて!感激!!!」

先ほどに増しての大声が黄色に染まっている。清兵衛たちは喜ぶ菫と突き飛ばされた男を交互に見つめながら頭を整理していた。

「え…?秋水先生?」

蹴り飛ばした男が大ファンである秋水先生なのだと理解したリップの顔は青く染まり冷や汗が体中から噴き出している。

「ら、ラーメン食うアルか?」

「言ってる場合か!」


初めて長編に挑戦しました。

1人でも多くの人に読んでいただき楽しんで貰えれば幸いです。


よろしくお願いいたします

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