4×8話 弟子との特訓
カキン、カキン。
人気のない広場で剣をまじえる音が聞こえた。
「いいぞ!その調子だ。」
カキン、カキン。
その音は静寂の中を駆け巡る。
そこで剣を交えていたのは俺と、俺の弟子ロンであった。
「いいか、剣を扱うのに当たって1番大切なのは、型だ。いかにパワーがあり、いかにスピードがあっても、型がなければ戦いにもならない。逆に、型を極めれば、才能がなくても戦うことが出来る。」
俺は木刀で、ロンを圧倒しながらそう言い、続けた。
「魔法のみで戦うのが無理だから剣で戦おうというのは良い考えだ。しかし、まだまだ足りない。魔法は才能、剣は経験だ!」
俺の攻撃を必死に耐えているロン。魔王並の剣技にここまで着いてこれるのは凄いと思う。
ちなみに俺が師匠であることに乗り気なのは、前世のアニメとかを思い出して、やってみたいと思っていたからだ。
BAN!
俺はロンを突き飛ばして1つ質問した。
「お前、剣を握ってからどのくらい経つ?」
ロンは痛てててと尻もちをつきながら言う。
「1年と3ヶ月ですかね?」
なるほど、道理でしっかり剣術の基礎はできている。
しかし、足りないなぁ。
彼は、修行を始める前、自身に魔法の才能がないから、剣を使って対等に戦えるようにしたいと言っていた。
要は、俺の前の世界でいう魔剣士ってやつになりたいと言っているのだ。
ただ、まだあるものが足りていない。
「お前はなぜ魔法が使えるのに剣の修行をしているんだ?せっかく魔法が使えるというのに、それを使わないなんて、宝の持ち腐れじゃないか。」
俺はロンに言う。
ロンはしばらく黙ってから言う。
「宝...ですか。確かに僕は魔法を使えます。でも、僕には魔法の才能がありません。だからこそ、剣を使って、努力で才能のある人を超えていきたいんです。」
俺は彼の目を見つめる。なんだか、アニメや漫画の主人公のような言い分だ。
しかし、その理想がきっと彼の成長を阻害しているのだと、俺は確信した。
だからこそ俺はこう言った。
「努力だけで才能には勝つ事は出来ない。なぜなら、才能のある人もまた、努力しているからだ。この言葉の意味がわかるか?ロン。」
ロンは突然目を丸くする。そして、下を見る。
まるで、親に正論を言われ反抗できない子供のようだ。
ちょっとかわいいなと思いながら、俺は続ける。
「ロン。お前の選択は間違っていない。剣を使おうという発想、それは普通の人じゃあ、思いつかないものだ。しかし、だからといって魔法を使わないという選択は良い選択ではない。お前にはもっとできることがあるはずだ!自分にできる事を最大限に活かせ!そうすれば、お前は協力な武器を得られる。」
師匠は弟子に対して決して答えは言わない。
別に答えを言ってもいいのだが、それは弟子のためにはならない。
答えを導き出す時、最も大切なのは答えではない。
答えを導き出すまでの過程なのだ。
つまりだ。師匠である俺が今行うべきことは、弟子であるロンに答えへと導くヒントを与えることだ。
だから、俺はロンに答えを言わずに、遠回しで答えを言った。
きっと正解に導くように。
「もう1回やるぞ!ロン。」
俺は剣を構えた。
地面に倒れ込んだロンは、唾を飲み込んで再び立つ。
そして、俺と同じように剣を構えた。
「行くぞ!」
カキン、カキン。
再び剣の音は鳴り響く。
誰も音を出さない空気。その中で素晴らしい剣技をもつ2人の人間が、自身の剣を振り回していた。
当たり前だが、圧倒しているのはライン。
ただでさえ、すごいパワーを持っているというのに、そこに合わせて、的確な剣技とスピード。
例え、国の騎士の中で最も強い者でも、彼に勝つことはできないだろう。
そんな師匠に剣で攻められながら、ロンは考える。
僕にできる事ってなんだろうか?
剣?魔法?
分からない。師匠はなにを言いたかったのだろうか?
師匠は自分にできる事を最大限に活かせと言った。
しかし、自分にできる事というのがいまいちピンと来ない。
なぜ彼はあんな言い方をしたのだろうか?
なぜ剣だけではダメなのだろうか?
くそっ分からない。
僕はどうしたらいい?
ロンはラインの剣を受け流す。
カキン
そんな音を轟かせながら彼は必死に考える。
ロンが迷っているのを見たラインは再び彼にヒントを与える。
「ロン!お前の力を、俺に向かって全力で放て!お前の攻撃なら、多分耐えられるから、妥協する必要は無い!」
ラインがそういうとロンは余計に混乱する。
僕の力を全力で放て?
なんだそりゃ。
剣で攻撃するのになんで『放て』なんだ?
まるで魔法を放てみたいな言い方して...
くそっ分からない。
師匠は俺に何をさせようとしているんだ?
ロンは必死に頭を回す。
そして、ラインの思考を読み取ろうとする。
彼は考える。
考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考える。
ふと、ロンの頭の中にある発想が浮かぶ。
僕の力を放て?
僕のできることを最大限に活かせ?
そうか解った。師匠が僕に求めているものが!
ロンは剣を構える。
まるでこれから必殺を放つ主人公みたいに。
そして、魔法名を唱える。
「ファイヤーボール。」
そこに生まれたのは、弱弱しい炎の玉だった。
魔法の威力は、その魔法を使う人の魔力によって決まる。
ラインは彼の魔法を見る限り、本当に魔法の才能がないのだと確信する。
しかし、彼は満足そうに笑って言う。
「正解だ。」
ロンは自身の剣を炎の玉にに突き刺した。次第に炎はロンの剣をまとい始める。
「僕には魔法の才能がない。剣技もまだまだ未熟。でも、見つけました。今の僕にできる、最大の戦い方を。魔法も剣も中途半端なら、両方を同時に使えばいい。これが僕の剣技です!ファイヤーソード!」
ロンはそう言い残して、ラインに斬りかかった。
もちろん、そんな攻撃でラインに傷をつけることはできない。しかし、威力はaクラスの生徒の魔法と、同じくらいのものを出していた。
1年とちょっと修行してきた剣技と、ずっと学び続けた魔法が上手く合致したのだろう。
「思った以上の威力だな。お前、なかなか骨がありそうだな。」
俺はロンに言った。
ぶっちゃけ俺は面倒事が嫌いだ。だからあまり目立つ行動をしたくない。
だが...
弟子というのはなかなか悪くないかもな。
俺も、昔は先生になりたいと思っていた時期もあったし...
俺はロンに言う。
「なぁ、ロン。俺、さっき今日だけって言ったが、お前さえ良ければ、明日も来ないか?色々教えてやるぞ。」
俺の前にいる少年は、少しきょとんとしてから笑った。
そして言った。
「はい!今後ともよろしくお願いいたします。」




