5の二乗 指との戦い、そして少年の決意
俺は1つあることに気づいた。
ヴィリアの呪いは、従来呪いとは少し違う。呪いと言うよりかは、寄生と言った方が、正しいのではないか?
なぜなら、呪いからはヴィリアとは違う魔力を感じられるからだ。
だから瞬間移動を使って俺はヴィリアの背中に手を当てた。
そして、思いっきり自分の魔力をヴィリアに流し込んだ。
こうすればヴィリアの魔力の許容量が限界を越え、呪いをヴィリアの体から追い出すことができるのではないか?と思ったのだ。
ぶっちゃけ、普通の人は他人に魔力を流し込むなんて芸当は出来ない。
しかし、俺は魔石の魔力測定をごまかす際に魔力の操作を習得していた。
というのは、魔石の前で魔力を圧縮しても何も意味が無い。だから、俺は圧縮した魔力を体の、魔石から1番遠い部分に遠ざける修行をしていたのだ。
そのおかげで魔力を他人に与える!なんてことも出来るようになってしまったのだ。
何はともあれ、過去の修行が今役に立ったのが、幸いだ。
俺がヴィリアに魔力を流し込んでいると、1つ奇妙な点に気づく。
この人...
限界魔力量多くない?
いつまでたっても魔力量が限界を超えない。
そんなことあるのか?
もう20分の1は流し込んでいるぞ。
んー...
もうちょっと頑張るか。
そう考えていると、突然ヴィリアに魔力が入らなくなったのを感じた。
ようやく来た。ヴィリアの限界だ。
「すまないヴィリア。もうちょっと耐えてくれ!」
俺は無理やりヴィリアの体に、魔力流し込む。
すると。
出てきた。
呪いの元凶が。
そして、俺は驚愕した。
ヴィリアも驚愕していた。
ヴィリアの体の中から出てきたのは、なんと指だったのだ!
「なんだこれ?」
俺はつい、口から言葉を出してしまう。
その直後、ぶおおおおおん、と大きな音が当たりを響かせる。
ものすごい威圧。
ものすごい気配。
まるでアニメのラスボスのような存在感。
指は次第に人の形へと変わっていく。
そして、言葉を発した。
「我の眠りを妨げるのは誰だ!我の敵は誰だ!」
そこから発せられたのは圧倒的な魔力。俺じゃなかったら動くこともままならないだろう。
「我の眠りを妨げるものはどんなものでも許されない。名乗り出ろ。我が眠りを妨げたものよ。」
俺はやつを睨む。巨大なプレッシャーを抱えながら。
「お前か私の眠りを邪魔した者は?」
呪いの正体は俺対して指を指した。
俺は10年前、魔王を倒してから、初めて冷や汗をかいた。
世の中には化け物が存在するもんだな。
不幸中の幸いか。ここはあまり人が通らないため、被害者は出なかった。
しかし...
これ程の魔力を浴びると、一般人は耐えられないだろうな。シュナでさえも気を失うかも。
さて、こいつに対してどう返すのが正解なのだろうか?
はいそうです。そんなこと言ったら、おそらく街中で強力な魔力をぶっぱなされるだろう。
ほかの返事でも、ろくな逃げ道はない。ならば、
「テレポート。」
俺は静かに言う。
半径10メートルにいる生物を別の場所へ移動させる魔法、『テレポート』を使った。半年に1度しか使えないのが難点だが、なかなか便利な魔法だ。
俺はこれを使って、呪いの指と、気絶しかけているヴィリアを巻き込んで、広い平原へとワープした。
街に被害を騙さないためだ。
ぶっちゃけこれまで言ってなかったが、俺が住んでいるのは王都だ。
そんなとこで魔法を撃たれたら、被害はただじゃ済まないだろう。
だから、ヴィリアを巻き込んででも、他の場所へ移動させてもらった。
「え...?なん..で?ここ....は...?」
ヴィリアは、気絶しかけてるのに無理に言う。
だから俺はヴィリアに返した。
「ヴィリア、ゆっくり寝てて。もう今日は疲れたでしょ。」
そりゃ魔王の20分の1の魔力を体内にぶち込まれたんだ。気を保っている方がすごい。
俺がヴィリアに喋りかけた直後、呪いの指が喋りだした。
「俺を無視しているのか?ガキ。」
俺は答えない。
「ならば、貴様ら2人と灰にしてやる。」
奴は俺に手をかざす。
こいつは何をしているんだ?
そう思っていると、突然手の平から炎が飛んできた。
なっ!
「バリア!」
もちろんこの程度の攻撃、俺なら簡単に防げる。
しかし...
「無詠唱魔法!?」
俺はつい、言葉を漏らしてしまった。
しかし、それくらい俺は驚愕していた。
なぜなら、やつは今、呪文や魔法名を唱えずに魔法を使ったからだ。
これはこの世界の常識だが、魔法を使うには、何かしらの呪文などを唱える必要ある。
それは、アニメとかである長い呪文もあるし、魔法名を唱えるだけでいい呪文もある。
でもとにかく、呪文は唱えなければならない。
だから、何も言葉を発さずに魔法を使うことは、基本できないのだ。
もちろん俺でも。
しかし、やつは今無詠唱で魔法を使った。
何も呪文を唱えずに魔法を使った。
「そんな...ありえない。」
俺は呪いを睨む。そして、戦闘態勢に入る。
「身の程をまきわえろガキが。
たかが人間ごときが、我に敵対するなど、決して許されん。地獄に落ちやがれ!」
やつはそう言い残し、自身の周りに無数の炎の塊を生成する。
そして、それを一つにまとめ、俺に対して放つ。
「くっ...」
俺はバリアで防ぐ。しかし、勢いが強すぎる!
俺は簡単に弾かれた。その直後、バリアが弾けた音が聞こえる。
「そんなバカな!魔王の力だぞ。こんな簡単に...」
「魔王?私をそんな虫けらと一緒にするな。」
奴は俺の後ろに超高速で回り込む。
まずい!
「エンチャント!」
俺は叫ぶ。
しかしやつは止まらない。俺に対して超高速でパンチを繰り出す。俺はエンチャントで強化された肉体でそれを避ける。
その直後、もう一度パンチを受ける前に、俺は瞬間移動でその場を離れた。
「ルームワープ!」
まずは間合いをとる。
戦いの常識だ。
「なぁ、お前。どうしてヴィリアの体の中にいたんだ?」
俺はやつに喋りかける。すると、呪いの指は間を開けずに警告してきた。
「敬語を使え小僧。我は神だぞ。」
「神?何を言っているんだお前。」
呪いは右手に闇の玉を作り出し、俺に放った。
「バリア!バリア!バリア!バリア!バリア!」
俺は自分の前に5枚バリアを貼る。
バリン。バリン。バリン。バリン。
やつの魔法は俺の魔法の壁を、4枚破壊した。
なっ。馬鹿な。
俺のバリアが破られることなんか今までなかったのに。
「我を敬え、我を讃えよ、我が名は破壊神アルゴ。」
呪いはそう叫びながら、再び黒い玉を作り出し、俺に放った。
「バリア!バリア!バリア!バリア!」
俺は4枚の壁を生成する。しかしそれも簡単に破られる。
なんだこいつ...
なんだこのパワーは...
破壊神アルゴ。そんな名前の神など聞いたことがない。
しかし、こいつの力は異常すぎる。
「チャンスをやる。少年よ、我の仲間になれ。お前は強い。お前なら俺の部下も軽々超えてゆくだろう。
しかし、お前はここで死ぬ。惜しいとは思わないか?
お前には才能がある。その才能、俺が利用してやる。」
俺はやつを、破壊神アルゴを睨む。
「5秒まつ。その間に覚悟を決めろ。」
やつは再び自身の右手に闇の玉を作り出す。
たが、さっきの物とは全然違う。さっきよりも濃い密度で、莫大な量の魔力が込められている。
これを受けたら俺は一溜りもないだろう。
「5...4....3...」
破壊神アルゴはカウントダウンを始める。
神に対して今の俺は何ができるのだろうか?
やつを倒す?
無理だろ。
だってやつは破壊神だ。
実力は本物。
今の俺に太刀打ちできるわけが無い。
「2...」
だったらどうする。
大人しくやつの部下になるか?
やつの手下として、これから働くか?
しかし、それでいいのか?
やつは破壊神だぞ?
「1.....」
ダメだ。
俺はどうしたらいい?
なんと答えればいい?
俺の思考回路は完全に停止した。
今の俺に何ができるかなんて、分からなかった。
ふと、何も考えずに俺はヴィリアの方を見る。
そして思う。
彼女はどんな人生を送ってきたのだろうか?
呪いを持って生まれ、周りから嫌われ続け...
きっと彼女は1人でたたかいつづけてきたのではないか?
味方なんてどこにもいない。
たった1人。
完全な孤独の中できっと彼女は戦い続けたんじゃないだろうか?
もし俺がその立場なら、俺はどう、人生を送ってきたのだろう。
どうやってその苦しみを乗り越えられただろう。
1人で戦い続けた彼女に対して、今の俺に何ができるだろうか?
いや、俺に出来ることは何も無い。
俺は彼女の苦しみを知っている訳ではないのだ。
彼女のその苦しみがどんなもなのか、想像はできる。
しかし、想像することしか出来ない。
ならば、せめて、俺に出来ること。それはなんだろうか。
「覚悟は決まったか?少年。」
破壊神アルゴは口を開く。
「ああ、決まったさ。」
俺は返す。
長い沈黙。完全な無音。
風などのような自然の音でさえも、その場での発言は許されない。
先に喋りだしたのは破壊神アルゴだった。
「その目は、俺の部下になるつもりはないみたいだな。」
俺はその言葉に答える。
「あぁ、その通りだ。」
そして俺は続ける。
「そこに倒れている少女がいるだろ?彼女の名はヴィリアと言うんだ。彼女は誰とも話そうとせず、いつも孤独に生きていた。とても可愛らしい女性だよ。」
「・・・・・。
だから...なんだと言うんだ?」
「なぜ彼女が常に孤独だったか、知っているか?原因はお前なんだよ。破壊神アルゴ。」
「ほぉ、だがそれがどうした。所詮は人間なのだろ?私が知ったことでは無い。」
「そうだな。お前にとってはちっぽけな存在だ。弱くて、醜い、悲しい存在だ。だがな、そんな弱くて醜くて、悲しい存在である彼女は、たった1人で、必死に何年間も戦い続けてきたんだよ。」
破壊神アルゴの顔が変わる。
俺は俺の信念を貫いた。
「神とはいえ、所詮ただの指であるお前が調子に乗るんじゃねぇ!俺は彼女のために戦うことに決めた。
よく聞け!
俺の名はライン。
破壊神アルゴ...
お前をこの世から消し去る存在だ!」
俺は1人、やつへ、自分の決意を言う。やつは少し黙り込んだあと、答える。
「ならば、死ぬがいい。そして、地獄の底で詫びることだ!」
俺たちは、互いに向かって、走り出した。




