4×6話 呪いと救済
俺がヴィリアの所へ向かっている途中、俺はなんか嫌な予感がしていた。
ヴィリアの魔力を感知できたのはいいが、感知した場所から異様な気配がしたのだ。
まるでどす黒い太陽のような感覚。
約10年前に会った魔王は、ありえないくらい強大な魔力を持っていたが、このようなオーラは出していなかった。
魔王とは違う何か。
しかし魔王のような魔力。
俺はヴィリアのことが心配になった。
彼女は昨日、俺に散々酷いことを言った。しかし、俺はなぜ彼女があんなことを言ったのか、何となくわかる。
だからこそ、余計に彼女と友達になりたいと思うし、安全でいて欲しいと思う。
たかが呪いごときで人生をドブに捨てて欲しくない。
「さて、どうしたものか。」
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「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!」
私は思う存分暴れる。扉を破壊し、ほかの盗賊を殺し、家具、宝、目に映ったものすべてを破壊した。
それでも私の破壊衝動は収まらない。
「ぎごぉぉぉぉ」
呪いに蝕まれた私は、自由に体を動かせない。昔、1度呪いが発動した時もそうだった。
私の体は私の意思ではなく、まるで別の人の意思で動く。
本当はこんなことしたくない。
だけど体は思っていることと反対の動きをする。
私はただ、普通に友達と話して、家族と暮らして、楽しく幸せに生きたいだけなのに...
どうして動かないの?
どうして言うことを聞かないの?
どうして私の人生を無茶苦茶にするの?
いくら心の中で問いかけても答えが帰ってくることはない。
もう....いや....
こんな人生いや。
こんな呪いいや。
こんな......
何も出来ない自分なんて...いや!
いや!いや!いや!いや!いや!いや!いや!いや!いや!いや!いや!いや!いや!いや!いや!いや!いや!いや!いや!いや!いや!いや!いや!いや!いや!いや!いや!いや!いや!いや!いや!いや!
それでも私の体は止まらない。
ひたすら何かを破壊し続ける。
昔の私は幼かった。だから、呪いが暴走しても、そこまで大きな被害は出なかった。
しかし、今の私はただ力を持ったバーサーカーだ。
理性を保てず。ただ物を破壊するために動く。
誰でもいい。私を止めて。
バン!
ついに私の体は外へ出る扉を破壊した。
足は次第に日の下へと向かう。
やだっ。外に出たくない。これで外へ出たらもう私は本物の化け物だ。ただの呪われた悪魔だ。
もう生きていくことも許されない、惨めな悪魔だ。
もういい。もういいから誰か私を殺して!
何がもういいのか分からない。
それは生きていくことを諦めるという意味なのか?
それとも、自分自信を蝕む呪いに対して放った言葉なのか。
今の私にあるのは複雑な思い。しかし、全てから逃げたいという単純な思い。
ふと、私はラインの顔を思い出す。
理由はない。
しかし何故か私の頭の中には彼の顔が思い浮かぶ。
彼の言葉が頭の中に思い浮かぶ。
彼の声が頭の中に思い浮かぶ。
そして。
目から涙を流した。
奪われたまま、取り戻せなかった体の支配権。
しかし、今私は目から涙を流した。
絶対的な呪いに対し、涙だけを取り戻すことが出来た。
それと同時にどこかから声が聞こえてくる。
「その涙は、まだ君が生きているということでいいんだね?ヴィリア。」
この声は...!
私は声の方を見る。いや、私の体が声の方を見るという方が正しいか?
そんなことはどうでもいい。
私は声の主を見て驚愕した。
-ライン!-
男は女の子を見る。呪いに取りつかれた哀れな女の子を見る。
そして、女の子もまた、男を見る。自身の前に現れた男、何年も人と話せなかった自分になんの躊躇もなく話しかけてくれた男を見る。
2人はただ見つめ合う。
沈黙は長い間続いた。
立った1秒が、何分何時間にも感じられる空気がそこにはあった。
しばらく経った後、先に動いたのは女の子の方だった。
「ギァァァァアアア!」
彼女は獣のように雄叫びを上げながら、走って男に近づいていった。
右手からは黒い煙が出る。
女の子は男に近づきながら、黒い煙を剣の形に変える。
だめ!逃げて!
女の子は心の中で叫ぶ。
男は何もしない。歩きもしない。言葉も発さない。
攻撃を受ける素振りもしない。
彼はただ突っ立っていた。
女の子は男の半径1mの範囲に入り、右手を振りかざす。
ものすごいスピードだ。常人なら、このスピードにはついていけないだろう。
しかし....
男の方が1枚上手だった。
「バリア」
男は呟く。
そして、女の子は見えない壁にぶつかった。
「バック」
ふたたび男は小声で言う。
女の子は後ろに大きく吹き飛ばされる。
嘘!?女の子は思う。
自分の呪いはもう止められないと思っていた。
呪いが繰り出す一撃の威力は圧倒的だった。スピードも、防御も、精神も!
なのに彼女の前にいる男は、その攻撃を軽く受け止めた。
女の子は再び涙を流す。
それを見た男の表情は一気に変わる。
その顔は険しく、怒っているのがわかる。
「お前...いつまで...そいつの中にいるつもりだ。」
男は歯を食いしばりながら言う。
女の子は、おどろいた素振りを見せる。
そのやり取りがあった直後、男は瞬間移動して、女の子の背中へと回り込む。
そして、女の子の背中に手を当てる。
いやあああああ!
女の子の体に突然痛みが走った。体が壊れそうな痛み。
暑いとまで錯覚していしまうほどの痛み。
しかし、どこかに温かみを感じる痛み。
「さっさと出てこいよグズ野郎!」
男は叫ぶ。
女の子は驚愕した。
なんと自分の体の中から、あるものが出てきたのだ。
指。




