剣霊への生贄1
久々に筆をとって見ましたよろしくお願いいたします。
「ヒャッハー、チェーンソーは最高だぜ。yeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeee」
緑のローブを身を包んだ男が大声を上げチェーンソーを片手に崖から飛び降りる。その様は正に狂人そのもの。奴のアバターネームはゼノーア。本名は馬場 蒼汰。しかし、このゲーム『オーバーアルムオンライン』では、彼をキャラネームで呼ぶものは少ない。彼のチェーンソーへの偏愛とチェーンソーにおいて裏打ちされた確かな実力から、彼はチェーンソー狂と呼ばれている。
崖の下にいた片手剣を持った盗賊衣装のサーベル使いが声を上げる。
「奴だ、チェーンソー狂だ。くそせっかく新マップにきたってのに、あんなイカレ野郎に無駄にデスペナとられてたまるか、ぶっ殺してやる」
サーベル使いの仲間たちも武器をもって戦闘の態勢をとる。弓使いは着地位置に弓を構えながを一番後ろに、中間にサーベル使いともう一人の双剣使いが、前衛には大楯の戦士が身構える。チェーンソー狂に対して真正面から迎え撃つ形だ。ゼノーアの着地地点が読めている以上、この人員において最強の布陣ともいえるだろう。しかし、ゼノーアに対してこの布陣は失敗であったとすぐに理解することになる。
チェーンソー狂は着地する直前に壁面を蹴り上げた。そのまま軽やかに、布陣の真上を飛び越える。とっさのことにサーベル使いたちは見上げることしかできなかった。そして、真の着地点は、弓使いの真後ろだった。当然、弓使いは対応できない。なすすべもなく|チェーンソーの餌食になる。
ゼノーアの動きに無駄はない。そのままノンストップで反応の遅れた双剣使いの腹にチェーンソーが差し込まれる。四人中二人が戦闘不能となった。陣形がものの数秒で半壊した。
「このまま、やられてたまるかよ。チェーンソーのようなクソ装備なんかに」
サーベル使いが、振り返り、サーベルをかざす。だが遅い。
チェーンソーは剣が降ろされる前にすでにサーベル使いの腹を貫いていた。
そして、チェーンソーはサーベル使いを串刺しにしたまま、大楯の戦士の背中に差し込まれた。
ゼノーアは僅か十数秒の戦いで四人全員が戦闘不能状態にする。
ゼノーアは後続の確認をするもの目立った足音や攻撃がない。
「フルパ(六人)じゃなかったのか。となると『自己蘇生』持ちか珍しいな」
そう言ってゼノーアが全体を見渡すとサーベル使いが這いつくばりながら岩陰に入っていく。
ゼノーアがそれを見落とすことはない。即座にチェーンソーを担いで距離を詰める。
この素早い対応に自己蘇生が間に合うわけがなく。
「気が付くの早過ぎるだろうが、このチーター野郎が」
「これで、戦闘終了だ。チートなんざ使っていない。まぁチェーンソー自体がチートてなら、言葉通りだがな」
「このイカレ野郎が、、、、」
「これを機にチェーンソー使ってみるんだな。新しい世界が見えるぞ」
そう言いながらゼノーアはチェーンソーを振り下ろす。チェーンソーの切断音が今日もプレイヤーを天国に誘う。
彼らは瞬く間にいくつかの魔晶石を落として消えていった。チェーンソーはこの『オーバーアルムオンライン』においてそれほど強い武器としては認識されていない。武器の構成や人数差を考えれば、サーベル使いたちが勝つのは定石だろう。しかし、チェーンソー狂は彼らに勝利した。それにどのような結果であれ、敗者は魔晶石を落とす。勝者はそれを得ることができる。このゲームでのお約束だ。
「物足りないな、俺はチェーンソーの切断音をもっと聞きたいのに。もう少し骨のあるやつはいないのかな。なあ、マルチダ」
そうやってチェーンソー狂は魔晶石を回収しながら、彼の作品の一つに唇を落とした。
(まぁ、こんなことまでしたくて、エモートすら自作してるんだから、そう思われてもしかたないか、けど)
彼は回収した魔晶石を確認する。一角の兎や緑小鬼などの初心者向けのモンスターの魔晶石を大量に落としていた。サーベル使いは、いわゆる初心者狩りをしている奴らだった。しかも、初心者向けの狩場に潜み徹底的に荒らす輩だったのだ。新マップでも初心者狩りをしようとしていたところをゼノーアに逆に狩られたということなのだ。
(別にルール違反じゃないし、俺のようなやつがとやかくいうのもどうなんだと思う。でも、俺からみれば初心者狩りしてる方がよっぽどイカレてると思うけどね。やってても虚しくなるだけだろうに)
彼は少し浮かない顔をした後で、
「やっぱり、集団を殲滅できるチェーンソーは最高だぜ」
今日も元気に笑顔でチェーンソーを振うのであった。
『オーバーアルムオンライン』クラフト&ファンタジーアクションゲームを謳っているこのゲームではプレイヤーは錬金術師という設定になっている。そのため、職業やレベル、スキルといった自身を強化する概念がない代わりに、モデリング機能を使って自分の思い通りに武器や防具をつくることができる。そして、制作した武器や防具に魔晶石を使うことで、高速移動や鉄壁化などの特殊能力を加護として付けることができる。魔晶石を付けて特殊能力がある武器や防具をこのゲームでは魔晶武装とよぶ。この魔晶武装を携えて戦闘や探索などを行う。3Dアクションとファンタジーを上手く落とし込んだ作品だ。サービス開始から五年も経っているが、少なくとも隔月に一回はイベントやアップデートが行われている。
このゲームの自由度の象徴としてサーバーマップによってルールが異なる。チート使用以外なんでもありのアウトローマップ、他プレイヤーへの戦闘行為禁止のコープマップ、戦闘行為自体が禁止のセーフマップ、特殊な条件があるスペシャルマップ。基本的に罰則もマップによって決まっている。
「さてと、新マップでの日課をしようか、ジュリエット」
彼はチェーンソーを持って峡谷を走り抜ける。この非日常ともとれる活動こそ彼の日常なのだ。
目的などない。ただチェーンソーと共にあればいいのだ。
それが彼のチェーンソー道。彼曰くこのゲーム『オーバーアルムオンライン』で最もエキサイティングな楽しみ方らしい。
ゲームマップの乾いた峡谷を進む。このマップは今日のアプデで追加されたばかりの『イルゲート峡谷』。乾燥した大地に地層がむき出しになっていてとても良い景観を生み出している。現実世界のグランドキャニオンにも匹敵する美しさだ。
サーバーマップルールはなんでもありのアウトロー。だから、先ほどの戦闘も誰にも咎められたりしない。
所々に低木が生えているだけのマップをチェーンソーの重音を身に絞め、高速で走り続ける。実装されたばかりのマップを全力で走り抜ける。邪魔するものに出会えば先ほどのように仕留めるだけだ。
これがゼノーアと彼女達のランデブーなのだ。ちなみに今彼の手元にいる子はNo.24高速移動鎖鋸ジュリエット。
その健気な体からは出るとは思えない高速回転の刃が彼女の持ち味である。暴風龍の魔晶石を四つも埋め込み、『高速移動Ⅴ』を重ね掛けで加護している。小型鎖鋸特有のあどけなさとすばしっこさを持つ可愛い彼のチェーンソーである。
無論彼のチェーンソーは一つではない、状況に応じたチェーンソーを使い分ける。チェーンソーいう枠組みに自ら囚われながらも、その特性生かしたり、あえて捨て新しい活路を見出してきた。状況ごとに異なるチェーンソーを使いその多彩な手数の多さで勝利を収めてきたのだ。
『オーバーアルムオンライン』自身の能力は全て武器に依存する。勿論アクションゲームであるため、魔晶石に制限のある闘技場での対人戦などでは、一定のプレイヤースキルが求められるが、基本的には、このゲームにおいてプレイヤーの優劣というのはどれだけ武器に金と時間を費やしたかで決まるのだ。つまり武器をいくら愛することができるかが必要なのだ。だから、彼にとってチェーンソーと愛し合う時間は何ものにも変えられないものだそうだ。
異常なまでのチェーンソーへの愛。それこそが人が彼をチェーンソー狂と呼ぶ所以なのだろう。
ゼノーアは遂にマップの端にまでついた。夕焼けが彼を峡谷を美しく照らす。赤く燃えるように映る峡谷の地層はパソコンの背景画像として選ばれていたとしても不思議ではない。
(なんだ、このオブジェクト?いや、洞窟か)
峡谷を駆け抜けていた彼の足が止まる。そこはちょうど地割れの後があり、中が空洞になっている。
(ダンジョンかちょうどいい。さっきのパーティーはまるで歯ごたえがなかったからなこの際モンスターどもを蹴散らすとするか)
空洞のなかを進んでいくとそこには、両手を掲げた悪魔がかたどられた怪しげな門のようなものがそこにはあった。両手の部分には石がはめ込まれている。
石はまるで鮮血で染めたような不気味な深紅色に輝いている。
あの石は魔晶石だろう。
(こりゃモンスターハウストラップだなどう考えても、魔晶石を取ったら発動するやつだ)
魔晶石を取ったら一気にモンスターが発生して襲いかかってくる。アクションゲームにありがちなトラップの一つである。勿論ゼノーアも過去に体験したことがある。
(あの時は苦い思い出になったけど、今のチェーンソー達がいるなら行けるやろ)
「最新マップのモンスタートラップか、面白い。俺のチェーンソーたちでぶちのめしてやる」
チェーンソー狂はなんの躊躇いもなく魔晶石を引き抜く。
すると、案の定門が開かれる。
「さぁ、かかってこい、、、てこれは、まずい、吸い込まれている。しかも眩しい。フラッシュエフェクト炊きすぎだろ――――」
しかし、開かれた門から出てくるものは一つもなく、むしろ、ゼノーアを逆に吸いこんでいく。彼は抵抗する間もなく吸い込まれていった。
同時に、チェーンソー狂を操作していた馬場 蒼汰も自宅のパソコンの前から姿を消した。
この物語は、余りにもチェーンソーを愛する漢の余りなき数奇な異世界冒険譚である。
家系ラーメン食べたい。
それだけ