【59:お前、彼女できたか?】
「なあひらりん。お前、彼女できたか?」
「なんだよ戸塚、いきなり」
「いや、さっき中島とそんな話になってさ。コイツ、先月彼女と別れたらしいんだよ」
「そうなのか中島?」
「ああ、そうだよ。絶賛、彼女募集中だ」
中島はアハハと豪快に笑った。
落ち込むんじゃなくて、ポジティブなヤツだ。
「そっかぁ。俺は……彼女なんていないよ」
「好きな子くらいいるだろ?」
「いない!」
「そっか。おんなじ会社に素敵な子はいないのか?」
「まあ、それは……いるけどな」
──って言うか、素敵な女性ばかりだ。
でも……
「でも俺なんかが、相手にされるわけないだろ?」
「まあまあひらりん。そんなに落ち込むな。お前は女の子に奥手だからな」
「いや、別に落ち込んではいないけどな」
「実は俺も、今は彼女も好きな子もいないんだ。ということは……だ」
戸塚はなぜか、少し離れたところにいる女子のグループに目を向けた。
スカート短めでちょっと派手めな感じの女子3人が、ワイワイキャイキャイ騒ぎながら、「どこ行く?」とか言っているのが聞こえる。
俺たちよりもちょっと若くて、可愛い感じの子たちだ。
「あの子らに声かけて、一緒に飲みに行こうぜ」
ええーっ!?
な、ナンパ?
戸塚って確かに高校時代からちょっとチャラいやつではあったが……
細身のスタイルで見た目は悪くはないが、ごく普通。イケメンというわけではない。
中島も元ラグビー部らしくワイルドな感じではあるが、フォワード選手でずんぐりした感じ。こちらもブ男ではないにしても、モテ男というタイプではない。
そして俺。
言わずもがなだ。
こんな男3人で、ナンパなんて上手くいくのか?
──って言うか、俺は、ナンパをしてまで女の子と飲みたいなんて思わない。
ナンパした女の子と飲んだって気の利いた話なんかできないし、何を話題にしたらいいのかもよくわからない。
「なあ戸塚。俺は別に男だけでいいよ」
俺はそう言ったが、戸塚は「ふふふ」と不敵な笑みを浮かべた。
「そんなこと言ってるから、彼女の一人もできないんだよひらりん。まあ見とけ。俺が声をかけてきてやる」
そう言い残して戸塚は、ちょっと派手めな女の子3人組に向かって近づいていった。
「おい中島。戸塚のヤツ、大丈夫か?」
「まあ面白いからいいじゃん。上手くいったら出会いがあるかもしれないし、撃沈しても笑い話になるだろ?」
「まあ、そうだけどな、アハハ」
俺と中島が遠くから眺めていると、戸塚は物怖じすることもなく女子に声をかけた。
しかしあまり反応は芳しくないようで、女の子達は顔を横に振ったり、肩をすくめたりしている。
そのうち戸塚は俺たちの方を向いて指差した。
すると女子三人もこちらに目を向ける。
そして……なんだか呆れたような顔をして、首を大きく横に振った。
──あ、フラれた。
別にナンパしたいという気持ちは全然ないけれども、それでもあの反応はちょっと悲しい。品評されて、不合格を突きつけられたということだよな。
戸塚はこちらに向かって、すごすごと戻ってきた。そこに中島が声をかける。
「あはは、玉砕したな戸塚」
「ああ。ダメだったよ。まあ彼女たち可愛いから、ちょっとハードルが高かったかな」
「だな。まあ仕方ないよ。あんな可愛い子達なんだから」
中島がそう言うから、じっと女の子たちの顔を見てみた。
確かに可愛い。
でも……そこそこ可愛い……だよな。
──うわ、いかんいかん。
最近周りに圧倒的な美女ばかりがいるせいで、感覚が狂ってる。彼女もいない俺が、そんな偉そうなことを思ってどうすんだ。
──なんてことを考えていたら、俺たちの横でたむろっていた若い男3人組が動き出して、俺たちの横を通りがかった。
「けっ、ダッセえ……」
「あ~あ、モテない男は可哀想だねぇ」
「ホントホント。大人しくしてりゃいいのに、色気出して声なんかかけるからだよ」
──はぁっ?
と思った時には、もう俺たちの横を通り過ぎて、さっき戸塚が声をかけた女の子たちの方に向かっていた。
三人とも金髪のようなロン毛と、ツンツンヘアでチャラさ満開の男たち。
めちゃくちゃイケメンではないにしても、まあまあカッコいい部類に入るような顔だちをしている。
「なんだよ、あいつら。気分悪いな」
中島が吐き捨てるように言ったあと、「あっ、さっきの子に声かけてるぞ!」と叫んだ。よく見ると確かに、戸塚と同じ女の子をナンパしている。
「フン。あいつらどうせフラれるぞ。 ……って言うか、フラれろフラれろ!」
戸塚が鼻で笑って、酷いことを言っている。
まあ戸塚の気持ちもわかるけど。
だけどチャラ男たちに声を掛けられた女子たちは、さっきと違って嬉しそうだ。
なんだかえらく話が盛り上がっているように見える。
そのうち、彼らは女子男子全員で俺たちの方を振り返って、指を差した。そしてケラケラ笑っている。
「うっわ、なんだあいつら? 俺たちをバカにしてやがるぞ」
戸塚がものすごく悔しそうな声を上げた。中島もそれに同意する。
「ホントだ。気分わっるい奴らだな! くっそ腹立つ!」
「やっぱ俺たちだけで飲み行こうぜ。よくよく考えたら、同級生水いらずの方がいいよな。なあ中島」
「そうだな戸塚。ハハハ……」
確かにそうだ。
同級生水いらずがいい。
さっさと俺たちだけで飲みに行こうぜ……
──と、2人に言おうとした時。
戸塚が、突然素っ頓狂な声を上げた。
「あっ……すっげぇ……美人……」
ん? なんだろ……?
戸塚の視線は、ナンパ男女から少し離れたところを見ている。中島も戸塚に同調するように、呆然としたような声を出した。
「ホントだ。さっきの女の子なんて、比べ物にならないよな戸塚」
「ああ……比べ物にならない……」
「声を掛けて来いよ戸塚」
「バカ言うなよ中島。あんな揃いも揃って美女だなんて、どこかのモデルか芸能人だろ? 俺たちなんて、相手にされるはずがないじゃんか……」
「そ、そりゃそうだ……すまん、戸塚」
俺も戸塚の視線の先を追った。
するとそこにはなんと──
我が社の美女三人が、連れ立って歩いているのが目に入った。
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