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【書籍版タイトル】『実は同じ職場にあなたを好きな人がいます』 ~転勤先は美女だけの営業所!?  作者: 波瀾 紡


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23/128

【23:神宮寺所長。なんだか良い電話だったようですね】

 朝イチはドタバタした雰囲気だったが、それからすぐにみんな仕事モードに入った。そこら辺は、やっぱりさすがみんな社会人だ。


「平林君。先週言ってたほのちゃんとの業績アップ策の打ち合わせは、午前中にはやってくれる?」

「あ、はい」

「午後からは、私が何社か取引先に訪問するから、挨拶も兼ねて平林君に同行してもらうから」

「わかりました」


 所長が外で営業する姿を見せて貰える。これは勉強になりそうだ。楽しみだな。


 俺はそんなことを思いつつ、応接スペースに移動して、ほのかと業績アップ策のミーティングをした。



***


 ほのかとの打ち合わせは、結構意見が衝突するところもあったけど、取り敢えずの方向性は出すことができた。


 ミーティングが終わったらもう昼過ぎだったので、近くの喫茶店で軽くランチを取ってから、オフィスに戻った。打ち合わせ結果を報告しようと所長を見たら、ちょうど電話中だった。


「えっ……? ホントですか? ありがとうございます。あ、はい。わかりました。今からお伺いします!」


 神宮寺所長はなんだか嬉しそうな顔で電話を切った。


「あの、所長。業績アップ策の打ち合わせ結果の報告ですが……」

「あ、平林君。その話は後で聞くわ。ちょっと今から取引先に訪問するから、キミも同行して」

「あ、はい。わかりました」


 慌ただしく外出の準備をする所長に付いてオフィスを出て、営業車に乗り込む。俺が助手席に座り、所長がハンドルを握り、走り出した。

 紺色のスーツに身を包んだ神宮寺所長は、ハンドルを握る姿も様になっている。


「神宮寺所長。なんだか良い電話だったようですね」

「うん、まあね。先週金曜日に断られた大型案件なんだけど、担当者の人から、やっぱり御社にもお願いしたいって」

 

 そう言えば俺の歓迎会に行く前、外出先から帰って来た所長はちょっと不機嫌だった。ほのかに、おっきな商談がダメだったのかと突っ込まれてたな。


「良かったじゃないですか!」

「いえ、まあまだ、良かったとまでは言えないんだけどね」


 そう言って所長が説明してくれた。


 商談先は地元の中堅メーカー、株式会社加賀谷製作所。普段はそんなに多くの採用はないのだけれども、今回新たなプロジェクトの立ち上げに伴い、一度に5人もの採用を考えてるらしい。


 この前ほのかが『おっきな商談』って言ってたけど、まさに大きな話だな。


 先方はウチを含めて3社の人材紹介会社と付き合いがあるが、今回の話では先方の専務の意向で、ウチだけが依頼先から外されたそうだ。


 しかし担当者の総務課長が、やはり他の2社だけで5人もの人材を確保するには不安があるからと、もう一度話をしたいと連絡をくれたらしい。


「専務の意向って……なにかウチが外される理由があったんですか?」

「あ、いや、べ……別に。と、特に何もないわよ」


 どうしたんだろ?

 ハンドルを握りながら答える所長は、いつも見せないような焦った感じで眉をしかめている。


 まあでも、総務課長が前向きな話をしてくれるってんだから良かった。細かいことは気にしないでおくか。


 前を向いて運転する所長の美しく整った横顔を眺めながら、そんなことを考えた。


 うーん、それにしても神宮寺所長って鼻が高いな。鼻筋も通っていて、さすがの美人っぷりだ。襟元でお団子にしたヘアスタイルと相まって、できる女感があふれ出ている。




 先方の事務所に着くと応接室に通された。相手は総務課長の鈴木さん一人。

 歳は50前後だろうか。ちょっと気が弱くて、人の良さそうな眼鏡のおじさん。


 俺が名刺を交換して自己紹介すると、横から神宮寺所長がフォローしてくれる。


「今後はこの平林も色々とお世話になると思いますので、よろしくお願いいたします」

「ああ、はい、鈴木です。こちらこそよろしく」


 お互いに挨拶を交わし、打ち合わせテーブルに座るように促された。俺と所長が並んで座り、その向かい側の椅子に鈴木さんが腰掛ける。


 鈴木さんは一枚の資料を所長に渡した。

 横から覗くと、募集人材の条件が書かれている。


「あのう、鈴木さん。これをいただけるということは、弊社でも人材紹介をさせていただけるのでしょうか? 先日専務さんが弊社には頼まないとおっしゃったのは、方針変更ということでよろしいのでしょうか?」


 所長の言葉に、鈴木さんは少し困ったような表情になった。

 眼鏡の奥の目が、少し情けない感じになっている。


「えっと……あのですね、神宮寺さん。実はまだ正式に御社に依頼すると決まってるわけではないです。けれども他の2社の様子をお聞きすると、どうやら2社で5人全員を確保するのは難しそうなんですよ」

「なるほど。そうなんですか」

「実は、今の段階では御社への依頼は、専務からオーケーが出ていません。だけど、いざ人材が足りないとなってから御社に頼むのは、遅すぎると思いまして……」


 つまり鈴木さんが言うには──


 水面下でウチも人材確保に動いて、他社が紹介する人数が足りない場合に限って、ウチから紹介した候補者と面接を進めたい、ということだった。


 つまりウチは、他社のバックアップ要員ってことだ。いい話だと思ってここまで来たけど、なかなか微妙な話だな。


 鈴木さんの心配もわかるけど、なんでそんな面倒なことをするのか? 普通に、その専務の承諾を取ってくれたらいいのに……


 そんなことを考えながら、所長がどう返事するのか、その横顔を見た。

 所長は「うーん……」と唸りながら、難しい顔をしている。


 ──と、その時。突然応接室のドアがガチャっと開いて、なんだかチャラそうな男が入ってきた。


「あっ、専務!」


 鈴木さんがとても焦った顔で叫んだ。これがくだんの専務か。


 ストライプ柄の高級そうなスーツに、ピシッと決めた髪型。彫りの深いイケメン男。

 歳は30半ばか40くらい。専務だっていうからもっと年配かとイメージしてたけど、案外若い。やり手なんだろうか。


 その専務はニヤニヤしながら、神宮寺所長のモデルのような身体を、頭の上から足先まで舐めるように眺めた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 楽しく読ませていただいております。 やっぱり、変態男への制裁はありきたりではありますが、いいですね。 それとはまた別ですが。 先日の歓迎会で所長だけ別れたシーンですが、あのあとセクハラ展開…
[良い点] これはまた・・・ テンプレートなエロ取引先っぽいのが出てきましたね。 どうせ、麗華さんにセクハラでもして拒否された腹いせでもしてたんでしょう(笑) そして、これは麗華さんがデレるチャンス…
[一言] 何かありそうな
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