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第2話

啓示の入学した高校は有ヶ丘高校。都内でもそこそこの公立進学校で、女子が7割から8割を占めている。女子の部活はどれもかなりの成績を残しているため、女子にとっては憧れの高校のひとつ。制服が可愛いのも人気の理由の一ひとつである。

逆に男子にとっては女子が多いし、部活もたいしたことがなく、そこそこの学力が要求されるため、自分の学力と同じぐらいでないと、まず進学してこない。



◇◇◇◇


「啓示はほんとに有ヶ丘でよかったの?」


通学途中で不安そうに啓示に問いかけているのは啓示の姉の谷崎桃花(たにさきとうか)。小学生の時から野球を始め、中学では部活で野球をしていて、チームのエースとして活躍し、高校女子野球で名の知れたいくつかの学校から推薦の話が来ていたほどだった。

有ヶ丘の女子野球部は高校女子野球関東大会ベスト8に入る中堅校。桃花は1年生ながらリリーフピッチャーとして活躍し、昨年女子秋季大会からエースとともに2枚看板の一角を担っている有望株選手(プロスペクト)


彼女が不安になっているのは啓示の進路の選択に対し必要以上に有ヶ丘を勧め、啓示の選択を供用させてしまったのではないか、本人が自覚していないだけで啓示の将来性を潰してしっまったのではないのか、と。全ては自分がプロに行くため。そのために。


「何回聞くんだ、姉さん。言ったはずだ。俺の道は俺が決めると。それに姉さんには感謝してるんだ。姉さんのおかげであの監督と出会えたからな」

「それもそうだね。私のおかげだね!」

「相変わらず現金だな」

「別にいいでしょ。私のおかげなんだから。それよりクラスが何組か早く見てきてよ」

「ああ」


啓示は校舎の掲示板の前の人だかりをかき分け、自分のクラスを確認する。


「何組だった?」

「2組」

「じゃあ、ホームルームが終わった頃ぐらいに迎えに行くから」

「ん?何訳のわからんことを言ってんだ。今日は家に直帰「そういうことだから、よろしくね~」……マジか……よし、帰るか」



◇◇◇◇


ホームルームが終わり、クラスではすでにいくつかのグループができており教室から出ようと準備しているのは啓示だけで明らかに浮いている。そんなことは気にもとめず急いで帰ろうとする。が、啓示の行動はすぐに阻まれた。


「なあ、お前谷崎だろ。去年シニアで全国制覇したチームでキャッチャーやってた」


後ろから聞こえた声で啓示が振り返ると見たことのない顔がニコニコしていた。


「そうだが、誰だ?」

「誰だはないだろ~。中2の時同じクラスだった松波だよ、ま~つ~な~み。ついさっきホームルームで自己紹介しただろ、聞いてなかったのか?」


啓示は無言になり少し考え込み、再び帰ろうとする。


「覚えてる覚えてる、松波だろ」

「じゃあ下の名前言ってみろよ」


啓示が再び無言になると、松波の声が大きかったからか松波の社交性の高さからかはたまた松波の容姿が整っているからか周りに人が集まり出す。


「ねぇねぇ龍二(りゅうじ)君、どうかしたの?」「龍二君。谷崎君ってすごいの?」「松波君は谷崎君と仲いいの?」「松波君。谷崎君はどんな人なの?」

(この隙に帰るか……松波龍二だったのか)


松波がクラスの女子に絡まれている間にそそくさと帰ろうと試みる。

が、啓示の試みは失敗に終わる。


ガラガラガラッ!

「啓示~!迎えに来たよ~!」


桃花の声が教室に響き渡り、啓示の表情が一気に曇る。

と同時に教室にいる全員の視線が啓示に集まる。


「何をしに来た、姉さん。今帰ろうと思ってたんだが」

「そんなこと言わずに今から野球部に行くわよ」

「また訳のわからないことを」


新入生の入部は明日から行われる勧誘や入部体験などに従って配られる入部届をもらってからということになっている。


「入部は無理でも体験だったら大丈夫でしょ!」

「許可は?」

「ない」


自信満々で答える桃花に啓示は頭を抱える。

桃花はやりたいことをすぐに実行できる行動力は素晴らしい。が、その際、止めることはできない上、誰にも許可をとらず勝手にやってしまうため、巻き込まれる方は非常に苦労を強いられる。


「帰……グェ「じゃあ早速レッツゴー!!」」


桃花は啓示の制服の襟を掴み、引きずりながら強制連行する。


(今ならドナドナされる気持ちがわかる気がする)



◇◇◇◇


桃花に強制連行されてグラウンドに行くとすでに野球部員と思われる人たちがちらほら見受けられる。だが、女子しかいないことに啓示は若干の違和感を感じる。


「姉さん、男子はどこに?」

「今日は男女ともに休みだから男子は来ないよ」

「じゃあなぜ女子はいる?」

「自主練だよ。うちはそこそこ強いから練習が休みでもこうやって来れる人だけ集まって練習するんだよ」

「そういう差か」

「どういうこと?」


啓示は怒りのようなあきれのような気持ちで答える。


「野球に限らず他のスポーツや勉学、仕事であっても同じように取り組みに対する意識の差は思っている以上に結果に表れる。その意識の差を埋めることは簡単なようで難しい。高校生は良くも悪くも現実主義なことが多いからな。強豪校と弱小校の違いは才能の差や練習量の差はもちろんだが、この二つの差の根本にあるのが意識の差。意識が低いから自分の才能はこの程度だと決めつけ、そして意識が低いから練習が休みの時、自主練をせず帰る。だから弱い。だが、弱小校は自分たちの意識が低いことはわかってない。いや、わかりたくないんだろう。だからこそうちの高校は女子が強くて男子が弱い」

「でも、啓示はそんなチームでも甲子園に行くんでしょ」

「当然」


改めて覚悟を決めて啓示は桃花とグラウンドに入る。

弱小校のわりには両翼90メートル、センター110メートル、二人用のブルペン、ナイター設備付きのグラウンド。屋根付きのベンチもある。


「なぜ公立なのにグラウンドがこんなに立派なんだ?」

「野球部専用のグラウンドが1つ作って、男女合同で練習した方が他のクラブに迷惑もかけないから。それに女子はいい線いってるかららしいよ」

(男子は女子のおかげでグラウンドで練習できてる訳か……)

「啓示はここでまっててね」


そう啓示に言いベンチに駆け寄っていき、先輩らしき人と話をつけすぐに戻ってくる。


「OKだって。まず挨拶行こ」


桃花に引っ張られ啓示は先輩に挨拶に行く。


「谷崎啓示です。よろしくお願いします」

「君が啓示君ね。桃花から話は聞いてたわ。私は伊藤希美。よろしくね。今日は自主練で男子はいないからやりにくいと思うけど、楽しんでいってね」

「はい」

「早くブルペン行こ、啓示」

「他の人の挨拶まだだろ」

「そんなのは後でやればいいからさ」

「それで大丈夫だから早くブルペンに行ってあげて」

「では、失礼します」


希美への挨拶を済ませ、桃花の後に続いてブルペンへ行く。

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