第1話
「啓示、本当にそんなとこでいいのか」
シニアチームの監督から谷崎啓示に何度目かもわからない進路の確認がなされる。
「監督、何度聞かれたって進路を変えるつもりはありませんよ」
「そうか、お前ほどの実力があればどこの高校にいってもスタメンになれるとだろうし、プロにだってなれるかもしれないってのに」
監督の言う通り啓示は強肩強打の捕手で高いキャッチング技術を誇る選手である。さらに、啓示の所属するシニアチームは全国でベスト4には常に入る常勝チーム。そんなチームでスタメンに入っているだけでどこかしらから推薦の話は来る。啓示にも20~30の学校から推薦の話は来ている。
「前から言っていますが、俺に才能なんてものはないんですよ。それに俺のやりたい野球と推薦の話が来ている学校の目指す野球は違いますし、そもそも推薦組とはうまくやっていく自信がありませんから」
啓示は自虐気味に言うが、監督はいまいち腑に落ちないといった表情を浮かべながらタバコに火をつける。
「はあ~。お前はそう言うが俺達がそうは思わないんだよ。自分でわかってないだけでお前に才能はあるし、キャプテンとしてチームのみんなともうまくやってたじゃねえか」
「キャプテンとして俺にできたことは天才たちをまとめるんじゃなくて、ぶつかり合わないようにしたり、ぶつかり合ったときに緩和剤になったことぐらいですよ。まあ、そもそも相性が悪いんですよ。感覚だけでプレーする天才たちとは。そんな奴らの巣窟にわざわざ自分からいくような馬鹿ではないんで」
「だからってわざわざ毎年1回戦敗退の学校にいくことはねえだろ。そこそこの学校でいいんじゃねえのか」
「それに関しては聞かないでください。答えるつもりがありませんので。それと、この面談ももうこれで終わりにしてください。これ以上の話し合いは意味ないんで。失礼しました」
「おい待て啓示!勝手に終わらせんな!」
監督の制止を無視して、面談を強制的に終わらせて立ち去る。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「おーい!啓示!」
声の主は啓示と同じシニアチームのエースで4番の白井涼。サウスポーながら140キロを超えるストレート、切れ抜群のスライダー、緩急をつけるカーブ、芯を外すツーシームの4つの球種を操る正真正銘の天才ピッチャー。さらに、中学通算打率5割越え、中学通算ホームラン34本の最強スラッガー。
涼はすでに大阪の名門校である桜坂高校への推薦組。
「啓示はどこの学校行くか決めたか?まだなら俺と同じ桜坂に一緒に行こうぜ。啓示も桜坂から推薦来てるんだろ」
「推薦は来てるが行かない。どこに行くかも教えるつもりはない」
「相変わらず冷たいやつだな。啓示と一緒なら甲子園でも優勝する自信あったんだけどな」
「涼ならどこ行っても甲子園で優勝できると思うがな」
啓示は適当に涼をあしらい、家に帰ろうとする。
「涼、最後に1つ言っておく。
甲子園で待っていろ。必ず『お前たち』を倒してやる」
「啓示。
いつでもかかってこい。返り討ちにしてやる」