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第一話 神将は難題を抱えて前を向く ⑥

「はあぁぁ──っ!? 大国の姫様を旦那の嫁として(あて)がうから、それを了承してくれと頼まれたですってぇ! クレア! アンタ馬鹿なのっ!?」


 のっけからヒルデガルド旋風が吹き荒れたものの、それもクレアとオリヴィアがお茶の支度を整えた頃には落ち着き、五人だけの女子会(?)が始まった。

 最初は御手製のスイーツを堪能(たんのう)しながら、()(さわ)りのない話題で盛り上がっていたのだが……。

 頃合いを見てクレアが切り出した相談を聞いた志保の雄叫びが()れである。


「そっ、そんなに怒鳴らなくてもいいじゃないの……」


 頭ごなしに罵声を浴びせられたクレアが、何処(どこ)か遠慮がちに反論しようとしたのだが、その煮え切らない態度が更に志保を(いきどお)らせてしまう。


「馬鹿を馬鹿と言って何が悪いのよ? 大体ねぇ! どこの世界に旦那に愛人を斡旋(あっせん)する女房がいるっていうのよ!?」


 その剣幕に腰が引けながらも苦笑いするしかないクレアは、緊張感の欠片(かけら)もない台詞を口にして更に志保を呆れさせた。


「いっ、いやぁぁ……お姫様と私じゃ身分に差があり過ぎるものぉ……この場合は私の方が愛人かしら……ねぇ? あははは」


 本当に現状を理解しているのか疑わしい腐れ縁の態度が信じられず、志保は眉間に(しわ)を寄せて益々声を荒げてしまう。


「そんな能天気な事を言ってる場合じゃないでしょう? お人好しも大概(たいがい)にしなさいよクレア! 大体、何でアンタがそんな巫山戯(ふざけ)た話を真に受けているのよっ? キッパリ断ればいいでしょーがっ!」


 お堅い良識派の親友がこんな戯言(たわごと)で真剣に悩んでいるという事からして志保には理解できず、それ(ゆえ)(いきどお)りは増すばかりだ。

 しかし、更に罵声を浴びせようとした志保を、横合いから投げ掛けられた言葉が押し止めた。


「まぁ待ちなさいよ。そうキャンキャン(まく)し立てたのでは、まともな話し合いにはならないわ……少し冷静になって情報を整理しましょう」


 (たかぶ)る感情に(まか)せて言い(つの)ろうとする友人を止めたのはエレオノーラだ。

 不満げな表情を見せながらも、忠告を受け入れた志保は押し黙る。


「一応確認しますけど、殿下はこの件を御存じだったのですか?」


 志保が怒りを呑み込んでくれた事に感謝したエレオノーラは、素知らぬ顔をしてスィーツを堪能(たんのう)しているヒルデガルドに質問の矛先(ほこさき)を向けた。


「ふむっ……クレア君にシアを引き合わせたのはボクだからね。勿論(もちろん)、全て知っていたさ」


 アッサリと白状した殿下の態度に拍子抜けしたものの、隠し立てする気はない様なので余計な文句は言わないでおく。


「ここに顔を(そろ)えているのは皆同志みたいなものだし……ネタバレさせても問題はないだろう。それに何時(いつ)までも隠してはおけないからねぇ」


 ヒルデガルドはそう言うや、アナスタシアの真意を包み隠さず説明した。

 彼女の口から語られる内容にクレアや志保は当然、貴族社会の事情に精通しているエレオノーラやオリヴィアまでが驚きを(あらわ)にする。


「サクヤ姫を達也の伴侶に押し込む為だけに今回の【神将】騒動を引き起こしたのですか?」


 呆れた顔で非難めいた声を上げるエレオノーラに待ったを掛けたのは、他でもないヒルデガルド本人だった。


「誤解しないでやってくれ給え。孫娘同然に可愛がっている第一皇女……サクヤ姫の慕情を叶えてやる為だけに、シアは今回の策謀(さくぼう)を画策したわけではないよ」

「そうは仰られてもねぇ。私のような庶民から見れば、貴族様の我儘(わがまま)にしか見えませんけれど?」

「し、志保ったらっ! もっ、申し訳ありません、殿下」


 不愉快な感情を隠そうともせずに悪態をつく腐れ縁をクレアは慌てて(とが)めてから謝罪したが、ヒルデガルドは気にした風もなく笑顔でヒラヒラと手を振った。


「大丈夫だよクレア君。志保君は親友として君の立場を擁護(ようご)する為に、(わざ)とキツイ言葉を使って文句を言っているのさぁ。いいよねぇ~信頼出来る親友同士って! 志保君の男前な所、ボクは大いに気に入ってしまったよん!」


 本心を見透かされ照れ臭いのだろう、そっぽを向いている志保の頬が赤く染まっているのに気付いたクレアは、彼女の心遣いとヒルデガルドの寛容さに心から感謝する他はなかった。


「まぁ、軍政改革を(こころざ)すには、銀河連邦内に巣食う貴族勢力と全面戦争をする覚悟が必要だからねぇ。軍の重要ポストをひとつ貰った所でどうにもなりはしないさ。だからこそ、軍や政権から一定の距離を置いた場所で、新しい勢力を立ち上げるしかない……その為の隠し玉がサクヤ姫という訳なんだよん」


 隠し玉と言われてもピンと来ない面々を代表し、サクヤの為人(ひととなり)を知るオリヴィアが小首を(かし)げながら(たず)ねた。


「サクヤ様が『朝露の妖精』と呼ばれるほど臣民の間で人気のある皇女殿下であらせられるのは存じておりますが……その御方が隠し玉とは?」

「彼女は幼少の頃からシアに師事していてね。様々な分野の英才教育を受けているんだよん。あの鬼婆(アナスタシア)が義弟でもある先代皇王に、『サクヤは他家に嫁がせるのではなく、役立たずの馬鹿でも構わないから婿を取らせて皇国に留め。いずれは宰相に任じなさい』と(なか)ば命令したほどの逸材(いつざい)なんだ」


 ヒルデガルドの言葉に一同は顔を見合わせて驚きを(あらわ)にするしかない。


「私も何度か拝謁させて戴きましたが……あんなフワフワしたお姫様がねぇ~? アナスタシア様の後継に()される様な政治巧者には見えませんでしたが」


 半信半疑でそう(うめ)くエレオノーラにヒルデガルドは苦笑いを返す。


「才能と努力に反して自分の事となると小心者でねぇ。シアが(なげ)いていたよん。『本気で愛しているのなら、さっさと想いを告げれば良いものを』とね……達也と顔を会わせても、モジモジしているだけで(ろく)に会話にもならなかったらしいのさ」


 その言葉に率直(そっちょく)な疑問を(いだ)いた志保は、臆面もなく失礼な台詞を口にした。


「でも分からないのは、そんな大国のスーパーお姫様が、ひと回り近くも年上で、(しか)も、見た目は海賊並みに強面の彼に()れるのかって事よね?」

「志保ぉ~やっぱりアンタもそう思うでしょう? 大体さぁ。十代の恋する女の子の反応なんて分かり過ぎる位に分かり(やす)い筈なのよ? それなのに姫様の想いにも気付かないなんて、(いく)ら朴念仁といっても限度があるでしょうにねぇ、達也の奴」


 志保の卑下する気満々の物言いに、エレオノーラも容赦ない嘲笑で応える。

 そんな彼女達に剣呑(けんのん)な視線を投げるクレアの様子にハラハラしながらも、何とか流血沙汰だけは避けようとするオリヴィアが口を(はさ)んだ。


「ガリュード様の下でずっと従卒を務めていらした時も『日雇い提督』と揶揄(やゆ)されていた時も、愚痴一つ(こぼ)さず懸命に軍務に励んでおられたのですから致し方ないと思います。サクヤ姫も、彼のそういう所を好ましく思われたのではないかしら?」


 さすがにラインハルトの妻だけあって、如才無い女性である。

 しかし、意外な事に彼女の言葉に小首を(かし)げたのはクレアだった。


「あのぉ、オリヴィアさん。『日雇い提督』とは? 以前にも聞いた事がある言葉なのですが、意味が良く分からなくて」


 恐る恐るといった彼女の問いに、オリヴィアに代わってエレオノーラが答える。


「『日雇い提督』というのはね、直率する艦艇を一隻も与えられず、手荷物ひとつ持たされて銀河中の戦場をタライ廻しにされる臨時司令官を揶揄(やゆ)した蔑称(べっしょう)よ。主に平民出身の将官に対する嫌がらせの一種ね」

「うっわぁぁ~~~悲惨ねぇ! 何のイジメなのよそれ?」


 顔を(しか)める志保が大袈裟(おおげさ)に両手を広げて見せれば、クレアも表情を曇らせて黙り込んでしまう。

 その予想通りの反応を示すふたりを見たエレオノーラとオリヴィアは、顔を見合わせ意味深な笑みを浮かべて説明を続けた。


「普通なら生意気な平民将官に対する嫌がらせ以外の何物でもないわ。タライ廻しにされる本人も、そんな疫病神みたいな臨時指揮官の下で戦わされる将兵達も悲惨な目に遭うだけよ。でもね、アイツは違ったわ……二年間で渡り歩いた戦場は五十以上。その全ての戦いを勝利に導いたのよ」

「うちの主人など『アイツは本当に軍神の化身じゃないのか?』と、常々そう言っていました。達也さんは本当に御立派です。銀河連邦軍を代表する司令官になったのですから。御自分の御栄達を投げ打たれたガリュード様も、さぞ御喜びになられているに違いありませんわ」


 まるで我が事の様に達也の功績を語る二人が本当に得意げなのを見て、クレアも嬉しくなってしまう。


「そのガリュード様というのは、彼が配属されていた艦隊の司令官で大恩人だった人よね? オリヴィアさんが言った『栄達を投げ打った』っていうのは?」


 志保が再度問うと、当時彼らの(そば)に居たエレオノーラが答える。


「ガリュード閣下は【冥府の金獅子】と異名をとった名将だったわ。閣下の下にはイェーガー准将を筆頭に、銀河連邦軍でも名の通った指揮官が大勢いたのだけど、閣下は傭兵上がりの達也に特に目を掛けておられてね……」


 何処(どこ)(なつ)かしむかの様に当時を回想する彼女は言葉を続ける。


「一部の例外を除き、傭兵から任官された士官は最終階級は少佐止まりという規則があるのだけど、達也の才能を惜しんだ閣下が、『自分の功績と引き換えにしても構わないから特例の昇進を認めろ』と軍上層部を説得なされたのよ。本来ならば、勇退なさらなくても上級ポストに就けた筈なのに……」


 どんな組織に()いても権力闘争は日常茶飯事であり、平和と秩序の護り手である銀河連邦宇宙軍でもそれは変わらない。

 当時中立派と目されていたガリュードの進退は、軍の実権を握る貴族派の隆盛を左右する一大事であり、彼の重要ポストへの就任は何としてでも阻止したいというのが、貴族閥を牛耳る面々の本音だった。

 それ(ゆえ)に当時無名に近かった白銀達也という士官の処遇に対し、特例処置を認める程度で、目障(めざわ)りなガリュードを予備役送りにできるのならば万々歳とばかりに、貴族派は彼の要求を受け入れたのだ。

 その様な経緯(いきさつ)を初めて知ったクレアは、夫である達也に肉親の情にも勝る厚情を惜しみなく注いでくれた、ガリュードとアナスタシア夫妻に心から尊敬の念を(いだ)き深く感謝したのである。


「なるほどねぇ~~立派な方もいらしたもんだわ。うちの上層部にガリュード閣下の爪の(あか)(せん)じて飲ませたいもんだわ。それでぇ、そんな白銀提督の活躍を知ったお姫様が彼に惚れてしまったと?」


 感心したように(うな)っていた志保が早々に結論を口にすると、ヒルデガルドがそれに待ったを掛けた。


「そんなに単純な話じゃないんだなこれが。確かに達也は十年以上前から皇王家の人々と交流はあった。だが、他の子供達からのウケは良かったんだが、サクヤ姫は引っ込み思案な性格からか、最初は軍人である達也を怖がっていたとシアが言っていたよ」

「へぇ~~それは仕方がないわね……あの鬼瓦みたいな顔だもん」


 志保が悪戯っぽく笑って茶々を入れると、低くドスの利いたクレアの声。


「志保……次に達也さんの顔を悪く言ったら……叩き出すからね」


 目がマジだった……。

 首を(すく)めて顔を背ける志保を(かば)うようにヒルデガルドが言葉を続ける。


「切っ掛けは、サクヤ姫が九歳の頃に遭遇した誘拐事件だったと聞いているよん。親善目的で他星に(おもむ)く姫の船を国軍の下級士官達が襲撃して身柄を拘束。皇王家に自分達の要求を突き付けた……そして、その船に単身乗り込んで反乱士官達を鎮圧して姫を救出したのが、休暇でランズベルグを訪れていた達也だったのさ」

「なるほどねぇ。達也が当時の事を話したがらないものだから、私も初めて詳細を知りましたけれど、とどのつまりは、サクヤ姫の白馬の王子様願望が花開いた結果なのですね?」


 納得した様なエレオノーラのその問いに、腕組みをして頭を(かし)げるヒルデガルドは、珍しくも歯切れが悪い台詞を口にする。


「う~~ん……そう考えるのが普通なんだがねぇ。シアなら詳しい事情を知っているかも知れないが、ボクはこれ以上の事はさっぱりだよん」


 サクヤ姫の真意までは知らないらしく、ヒルデガルドはそのまま口を閉じた。

 (しば)しの沈黙がサンルームに流れたのだが、直ぐに腐れ縁の遠慮ない言葉がクレアに投げ掛けられる。


「それで? 泰然(たいぜん)と構えているアンタはどうしたいのよ? そもそも、こんな馬鹿げた話を真に受ける必要はないじゃない。アンタの旦那に対する愛なんて、所詮(しょせん)はそんな物だったのかしら?」


 挑発そのものの言い方だが、クレアは口元を(ほころ)ばせて正直な気持ちを吐露(とろ)した。


「心配してくれてありがとうね志保。達也さんに対する愛情なら私は誰にも負けないつもりよ……正直なところ嫉妬しないと言えば嘘になるわ。だって、記念式典に御臨席された時の姫様の映像を拝見したけど……凄く可愛らしくて初々しい御方なのよ。私なんかオバサンだし……勝ち目は薄いわね」


 後半の部分で溜息を吐くクレアのピントがズレた物言いに呆れた志保は、半眼で(にら)みつけて()かすように(まく)し立てる。


「この状況で巫山戯(ふざけ)るなんてアンタも大概(たいがい)よね? いったい何を言いたいのよ?」


 そう問われたクレアの顔から笑みが消えて真摯(しんし)なものに変化し、口調にも凛然(りんぜん)としたニュアンスが混じった。


「私のような者に頭を御下げになられたのよ……アナスタシア様がね。(しか)も土下座よ? ビックリして息が止まるかと思ったわ」


 その時の事を思い出したのか、恐縮した表情で苦笑いを滲ませるクレア。

 その話にヒルデガルド以外の全員が吃驚(きっきょう)して言葉を失ってしまう。


『どれほど無礼極まる願いを強要しているかは重々承知しています。ですが貴女に(すが)るしか手段はないの……どうか。どうか……』


 土下座までして懇願するアナスタシアの姿は、計算高い為政者のそれではなく、身内の行く末を心の底から案じている人間の姿に他ならなかった。

 少なくともクレアにはそう見えたのである。


「アナスタシア様は私などとは比べるまでもない高貴な御方よ。(しか)も、銀河連邦史に名を残されるような輝かしい実績を御持ちの御方だから懇願する必要はないわ。一言命令すれば済むもの……恐らく達也さんも最後は拒めない筈。でも、あの御方は、そうはなさらなかった」


 一旦言葉を切って軽く(かぶり)を振り優しい笑みを浮かべるクレア。


「大切に想っている姫様の幸せの為に、頭を下げる必要もない私に礼を尽くされたアナスタシア様の……その御心を大切にしたいのよ。あの御方の想いを知ってしまった以上、このお話を拒むのは、私には無理。それにね……」

「何よ? 言いたい事があるのなら、最後まで言ってしまいなさいよ」

「うん……もしもよ? 達也さんがガリュード様やアナスタシア様の御厚情を(たまわ)っていなければ、育ての親同然の由紀恵さんに対する罪悪感を(いだ)いていた彼は、地球には戻って来なかったかもしれない……」


 両親を殺した海賊に復讐する為に、自分を育ててくれた人々の制止を振り切って地球を飛び出し軍人になった達也は、その事で長い月日を悔恨(かいこん)の情に囚われて生きて来た。

 クレアの言う通り、ガリュードやラインハルトらとの出逢いがなければ、地球に帰ったかどうかは、かなり怪しいと言えるだろう。


「でも、私は達也さんに出逢えて愛し合い……そして結ばれた。それは彼が大勢の方々に救われた結果だと思うの。だったら、せめて御恩返しをしなければ……そうでないと、私は唯の恩知らずになってしまうもの」


 何処(どこ)か吹っ切れた表情で微笑む親友に、志保は手遅れだと言わんばかりにお手上げのポーズ。


「あぁ~~ぁ……昔から少しも変わらないわねぇ。馬鹿がつくほどのお人好しで、貧乏くじを引きまくる超絶不幸体質。確かにアンタ達は似た者夫婦だわ。そこまで覚悟を決めているのなら好きにすればいい。それで大切な旦那を若い愛人に奪われた時には、皆で大笑いしてあげるんだからね」

「ふふふ……褒め言葉と受け取っておくわ。志保なら背中を押してくれると思っていた……ありがとうね」

「うわぁ~~変な所でポジティブなんだから始末に悪いわ! いつまでも私が助けてやれる訳じゃないんだから、もっと欲深くなりなさいよ! エレン。この馬鹿の面倒見てやってよね? でないと先々が心配で夜も眠れなくなりそうよ」

「やあぁ~~よ! 『愛している』とか『結ばれた』とか平気で惚気(のろけ)るチョロインの面倒なんか見てられないわ。私は寂しい独り身なんですからね。真っ平ごめんですぅ~~!」


 嫌味満載のやり取りも、必要以上に気を遣わせまいという配慮が透けて見えて、本当に自分は良き友人に恵まれているのだとクレアは感謝する。

 すると、上手い具合に話が(まと)まったのに気を良くしたのか、ヒルデガルドが踏ん反り返って呵々大笑(かかたいしょう)するや、自画自賛を始めた。


「いやあぁ~~~! 今回もボクはイイ仕事をしたよねぇ! まさしくぅっ! 『白銀家最高顧問』の面目躍如(めんもくやくじょ)たる仕事ぶりだよんっ! クレア君っ! 君たちは本当にラッキーなんだよ? ボクがいる限り白銀家は安泰さっ! それでだね……謝礼なんて大袈裟(おおげさ)なことは言わないよ。豪華な食事三食+オヤツ二食で手を打とうじゃないかっ! あぁッ! 勘違いしないでくれよ、一回限りの御褒美じゃないからね? 今日から毎食だからぁ~! くうぅ~なんて謙虚(けんきょ)なんだいボクはッ!」


 速射砲の(ごと)一気呵成(いっきかせい)に捲し立てたヒルデガルドは、この図々しくも厚かましい要求が、当然の(ごと)くに受け入れられると信じて疑わなかったのだが……。


「その最高顧問就任とやらは主人に許可を取ってからにして下さいね……私は知りませんから」


 そう言って平然と拒絶するクレアの前に、()え無く玉砕してしまうのだった。


「ぴいぃぃ──ッッ! そんな殺生なぁぁッ! あのケチンボ達也がOKする筈がないじゃないかぁ。クレアくぅん! 助けておくれよぅ。でないとボクは住所不定無職だよぉぉんッ!」


 威厳も何もない情けない悲鳴がサンルームに木霊(こだま)する。

 ヒルデガルドが最高顧問に就任するには、まだまだ高いハードルを越えなければならないようだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ど、土下座!!? 同じ女として……恥をかかせるワケにはいかぬね! こりゃあ了承するしかないわ。 それからヒルデ殿下。 全てをぶち壊す空気ブレイカーよ(゜Д゜;) ただ経緯を説明しただけ…
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