第九十話 デッドライン ⑥
「各艦隊は突撃する白銀艦隊の援護を! 散開して進路上の敵艦を叩けッ!」
余りにも短兵急な展開に戸惑ったのはグランローデン帝国軍艦隊も同じだ。
しかし、実兄リオンが画策したクーデターの最中に祖国を追われて以降、様々な艱難辛苦を乗り越えて成長したセリスは、微動だにもせずに最善手を打つ。
(位置取りが悪すぎて追随するのは不可能だ……ならば援護射撃に徹して敵戦力を削るしかない。一隻でも多く潰せば、必ず血路は拓けるはずッ!)
劣勢を余儀なくされ戦意を喪失しつつあった敵艦隊へ、更なる痛撃を与えるべく攻勢を強めようとしていた矢先の急変だった為、梁山泊軍艦隊の後を追ったところで連携の取れた艦隊行動など望むべくもなかった。
然も、敵艦からの反撃も考慮しながらの追撃戦では、砲撃の精度が大幅に落ちて牽制の効果すら期待できない恐れは多分にある。
だから、散開して優位な射撃ポイントを確保し、火力を集中させた方が効果的な援護ができると判断したセリスは、脚を止めての撃ち合いを選択したのだ。
当然だが、戦場の後方に位置しているとはいえ、被る損害が甚大なものになるのは避けられない。
敵艦隊は未だに半数以上の戦力を保持しており、それらが一切の逡巡を排除して迎撃戦に専心するのだから、その攻撃が苛烈を極めるのは容易に想像できた。
艦を操るのが人ならば付け込む隙は幾らでも作り出せるが、感情とは無縁のAIが相手では、楽観的な展開を期待するのは難しいと言わざるを得ないだろう。
しかし、どれ程の損害を被っても引き下がる訳にはいかないのだ。
(情を解さぬAIが支配する世界に人間の居場所はない。そんな未来を座して甘受したとあっては、亡き父に合わせる顔がなくなってしまう。況してや塗炭の苦しみを強いた帝国臣民に更なる辛酸を嘗めさせるなど断じて御免被る!)
「ここで決めるぞ。余力を残す必要はない。ありったけの火力を叩きつけろ!」
セリスの大喝に応えるかの様に帝国軍艦隊の火砲が激しさを増した。
◇◆◇◆◇
まるで手を伸ばせば触れられそうな指呼の間にアスピディスケ・ベースはあり、幸いにも撃破すべきターゲットの場所も特定できている。
ラインハルトやエレオノーラを始め元銀河連邦軍の軍人だった士官たちならば、本部要塞だったアスピディスケ・ベースの内部構造は熟知しており、攻略そのものは然して難しくはなかった。
問題は如何にして目標へ辿り着くか……ただそれだけだ。
梁山泊軍艦隊と要塞を隔てている宙域は雲霞の如き敵艦船群で埋め尽くされており、突破が容易でないのは一目瞭然。
然も、目的を果たす為ならば、損害も乗員の生命に対する配慮も一切を顧みないAIが指揮権を掌握した以上、その攻撃が苛烈を極めるのは想像に難くない。
どれほど優れた指揮官であっても、難しい局面に遭遇すれば刹那の迷いに躊躇う事もあるだろうし、経験値が低い下士官ならば尚更だろう。
だが、そんな事象とは無縁のAIにとって、戦闘とは勝つべくして勝つものであり、其処には妥協も忖度も有り得ない。
有るのは、状況分析によって弾き出された効率重視の戦術だけだ。
これまでの戦闘で大きな被害を出しているとはいえ、未だに総戦力では梁山泊軍を上回っているのだから、密集陣形を敷いて全力で敵を迎え撃てばいい。
既に白銀マジックの種は尽きており、正攻法での力押しが最も合理的。
そんなAIの思惑が透けて見える敵艦隊の陣形は、寡兵の梁山泊軍艦隊にとって脅威以外の何ものでもなかった。
しかし、虎口へ飛び込むに等しい暴挙を決断したエレオノーラに迷いはない。
「目標は艦船用ドッキング・ベイの中心部に位置する〝ダイヤモンド・ポート”! その奥にある情報システムの中枢部をブロックごと破壊する!」
その大喝と同時に武蔵を先頭に、長門、金剛、飛騨、甲斐の大和型五隻が形振り構わぬ疾走を開始した。
それは艦隊戦に於けるセオリーを無視した殴り込みであり、防御をかなぐり捨てた弩級戦艦群は、血路を切り開かんと遮二無二ひた走る。
当然だが敵艦隊からの反撃も熾烈を極め、視界を埋め尽くす程のビームが烈火の如き勢いで船体に突き刺さるが、その猛威にも大和級の装甲は耐えてみせた。
そして、防御系のシステムに必要なエネルギーをも艦首陽電子砲へのチャージへ廻した決断が実を結ぶ。
「〝建御雷“発射あぁぁぁ──ッ!!」
エレオノーラの雄叫びと同時に五隻の艦首陽電子砲が吠え、五条の高エネルギーが融合した光線束が敵艦隊中央部に穴を穿つ。
だが、苛烈な攻撃を甘受した代償は大きく、武蔵を始め他の四隻の大和級も既に半死半生という有り様だ。
どの艦も数十秒後には爆散して果てるしかないのは火を見るよりも明らかだが、元より覚悟の上の特攻だったのだから、エレオノーラに悔いはなかった。
(あとは体当たりをぶちかまして突破口を押し広げるだけよ)
だが、ガリュード艦隊で共に同じ釜の飯を食って来た他の大和級を指揮する戦友らにしてみれば、年下の艦隊司令官に楽をさせる気は毛頭ないらいしく、実にサバサバした表情で軽口を叩く。
『エレン! お前さんの死に場所は、もう少しだけ後だ』
『そうそう。年長者の俺らが先……分かってんだろう?』
『何よりも、あの跳ねっ返り娘の手綱はアンタしか握れやしない』
『大和を頼んだぜ。俺達の分まで……必ずな!』
長門、金剛、飛騨、甲斐。
各艦の艦長からの檄だけを遺した四隻の大和級は、武蔵の進路を阻むようにして前に出るや、雨霰と降り注ぐ砲火をものともせずに突進する。
そして、陽電子砲で撃ち抜いて出来た活路に飛び込んだと同時に爆散して果てるのだった。
だが、弩級戦艦の爆発の余波は、敵艦隊へ甚大な被害を齎す。
その爆散に翻弄された数十隻もの敵艦船は、近在に陣取っていた他の護衛艦をも巻き込んで次々と大破爆沈していく。
その様子を見つめるしかないエレオノーラの表情には濃い哀惜の情が滲んでおり、そんな彼女は唯一言だけ惜別の言葉を呟いた。
「イイ格好しいのお調子者共め……先にイェーガー閣下の御傍へ行ってなさい……私も直ぐに手土産をたくさん抱えて逝くからさ……」
※※※
丁度同じ頃、詩織が指揮する大和艦橋は混乱の極みにあった。
「長門、金剛、飛騨、甲斐 爆沈! 敵艦隊状況混乱! 突破口が開きました!」
「味方護衛艦群は奮戦するも、その数を急速に減らしつつあり!」
「通常空間へ現出したイ号潜全艦が敵艦隊へ突撃を敢行します!」
「我が艦隊は敵艦船群中央を進攻中! 突破まで約60秒!」
オペレーター達の悲鳴にも似た声に詩織は沈痛な表情で唇を噛むしかなかった。
全ての残存艦艇が一塊の巨大な砲弾となり、死臭が蔓延する戦場を疾駆する。
しかし、数で勝る敵艦隊からの砲火は熾烈を極め、味方艦隊はその外殻に位置する艦から次々と被弾して脱落していく。
そんな状況にありながらも、周囲を僚艦による壁に覆われている大和は、反撃も儘ならずに流れに身を任せるしかないのだから、詩織の葛藤が如何ばかりかは察して余りあるだろう。
(帝国軍艦隊も損害を顧みずに攻撃に専心している……火力にも装甲にも難があるイ号潜ですら、己が身を犠牲にして敵艦隊の攻撃を分散させているというのに!)
なぜ自分達が掌中の珠の如くに護られているかは考えるまでもない。
古参の仲間達にとって若く未熟な自分達は庇護するべき存在であり、同時に未来を託すに足る存在なのだと詩織は理解していた。
目標を破壊し、この陰惨で無益な戦いに終止符を打つ。
その意義は骨身に染みて理解しているが、次々と脱落して宙空へ散っていく僚艦の凄惨な末路を目の当たりにすれば、胸の奥が焼き尽くされてしまいそうな焦燥感に苛まれ、頭がおかしくなってしまいそうだった。
それでも懸命に耐えていた詩織だが、限界は早々に訪れる。
「本艦左舷に赤城、右舷に加賀、上方下方には翔鶴、瑞鶴、蒼龍、飛竜の各母艦群が展開! あっ!? 脱落した陸奥に代わって武蔵が本艦前方に陣取りました!」
それは懸命に盾役を務めていた護衛艦群が壊滅間際の様相を呈している証であり、紙装甲の航宙母艦をも盾として投入しなければならない状況へ追い込まれたのを如実に物語っていた。
オペレーターの叫喚は既に悲しみで湿り気を帯びており、耳朶を嬲られた詩織も思わず叫び声をあげてしまう。
「ミュラー副司令! グラディス艦隊司令ッ! もう充分ですからッ!」
しかし、当然だが、返って来たのは彼女が期待したものではなかった。
『気にする必要はない、如月艦長。空荷の空母では盾役が精一杯だよ。それよりも残り30秒……必ず護り切ってみせるから……後は頼むぞ』
何時もと変わらぬ泰然とした語り口の梁山泊軍副司令官が柔らかい微笑みを浮かべてみせれば、敬愛して已まない恩師からは、その心中に反して厳しい言葉が投げつけられる。
『詩織っ! アンタもあの時シルフィードの艦橋に居たのでしょう!? その耳でイェーガー閣下の言葉を聞いたのでしょうッ!? だったら聞き分けなさいッ! 今度は私達の番なの……だから、私達の想いも、未来も全部アンタ達に託していくわ! 幕引きは任せるからね……頼んだわよ!』
地球から脱出し、その逃避行の中で遭遇した上官の死。
あの時に味わった慚愧の念や苦い悲しみ、そして無力な己への絶望感は頭の片隅にこびり付いた儘であり、一日として忘れた事はなかった。
だから訓練に専心して鍛錬を続けてきたつもりだったが、未だに非力な儘の己の不甲斐なさを思い知らされた詩織は、胸の中で慟哭するしかなかったのである。
そして、それはクレアも同じだった。
無様で見苦しいと面罵されても構わない。
それで親友らが思い止まってくれるならば……。
だが、そんな事は万に一つもないと誰よりも理解しているクレアは、政治家としてではなく、友としてエレオノーラとラインハルトの表情を黙して見つめ続けるのだった。
五秒……十秒……十五秒が経過。
既に数多の砲火を受けて満身創痍となった航宙母艦が次々と脱落していく。
蒼龍、翔鶴、加賀、飛竜、瑞鶴、そして二十秒を耐えた赤城も、船体中央部から爆炎を吐き出しながら漆黒の闇の間に呑まれていった。
詩織もクレアも、炎に包まれた赤城艦橋で整然として立ち尽くすラインハルトの姿を瞼の奥に焼き付けるしかない。
そして、デジタル時計のカウントがジャスト三十秒を経過した刹那、奮戦を続けた武蔵にも最後の刻が訪れる。
残る敵艦隊は最後尾を形成する一群のみ。
突破を許した他の艦艇は急速転舵して追尾しようとするが、密集陣形を敷いていたが為に互いの進路をふさぐ形となって追撃に移るタイミングを逸してしまう。
だが、それでも背後から浴びせられる砲火は衰えを知らず、最後の希望を絶たんとして大和の船体へ突き刺さる。
そして、奇しくもエレオノーラと詩織の声が重なった。
『鬱陶しい木っ端艦隊が粋がってるんじゃないわよッ! 全て餞別代りに私が貰ってあげるから感謝なさいッ!』
「後ろの雑魚には構う必要はないわッ! 両舷強速ぅ──ッ!」
火達磨になりながらも勢いを失わない武蔵の艦首陽電子砲が最後の咆哮をあげ、まるでエレオノーラの執念が乗り移ったかのような獰猛な光の束が殿軍艦隊を薙ぎ払う。
だが、それが武蔵の最後の雄姿となった。
間断なく続く爆発が動力炉にも及んだのか、一際大きな火炎を艦尾から吐き出すや、艦首を傾がせて急速に脚を落とす。
大和の左舷をかすめて脱落していく武蔵の艦橋で敬礼するエレオノーラと視線を合わせた詩織は、慈母の如き優しい微笑みを贈ってくれた恩師へ、唯一度だけ頷き返して見せた。
(託された想い……必ず叶えてみせます……だから、最後まで見守って下さい!)
怒り、悲しみ、懊悩と後悔。
様々な想いがゴチャゴチャに入り混じりながらも、詩織は己が職責を果たさんとして最後の命令を大喝する。
「神鷹! 取り舵から急速反転っ、目標のダイヤモンド・ポートの正面に廻り込んだら全力で突撃させて! ヨハン! ゲートは主砲と通常兵装で対応! 建御雷は発射態勢をホールド! ドッキングベイ奥深くまで進攻して確実に敵要塞中枢区画を潰すわよッ!」
付き合いも長くなった腐れ縁たちからの返事に頷く。
そして……。
「大和全乗員に告げます! この無益な戦いに終止符を打つわよ! 諸君らの奮闘を期待します! 大和突撃せよッ!!」
多くの仲間達が命を投げ捨てて活路を拓いてくれた。
たった一本の細い道だが、そこには確かに仲間達の想いが詰まっている。
それらを背負った古の弩級戦艦の名を冠した戦船は、その血路を直走る。
追い縋って来る敵残存艦隊からの砲撃も、接近を拒む要塞が見せる最後の抵抗も、その疾駆を止めるには至らず、被弾し満身創痍になりながらも、大和は目標点へと辿り着いた。
「ヨハン、主砲全門全力斉射ぁ──ッ! 神鷹、脚を落とさないでぇ──ッ!」
行く手を遮る最後の関門であるゲートは、特殊合金製とはいえその硬度は戦艦のそれには遠く及ぶものではなく、一番と二番主砲六門の一斉射で消し飛んだ。
ヨハンの正確な射撃も賞賛に値するが、破砕された開口部に大和の巨体を潜り込ませた神鷹の操縦技術も並大抵のものではなかった。
だが、最も称賛されて然るべきは、困難な局面をものともしない詩織の指揮官としての資質だろう。
「速度このままぁ──ッ! 艦首にシールド全力展開! 総員衝撃に備えてッ!」
その絶叫に背中を押されたのか刹那の間も猛進を止めない戦船は、とうとう最後の隔壁を艦首で突き破るや、全てをやり遂げたと言わんばかりに雄叫びを上げるのだった。
「艦首陽電子砲、建御雷 撃てえぇぇぇぇ──ッ!!」
◇◆◇◆◇
コックピットを埋め尽くすコンソールパネルの大半のランプが光を失っている。
愛機も右腕と左脚を喪失しており、エンジンも片肺を余儀なくされる始末。
それでも、蓮と疾風は死地を脱していた。
(隊長の最後のアドバイス……あれがあったから生き残れた)
『活路は頭上にある! 最後まで諦めるなッ!』
動力炉の爆発に巻き込まれようとした刹那に脳裏に蘇ったラルフの言葉。
そして、視界の端に捉えたのは、庫内の急激な温度上昇によって緊急開放された非常用排熱ダクトのゲートだった。
「俺……生き残れたんだな……」
そう呟いてみても、何の感慨も沸いてこないのが堪らなく悲しい。
味方も敵も多くの犠牲を払いながら、得られた生の何と虚しい事か……。
悲嘆に暮れて脱力する蓮の視界には、先程までの喧騒が幻影だったかの様に静まり返った漆黒の世界が広がっている。
激しい抵抗を続けていた敵艦隊全ての艦船が停止し、一隻、また一隻と信号弾を漆黒の宙空へと打ち上げる様子が目に飛び込んで来た。
その連鎖は次々と残存艦艇へ伝播し、宙域は黄、赤、赤の三連信号弾で埋め尽くされていく。
そのシグナルが意味するものは『我降伏す』。
「終わりましたよ、隊長……みんな……勝ちましたよ、俺達……」
そう呟くのがやっとだった。
もう、この場所に留まる理由はない。
疲れ果てて指一本動かすのも億劫で仕方がないが、大和のビーコン波をキャッチした事実に気力を得た蓮は、珍しくも沈黙を貫く相棒を促したのだが……。
「帰ろうか、ポピー。助けてくれてありがとう……心から感謝するよ」
だがなぜか、陽気で悪戯好きの精霊からの返答はなく、纏いつく静寂に蓮は微かな不安を覚えてしまう。
しかし、それ以上の詮索をする余裕はなく、疑問を先送りした蓮は辛うじて動く愛機を駆って大和への帰還を目指すのだった。
※※※
「御怪我は有りませんか? クレア大統領閣下」
「え、えぇ、私は大丈夫よ。詩織さんこそ無事?」
「はい……辛うじて……神鷹、ヨハンッ、皆も大丈夫だった?」
「な、何とかね……建御雷発射から後進へ移った際にグラビティ・ブレーキを解除した判断に救われたよ……サンキュー艦長」
「それにしても、如月よぉ、俺達への対応が雑じゃね? 頑張って生き残ったんだから、もう少し褒めてくれてもいいだろうが?」
「はいはい、減らず口を叩く余裕があるだけ立派だわ……」
奇跡的に生き残った大和も、既に原型を留めてはいなかった。
二番砲塔から艦首までの全てを失った弩級戦艦は、その動力炉も沈黙し、辛うじて宙空を漂うだけのスクラップと成り果てている。
しかし、奇跡的に人的被害は皆無だった。
これは、突撃に際して乗員へ退避区画への避難を命じた詩織の好判断の賜物だ。
だが、だからといって喪失の痛みが薄れる訳ではない。
失われたものは大きく、生き残った者達の心に悲しみだけが刻まれていく。
脱力して動く気になれない詩織は、視線だけを動かして周囲を探る。
ブリッジのスクリーンには、降伏を告げる信号弾が乱舞している様子が映し出されており、統括していたAIが撃破された事で敵艦艇がコントロールを取り戻したのが分かった。
自ら降伏して停戦の意志を示したのは、フーバーら穏健派幹部の決断だろう。
その事実に思い至った詩織は、漸く戦いが終わったのだと理解する。
同時に両の瞳から熱を帯びた雫が溢れたかと思えば、頬を伝って滴り落ちた。
(グラディス提督……ミュラー副司令……心から感謝します。貴方がたに生かされたこの命を大切にし、皆さんが護ろうとした未来を……私達が護ってみせます)
そう改めて誓った瞬間に詩織の脳裏に浮かんだのは、鮮やかに微笑むエレオノーラの美しい顔だった。
その事が悲しくて、そして嬉しくて……詩織は唇から零れ落ちそうになる嗚咽を懸命に堪えるしかなかったのである。




