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第八十八話 両雄邂逅す ②

 グランローデン帝国軍艦隊の来援により、因縁の戦いも愈々(いよいよ)クライマックスへと向かう所ではあるが、ここで少しだけ時間を巻き戻したいと思う。

 とは言え、僅か三十分ばかりの事なので御了解頂きたい。


         ※※※


 蓮に続いて出撃した達也は混沌さを増す戦場を無視するや、愛機疾風(ハヤテ)を加速させて一気に惑星ダネルへの大気圏へと降下した。

 目指すのはキャメロットからの伝言としてフーバーから告げられた場所。

 ダネル極北上空成層圏界面……其処(そこ)こそが複雑に絡み合った数多(あまた)の宿命が行き付く先であり、同時に全ての因縁に決着をつける場所だと達也は確信していた。


 途中、愛娘たちが帯同している地上攻略部隊を乗せたイ号潜を迎撃するべく出撃して来た敵航空戦力を単機で一掃したものの……。


(この先、こんな楽はさせて貰えないだろうな)


 まだ距離があるにも(かか)わらず、指定された宙域方面から犇々(ひしひし)と伝わって来る強いプレッシャーを肌で感じれば、そんな予感を(いだ)かずにはいられなかった。

 言うまでもなく、この戦いを主導している一方の雄ローラン・キャメロットとの戦いは、もはや避けては通れないものだ。

 ダネル周辺での戦いは言うに及ばず、今この瞬間も銀河系各地で繰り広げられている激戦によって犠牲者は際限なく増え続けており、その悲劇に終止符を打つ為にも、決着はつけなければならない。


 だが、それでも……と達也は考えてしまうのだ。

 他に何かしら有益な解決策がなかったのか……と。


(銀河連邦軍という組織に属しながら一度も邂逅の機会を得なかった相手が、実は合わせ鏡の存在だったとはな……)


 白銀達也とローラン・キャメロット。

 同じ組織に属し、その内包する理不尽さに改革の必要性を痛感しながらも、目指すべき未来の差異により敵対せざるを得なかった両雄。

 それを不幸の一言で片付けるのは容易(たやす)いが、そんな言葉遊びが無意味であるのを誰よりも理解しているのが、他でもないこのふたりだった。


 もっと早くに出逢っていれば、良好な関係を育めたかもしれない……。

 互いの意見をぶつけ合えば、より良い未来が構築できたかもしれない……。

 同じ人間なのだから、胸襟を開いて話し合えば理解し合えた筈なのに……。


 未来の歴史家らの中には、そんな論評を得意げに語る者もいるだろうが、理想論で全てが平和裏に片が付くのならば誰も苦労はしないだろう。

 それは、当事者が(いだ)く偽らざる本音だし、達也も例外ではなかった。

 だが、決着の時を目前にして何時(いつ)までも思考の迷路で足踏みしていられない。

 だから、全ての懊悩を胸の奥深くに呑み込んだ達也は、自らが招いた因縁を断ち切るべく迷いと決別したのである。


(今更あれこれと考えても遅いか……一度擦れ違った運命は二度と同じ軌跡を描きはしない……ならば、己が信じた道を行くしかないだろうよ)


 ほんの(わず)かな会話を交わしただけで愛娘らと別れた達也は、驚異的な疾風(ハヤテ)の性能もあり、ものの数分で約束の地へと辿り着く。


 惑星ダネル極北上空高度五万メートル。

 見渡す限りの蒼穹と静寂が支配する空間には似つかわしくない構造物を視認した達也は、一定の距離を保持した位置で愛機をホバリングさせた。

 視界に捉えているのは直径五百メートル程の球状の人工物だが、まるで超小型の恒星を思わせる(まばゆ)い白色光を纏っており、その正体は判然としない。

 しかし、その本体の周囲には不規則な動きで回転運動をしている三本のリングがあり、それが攻防の主役であるのは容易に察しがついた。


(要塞にしては小さ過ぎるが、ボスキャラ設定ならば相応のポテンシャルがあるのだろうな……とは言え、対峙しているだけでは(らち)が明かないか)


 五感から得られる情報は皆無に等しく、()しもの達也も、少々乱暴な手段で挨拶するしかないか……そう考えた時だ。

 感情の起伏を感じさせない淡々とした声がコックピットの空気を震わせた。


『ようこそ白銀提督……この度は私の身勝手な願いに御付き合い頂き感謝に()えません。ですが、銀河世界の未来を決する戦いの幕を引く者は貴方か私以外には存在しないのですから……最後まで付き合って貰いますよ?』


 それは間違いなくローラン・キャメロットの声音だったが、まるで温もりを感じさせない無機質さに違和感を覚えた達也は、その正体を見極めんとして会話を継続する。


「折角の御招待を無下にするのも忍びなくてねぇ……それにしても随分とツレナイじゃないか。最後の戦いの相手だと見込んでくれたのならば、今生の名残(なごり)に顔ぐらい見せてくれても良いのではないかな?」


 その皮肉とジョークが混じった物言いが原因かは分からないが、球状の発光体が(かす)かに淡い点滅を繰り返す様子は、(さなが)ら苦笑いしているかの様にも見えた。


『これは失礼……これで如何(いかが)でしょうか? ホログラムで恐縮ですが……』


 そう告げられた途端、顔のみを拡大させたキャメロットの映像が、光量を増した発光球の前面へ展開される。

 それは間違いなく記憶にあるものと寸分違わなかったが、わざわざホログラムだと言い添えた彼の真意を朧気ながらも理解した達也は、その口から深い慨嘆の情を零すのだった。


「なるほどね……浮世離れした思考の持ち主だと思ってはいたが、貴様自身が破滅願望に()()かれていたとはな……ならば、切望する未来が味気ないのにも納得がいくよ」

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― 新着の感想 ―
[一言] ついに“向こう側”へと行ってしまったのか。 最後の最後にマトモな状態の有機生命体同士での対面はならなかったかぁ。
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