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第八十五話 大混戦 ①

「敵第2次攻撃隊の殲滅を確認!」


 (つと)めて事務的な口調を取り繕うクレアだったが、胸の中に滲む安堵感は抑え様もなく、朱唇から熱の籠った吐息が零れ落ちてしまう。

 何食わぬ表情を装ってはいても、『密航という非合法手段を行使してまで同行した以上、必ず結果を出さなければならない』との重圧を感じていただけに喜びも一入(ひとしお)だった。


(これで最低限度の責任は果たせたかしら……達也さんをガッカリさせていなければいいのだけど……)


 そんな(らち)もない事を考えながらも、司令官閣下へと視線をやれば……。

 緒戦に()ける一方的な勝ち戦に沸き立つブリッジクルーとは対照的に、泰然としたままシートに身体を預けている姿が目に入る。

 その様子はクレアにとって想定内のものではあったが、同時に少しばかりの落胆を覚えずにはいられなかった。


(部下達の目もあるから甘い顔ができないのは分かるけど……少しぐらいは褒めてくれても良いんじゃないかしら?)


 そんな嫉妬にも似た憤懣を(いだ)いた時、まるで愛妻からの視線を察したかの様に、シートの肘掛けに置かれた右手の親指が立てられたのだ。

 そこには神業に等しいナビゲートに対する賞賛と、危険を顧みず協力してくれた事への感謝が込められており、その達也の想いを(あやま)たずに理解したクレアは、再び熱量を増した吐息を零すのだった。


          ※※※


 我ながら気障(キザ)な真似をしているとの自覚はあったが、わざわざ言葉にした挙句に周囲からの生温かい視線に晒されるなど真っ平御免だ……。

 そんな馬鹿な事を考えていた達也だったが、緒戦の戦果に浮かれていた訳ではなく、出来過ぎの結果に慢心しない様に、()えて気持ちを切り替えていたのである。


 詩織相手の講釈でも語ったが、ナイトメア部隊による先制攻撃という敵の選択を達也自身は悪手でしかないと思っていた。

 勿論(もちろん)、この戦いを注視している民衆らに彼らの主義主張を知らしめ、AIによる銀河世界統治の正当性を示すという革命軍首脳部の思惑は理解できる。

 しかし、()れも()れも勝利という結果が伴ってこそであり、確固たる運用方法が確立していない中での戦線投入は、拙速に過ぎたと言うのが達也の言い分だった。


(結果として自慢のAIの有用性にも疑問符がついてしまったな……変に格好をつける必要はなかったんだ……全てのトリスタン級(弩級戦艦)を前面に押し立て、艦首陽電子砲による一斉射という戦術を採るべきだった……)


 戦場では一寸先は闇でしかない。

 その事を熟知している達也にしてみれば、キャメロットや革命軍首脳部の判断は何処(どこ)か中途半端なものに思えてしまい、到底納得できるものではなかった。

 だが、同時に得体の知れない不安が胸の中に拡がっていくのも事実だ。


(無駄を排し合理化を追求する理想世界を実現せんとしながらも、(およ)そ不合理だと断ずるしかない悪手を選択するのは何故(なぜ)だ?)


 ローラン・キャメロットという人間が、軍人としても策略家としても優れているのは、達也自身が誰よりも身に染みて分かっている。

 もっと早くに彼の正体に気付いていれば……。

 いや、せめて何かしらの疑念を(いだ)いてさえいれば、イェーガーを始め多くの仲間を無為に死なせる事はなかっただろう。

 そんな後悔を払拭できないからこそ、敵軍の中途半端な作戦展開が不可解でならないのだ。


(まだ、何かを隠しているのか? それとも……)


 これまで明らかになった事実だけでは、その答えが見えてこないのも当然だ。

 何といっても、キャメロット自身が〝フォーリン・エンジェル・プロジェクト″の成功体であり、最強AIの生体コアとして理想世界へ殉ずる覚悟を決めているという事実を達也は知らないのだから、戦場で雌雄を決するという以外の選択肢を準備できなかったのは仕方がないだろう。

 ある意味で似た者同士だといえる白銀達也とローラン・キャメロットだが、互いを理解する機会に恵まれなかった事こそが最大の悲劇だったのかもしれない。

 とは言え、敵の出端(でばな)(くじ)いた位で優位に立ったと考える程、達也はお気楽な人間ではなかった。


(疑問は多々あるが、我々には選択肢などないのだ……ならば、攻撃あるのみ!)


 戦力比で劣る梁山泊軍が勝利を掴む為には、敵が怯んだ隙を見逃す事なく二の矢三の矢を放って攻勢に転ずるしかない。

 察する術もない敵の内情や思惑を気にして逡巡する暇はなく、その唯一の真理に背を押された達也は、即座に全艦隊へと命令を下すのだった。


「全艦迎撃陣形を解除して通常編成へ移行せよ。打撃部隊の指揮はエレオノーラ、機動部隊の指揮はラインハルトへ一任する! 各艦隊は両名の指揮に従って作戦を完遂するべく奮戦して貰いたい。諸君の奮戦を心から期待するッ!」


           ◇◆◇◆◇


【第2打撃艦隊旗艦 武蔵】


 待ち侘びた命令を受けたエレオノーラは、眼鏡の奥の双眸を大きく見開くや檄を発した。


「各艦隊再編を急ぎなさい! 編成が完了次第突撃を開始せよ! 鹵獲艦隊の準備は整っているかしら?」

「525隻全て完了! ナイトメアの襲撃による損害も皆無ですッ!」

「いいわ。作戦計画通りに先発させなさい。エネルギーは推力とシールドの維持に割り振って最大戦速にて突撃せよッ!」

「了解!」


 先のアルカディーナ星系戦役の際に接収した銀河連邦軍艦艇の大半は、フェアシュタント同盟戦力強化の為に無償で進呈したが、損害が著しかったものは修理して自軍艦隊へと組み込んでいた。

 とは言え、その大半は巡洋艦クラスの中型艦であり、性能的にはヒルデガルドが設計開発した梁山泊軍主力艦艇と比して数段劣るものでしかない。

 改修による性能向上は可能だが、手間とコストを(かんが)みれば、採算に見合うだけの結果を期待するのは無理だとの結論を得ていた。。

 だから、セレーネ星の護衛艦隊へ配属した方が良いとの意見が幕僚部内で大勢を占めたのだが、その決定に達也が待ったを掛けたのだ。


『装甲を補強し動力系の出力を上げてくれ……全艦をリモートコントロール可能な無人艦に改修した上で重要な役目を担って貰う』


 そう言って不敵な笑みを浮かべた達也の顔を、エレオノーラは今も鮮やかに覚えている。

 それは、どんなに不利な戦況をも鮮やかに引っ繰り返して見せる魔術師の微笑みであり、長い軍人生活を共にする中で、何度も目の当たりにして来たものに他ならなかった。

 だから、『この傲岸不遜な笑みが出るなら大丈夫ね』と安堵し、自軍が置かれている圧当的に不利な状況すら気にならなくなったのだ。


(やっぱりアンタは一流の詐欺師だわ。白銀達也に付き合うのは味方でも大変……だから、敵には同情するしかないわね……(もっと)も、そんなアンタと腐れ縁を続けている私やライが一番苦労させられているのだから、その辺を忘れないでよね)


 胸の中に零れ落ちた自嘲めいた(つぶや)きには苦笑いするしかないが、そんな間柄だからこそ、今日まで上手くやって来れたとの自負もある。

 そして、それは()れからもずっと……。

 そう信じているエレオノーラに迷いは微塵もなかった。

 だから、猛る血が命ずる儘に発せられた大喝は艦橋を震わせ、艦隊将兵らの心に戦意の炎を灯したのである。


「本艦も行くわよ! 細工は流々仕上げを御覧じろってね! 自らの運命すらAIに任せて楽をしようなんて横着者達の横っ面を張り倒してやろうじゃないのッ! 全艦この武蔵に続けッ! 理屈だけ達者な若造共に目にもの見せてやるわよッ!」


 (たと)え、相手が三十倍以上でも関係ない。

 なぜならば、白銀達也が率いる艦隊が負ける筈がないのだから。

 そして、その確信を(いだ)いていたのは、彼女だけではなかった……。



            ◇◆◇◆◇


9月 2日(土)に素敵なFAを頂戴いたしました。

贈り主は、サカキショーゴ様(https://mypage.syosetu.com/202374/)です。

これまでも沢山のFAをこの日雇い提督へプレゼントして頂いたのですが、今回は〝麗しの二十歳前後美女軍団″であります!

それがこれ、『日雇ガールズ~SUMMER VACATION~』なのです!

挿絵(By みてみん)


お馴染みのサクヤに加えて、詩織、アイラ、シレーヌという美人カルテット。

サカキ様の添え書きでは、蓮、神鷹、ヨハン、セリスの4人が鼻血吹いて倒れたそうです……情けないですね。

まあ、その辺りは後日活動報告にて詳しく掲載しますので、気になる方はご訪問下さいませ。お待ち申し上げております。(次の日曜日には必ず……)

サカキショーゴ様 この度は本当にありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] お馴染みのサクヤ……あれ? 前にもサクヤ姫出ましたっけ?(ォィ [一言] 不気味よなぁ。 まだ何か隠し玉がありそうな予感がするぜぇ。 FA紹介も感謝です!!
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