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薔薇とすみれ  作者: うばたま
本編
6/23

すみれの素顔

3月10日

 「ヴァイオレット様。この前頂いたハンドクリーム、とても素晴らしかったですわ」

 そう話しかけてきたのは、クラスメートの伯爵令嬢だった。

 「それにこの香り。寝る前につけたのですが、この香りに包まれて眠ると、ぐっすり眠れるんですの」

 ラベンダーには安眠効果やリラックス効果、頭痛を和らげる効果がある。

 「それに、唇に塗ったら、こんなにツヤツヤと」

 よほど気に入ったのか、彼女は自分の唇に指で触れて、その感触に微笑んだ。

 「お気に召したのならよかったですわ。これは試供品ですが、今後販売する予定なので、よければ今後ともよろしくね」

 そう言えば、聞いていた他の令嬢も色めきだった。みな、一度はヴァイオレットのハンドクリームを試したことがある。それが商品化されると聞けば、思わず身を乗り出してしまう。

 「あのクリームがいつでも買えるなんて、とても助かりますわ。おかげで肌の調子もよくて。そういえば、ヴァイオレット様はいつも温室で植物のお世話をされているのに、手がとても綺麗なのも、このクリームのおかげなのですね」

 そう言って、彼女はヴァイオレットの手をちらりと見た。

 「本当だわ。それに、ヴァイオレット様、実はお肌がとてもきめ細かくていらっしゃるのね」

 そう言われてヴァイオレットはぎくりとした。令嬢の一人が、彼女の顔をじっと見ていたから。

 「それに、瞳も大きくて、睫毛もとても長い。あら?」

 令嬢の方でも、おやと首を傾げた。ヴァイオレットという少女は、頭の良さは何度も話題になったが、その外見で話題に上ることはほぼなかったのだ。普段俯きがちなので、顔をまじまじと見られることもなかった。そのせいで、彼女は気付いたようだ。ヴァイオレットの眼鏡の奥の瞳は澄んでいて、その肌は、雀斑さえなければ、滑らかで透き通るようだと。

 その時、「お義姉さま!」とわずかに怒りのこもった声でずかずかとローザがヴァイオレットのクラスに入って来た。

 「わたしとのお約束があったでしょう?忘れてしまったの?」

 そんな約束はなかったが、ローザは少しヴァイオレットに苛立っているらしい。いつもの儚げな笑みを浮かべることもなく、ヴァイオレットの腕をぐいぐいと引っ張って、クラスの外まで連れ出してしまった。

 残された女生徒たちは、しばらく呆然とした後、こっそりローザの悪口を言い始めた。

 「何なのかしら、あの態度」

 「いくら侯爵令嬢だといっても、所詮は養女でしょうに」

 「侯爵の庶子だって噂は本当かしら」

 「あら、私は侯爵の愛人って聞いたわ。まさかとは思ったけれど、あれだけ男性と仲良くできるところを見てしまうと、ねえ」

 「……あの子、ヴァイオレット様の素顔を見られるのを嫌がったのだわ」

 先ほど、ヴァイオレットの顔をまじまじと見ていた令嬢が、ぽつりと呟いた言葉は、誰にも聞かれることはなかった。


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