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薔薇とすみれ  作者: うばたま
本編
5/23

幼馴染たち

3月11日


 昼休み、ヴァイオレットが中庭の前を通りかかると、中庭には見知った顔がいくつかあった。

 中心にいるのは義妹のローザ。その隣にエルドレッド。少し離れた場所にラドクリフ・カーライルとグレゴリー・ヒースコートがローザに時折笑みを向けつつも、周囲をさりげなく見回っていた。最近、ローザを快く思っていない人間が一定数いることは、彼らもよく知っているからだ。

 彼らからさらに少し離れた場所に、トーマス・トレヴァーの姿がある。彼は商会が取り扱っている新商品だとかいうお菓子を取り出しては、ローザに恭しく差し出している。その姿は、どこぞの姫君に献上している豪商、といった風だ。

 ローザ嬢とその取り巻き達の、いつも通りの風景に、ヴァイオレットは何も感じなかった。

 ただ黙って通り過ぎていこうとすると、彼女の姿に気付いたグレゴリーが、一瞬眉を顰めた。

 最近ローズが女生徒達から嫌がらせを受けていること、それがヴァイオレットによるものではないかという噂が流れているのだ。やれローザの私物がなくなっただの、エルドレッドからの贈り物に汚水がかけられていただの、内容としては子供っぽくて実にくだらない。とはいえ、一応婚約者であるところのエルドレッドを奪われた腹いせといえば、動機としてはしっくりくる。

 しかし、婚約者の心を奪われたのは、何もヴァイオレットだけではない。表立って取り巻きになっていないだけで、ローザに心奪われた子息たちはたくさんいる。

 ここにいる取り巻き達が堂々と侍っているのは、彼らに婚約者がいないからだ。ラドクリフは父親の死後、家の立て直しに追われて婚約者を決めるどころではなかったし、グレゴリーもまた、今まで次男として比較的自由でいたのが、三年前の兄の死で突如嫡男となったのだ。婚約者を見つけるほどの余裕はなかった。

 グレゴリーが自分を睨みつけるのを横目に、ヴァイオレットはこっそりため息をついた。

 ラドクリフとグレゴリー、そしてヴァイオレットはかつて幼馴染だった。

 彼らはいずれも由緒正しい家柄の出であり、父親が王家の信頼も篤い忠臣であることから、今は亡きエイベル・セドリックの遊び相手として王宮に招かれることが多かった。

 銀髪のセドリック王子は少女と見まごう美しい王子で、それでいて知性に富み、ラドクリフやヴァイオレットにもいい刺激となった。

 共に学び、共に遊び、四人はあっという間に打ち解け、いつだって一緒にいた。かつて王子の専属教師だったジョシュア・ダドリーの授業を一緒に受けさせてもらったことさえある。ヴァイオレットは侯爵令嬢として、この美しい王子の婚約者候補の筆頭なのではないかと目されていたが、それも露と消えた。セドリックが、突然病死したからだ。

 肺の病だと発表されたが、今にして思えば、どう考えてもあれは毒殺だ。前王が突然不慮の事故で崩御した直後、セドリックの体が目に見えて衰弱していたのは、何も父を失った心の傷によるものだけではなかったと思う。

 そうして、セドリックが死に、同じくしてラドクリフの父である前宰相が死に、ラドクリフとはそこで会うこともあまりなくなった。

 グレゴリーとは、時折会うこともなくはなかったが、長じるにつれ婚約者でもない男女が大っぴらに会うことが難しくなり、三年前の暴動騒ぎにより、縁はほとんどなくなった。

 こうして、あれほどきらきらしていた思い出の幼馴染は、会えば疑惑の目を向ける寒々しい関係となったのだった。



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