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薔薇とすみれ  作者: うばたま
本編
14/23

三年前の真実


 「な、なぜ今頃になって……」

 言い逃れしようもないのか、ケイン一世はうなだれた。モラン伯爵が押収された証拠品は、彼を打ちのめすに十分な材料だったようだ。

 「国王とはすなわち国に対する奉仕者。国王は国のために存在する。ですから、叔父上が父を殺そうと、もし父よりも国にとって益のある国王であったならば、残念ながら僕は今ここにいなかったでしょう」

 セドリックはそう言って自嘲するように笑った。彼は知っている。命がけで自分を救い、匿ってくれた忠臣たちは、何も無条件に王家に忠誠を誓っているわけではない。セドリックが将来国を背負って立つ王となってくれることを期待しているからこそ、彼らは動いたのだ。

 そして、目の前の王もまた、かつては期待されていたのだろう。もし彼の統治が国をさらなる発展に導くものだったならば、今回のクーデターは成功していない。

 「我が国は長年不作が続いていた。前王はそれに対する政策を推し進めていた。けれどあなたは、前王の政策を受け継ぐことを厭い、それらを捨て置き、別の新たな政策を打ち出した。一から進めるには、時間も労力も要る。民は疲弊していく一方だというのに」

 不作続きの中、救荒作物だったジャガイモが流行病に襲われた。ジャガイモは生産性が高く、寒冷地でもよく育つ上に、デンプンを豊富に含み、パンの代わりになりうる優秀な食材である。

 しかし、一つの食材に頼っていると、その食材が手に入らなくなった時にどうなってしまうのか。前王はかねてより気にかけており、対抗策をいくつか掲げ、植物の伝染病の研究や、新たな作物の開発に費用を回していたはずなのだ。

 ケイン一世が王位を簒奪しなければ、三年前の飢饉は被害をもっともっと少なく食い止めることができたはずだ。人が、死なずに済んだ。

 「そして起こった暴動での失態。あの一件で、このままでは次の国王にも期待できないことが証明された」

 「な!?どういうことだ!僕はあの暴動を見事鎮圧して見せただろうが!」

 蔑む視線に激昂して、エルドレッドが叫んだ。

 「鎮圧?多くの民を殺しただけですよ。しかも、味方する貴族まで無駄死にさせて」

 吐き捨てるようにヒースコート伯爵が言った。その眉間には、深い皺が刻みこまれている。彼の息子は、あの戦いで王子を庇って戦死している。……と、言われていた。

 ヴァイオレットの隣に立っていたグレゴリーが大きく息を吸い込んだ。そうしなければ、自分でも抑えきれない激情に、叫び、泣きわめいてしまいそうだったからだ。

 ラドクリフとヴァイオレットが、彼の背中をそっと叩いた。グレゴリーは心配してくれる幼馴染二人に少し笑いかけ、そのまま前を見据え、再びエルドレッドを睨みつけた。

 「首謀者の数人は処刑もした。けれど、どれも小物に過ぎなかった。本当の首謀者には逃げられたんでしたっけ?エンブリー公爵を王位簒奪者と糾弾し、民衆を扇動した首謀者……名前もわからないので、ここは仮にミスターと呼びますか。あの暴動は抑え込んだだけ。ミスターは土壇場でまんまと逃げおおせ、民たちは所詮武力で抑えられただけで、王家への不信は何一つ変わらない。いや、むしろ不満がさらに増えただけ。あの後落ち付いたのは、アーカーソン家の打開策のおかげで、何とかジャガイモの伝染病が収まったからですよ」

 セドリックが、ちらりとヴァイオレットを見た。三年前の彼女の活躍は、多くの民を救った。応急処置に過ぎないような、小さなものだったが、それでも餓死者は大幅に減った。

 「あの時、あなたはあなたを庇って決死の覚悟で戦った騎士を見殺しにしたのでしたっけ。いや、自分よりも活躍するその騎士に、あろうことか嫉妬し、暴徒たちの前に一人置き去りにしたのだそうですね。目撃者がいないと思っていました?目撃者は沢山いたのですよ。生き残った騎士たち、生け捕りにした暴徒たち、巻き込まれた民衆たち、彼らが証言しました。」

 「でたらめだ!」

 エルドレッドが叫ぶも、その声は震えている。

 「いいや、本当だ!あんたは、兄上に嫉妬するだけでなく疎んじていた!兄上が、あんたを何度も諫めていたから。あんたが問答無用で正面から抗議する民たちにまでその剣を振るおうとしたから!そうして、人気があったから!だからあんたは兄上を見殺しにしたんだ!いや、あんたが殺したも同然だ!」

 グレゴリーが叫んだ。彼は三年前あの場にいなかったが、仲間の騎士たちからは涙ながらに教えられた。そして、三年も一緒にいれば、人間性もわかる。

 エルドレッドが、グレゴリーに時折向ける優越感めいた視線を真正面から受け止めた時、彼は確信した。この男は、確かにやったのだと。

 兄を殺したのだと。


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