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第二話 いにしえの森の民

(いにしえ)の森の民『シリーリア』よ。それが、本来のお主らの姿じゃよ。わしは森のために力を使い過ぎて、長い間……本当に長い間、幼体の姿のままで過ごさせてしまった』


 本当にすまなかった。


 森の長老さまの声から、だんだんと力が抜けてゆき、もうすっかり微かなものになってしまいました。枝の先から少しずつ崩れてゆきます。


 長老さまの根元に小さな渦が現れ、やがて若葉の色に輝く扉を形作りました。


『ふう……なんとか扉が開いたようじゃ。この先にはまだ若い森がある筈じゃ。わしにはもう、見届けることは出来んが、お主らが穏やかに暮らせることを祈っておるよ』



 さあ、行くが良い。愛しき森の民よ。わしら森の全ての命は、お主たちを魂で愛していたよ。




 森小鬼……いいえ、美しき森の民『シリーリア』たちは、順番に木の長老さまの幹にキスをしてお別れを言うと、扉へと向かって行きました。


 ルダも長老さまにキスをします。


「ごめんね長老さま。ぼくたち、森を守れなくて」


『何を言っておる。お主らは、手に火傷(やけど)を負い、服に火がついても……それでも逃げずに必死に炎と戦ってくれたではないか。我らとて、お主らが人間に(むご)いことをされていても、小石ひとつ投げることさえ叶わんかった』


「でもぼくは、この森が大好きだったよ」


『ありがとう。達者で暮らせよ』




 涙をぬぐいルダが顔を上げると、ラダが少し離れた場所でうずくまっていました。


「兄ちゃん、早く行こう。扉閉まっちゃう」


「うん、でもルダ、ここに芽があるんだ。俺は残って世話をするよ。芽のままで枯れるなんて可哀想だろう?」


「何言ってるんだよ! みんな行っちゃった。長老さまが枯れちゃったら、この森は全部枯れちゃうんだよ?」


「俺が世話すれば長老さまもこの芽も、枯れないかも知れない。やってみる」


「兄ちゃんのバカ! こんな世界に残ったら、またニンゲンに酷いことされるに決まってる! こんな綺麗な姿になっちゃったら、すぐに捕まってしまうよ!」


「うん、だからルダはみんなとお行きよ」


「兄ちゃんのバカ! そんなの! ぼくも……ぼくも……一緒にやるよ!」


 若葉色の扉は渦に戻り、やがて小さくなって消えてしまいました。


『ふふふ。仕方のない頑固者兄弟じゃな。わしも、その小さな芽を枯らすのは忍びないと思っておったよ」


 実はわしの最期の力は、まだ残っておる。


「えっ?! じゃあ枯れないの?」


『いいや、わしは枯れるよ。だが最期の力で、この地に呪いを振り撒こうと思っておってな。未来永劫、この地に草木一本生えぬ呪いじゃ』


「そんな……! ニンゲンだけじゃなく、他の生き物も死んでしまう」


『脚のあるもの、飛べるものは逃げるだろう。逃げた先のニンゲンも愚かなら、また森が消えるだろう』


 ラダとルダは、そんなことない――とは、とても言えませんでした。二人の知っているニンゲンは、壊して奪うことしか知らない、どこまでも傲慢な生き物です。


『だが、優しい森小鬼の兄弟と、その小さな若芽のために、少し他のことにも力を使おうかのう』



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