リメンバー・腹やぶき
地方の家の網戸は、しばしばそっと開けることになる。
いきなり開けると、惨状がある。
「あっ!? お前ヤモリか? 何で網戸の隙間にいるんだよ・・・腹が引っかかって破れちゃってるじゃないか・・・!」
勢いよく戸を引いた瞬間である。
何かが引っかかった? と感じた時にはもう遅い。
家の害虫、小虫をいそいそ食べてくれる、好きな人にとってはかなり可愛い家守くんが、息も絶え絶えになって下に落ちてきた。
これがムカデの場合もあって、戸をあけた瞬間にポトッと腕に落ちてくることもある。
「ぬわっ!」
と慌てて振り払うが、この場合は相手もあたふたしているので、咬まれることはまずない。
それより、大ケガをしたヤモリだ。
「ああ・・・こんな隙間でほっこり休んでるから・・・。お前、もう生きられないかね。死ぬのかね」
どこかの古典文学のような言葉を投げかけると、それでも小さな爬虫類は、ヨロヨロと家の外の闇に消えていった。
あまりに儚げで、深手を負わせた罪悪感とともに、じっと見つめていると胸が痛くなる。
それからしばらくして、そのヤモリが家の窓を這っているのを見つけた。
おお、しぶとい。やるじゃないか、と称賛を送ったのだが、やはりその傷は、彼の命を少しずつ奪っていたようなのである。
さらにその数日後、玄関のドアを開けた陰で、腹に白い傷跡を残したヤモリが、息を引き取っていた。
・・・あれほど小さな命が切なかったことはない。
後日、「・・・ん? 網戸の立て付けが、また悪くなったのかな?」
と、無理やり開けようとして、忘れかけた頃にポトリと落ちてきた子のヤモリに、「リメンバー・ミー!」と言われたような、睨み合いをしたのであった・・・