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on your marks

作者: 谷川 ユウ

私は、こういった物語を書くのは初めてなのですが

これから、もっと勉強をして、読んで頂けた方が、ほんの少しでも温かい気持ちになってもらえるような物語を作っていきたいと思っています。物語を作る事を目指し始め、自身のブログも作りました。そのブログで公開している、まだ少ない物語、その物語の中から、多少の加筆、修正を加えて、このサイト様にアップして行こうと思っています。もしよろしければ、今後ともよろしくお願いします。


ご指摘も含めコメント頂けたら、今後の励みとなり嬉しく思います。

この作品を選んで頂いてありがとうございます。それでは10分弱のストーリーです。どうぞ


「痛っ!右足に激痛が走った。トラック上に倒れこんだ私ははげしい痛みで動けなかった。すぐに担架に乗せられた私はそのままトラックをあとにした。


病院のベッドの上、動かせない右足、県大会を優勝して初めて進んだ関東大会。その決勝での出来事だった。高校2年で陸上がすべての私は今病院にいる。大部屋の病室、窓際の日当たりのいい場所、4人部屋なのに私しかいないこの部屋に彼女が来た。


「葵ちゃんは今日も暇してるのかな?」となんて茶化した感じで病室に入ってきた彼女

私の親友で一緒に陸上をやっている美咲だ


美咲はいつも明るく楽しませてくれる。今日も学校の帰りに芸能人を見たと言う話を始める、今日あった事を毎日話してくれる。入院して2週間毎日だ。正直話の内容はどうでもいいのだけど、それでもこの時間はすごく嬉しい。


でも、そんな私はと言うと退院は近いらしいが陸上へ戻るには半年はかかると言われているから、気持ちは決して前向きではない・・・・・・

美咲もあの時、関東大会を一緒に走っていた、私の転倒に一瞬気が取られたのか9人中美咲は8番だった。きっと美咲も悔しかっただろうと思うが、美咲は何事もなかったように元気だ。それに比べて私はやっぱり元気が出ない。


「ねぇ、葵、どうせ暇なんでしょ?この漫画面白いよ」

どうせ暇なんでしょ?と余計な一言を付けた美咲のかばんから出来てきたのは陸上の漫画だった

タイトルは「on your marks」

すでにかっこよさそうなタイトルに惹かれて、ちょっと元気になった単純な私

その夜さっそくその漫画を読んだ。


「on your marks」って位置についてって言う意味

よーいドンは「get set go」

陸上好きの私にはたまらない最高の漫画だった


「on your marks get set go」頭に残ったそのフレーズ、そう、ただ英語になっただけのこんなフレーズにやられる私はやっぱり単純だと認めざるを得ない。


ストーリーはと言うと、それはもう私達が歩んでいる道そのものだった。

まずは県大会で勝つ、そして関東大会へ進む、最後に全国大会だ。

どの大会も決勝で三位以内に入れたら次に進める。主人公は色んな試練を乗り越えて


全国大会で優勝する。そんな物語だった。

私はこの関東大会で負けてしまった。色んな試練を乗り越えるか・・・・・・今の私は、この色んな試練の一つを経験しているんだ。そう勝手に前向きになってる自分。


次の日、また元気な美咲がやってきた。 今度は私から美咲にこう言った。

「美咲、私、退院したら、しっかりリハビリやって、早く陸上に戻るね」

真剣な目つきで美咲に決意表明をした。

「さっそく触発されたぁ~?はいはい待ってる待ってる」両手で私の体を抑えるような素振りをしながら、また今日あった出来事を話し始めた。その話はあまり頭に入っていない。私はもう一度、あのトラックを走る事を想像していた。


退院して半年、軽いトレーニングしか出来ない私に美咲は付き合ってくれた。まだ大会とかにはとても出られない。秋にも県の大会があるが私はもちろん出れない、今回は美咲も足の不調を訴えて出場しなかった。それから、二人で基礎トレーニングをしっかりやった。なかなかあの時のように走れない。怪我は完全に治っているのにタイムが出ない。どうしてだろうか美咲も同じようにタイムが出せなくなっている。


「美咲、私に合わせなくていいよ、自分のトレーニングをして」そう言った私

「別に合わしてるわけじゃないよ」と笑顔で答える美咲

「だって美咲は怪我してないじゃん」

あっ!と思った時はもう遅かった

「そんなつもりじゃないのに」

そう言って走っていった。私は彼女を傷つけてしまった。その一言のあとの彼女の表情、あんな悲しい表情を私は見た事がなかった。


それから、謝る事も出来ず、いや謝る事によってまた美咲の足手まといになってしまわないだろうか?そう思うとこのまま、せめて美咲だけでも大会を勝ち進んでほしい、そんな気持ちも持ちつつ、謝る事を避けていたのかもしれない。本当ならば、この考え方は間違っているのだろうけど、今はこうした方がいいとそう思っていた。私は一人でみんなとは違うトレーニングメニューを続けた。


もう美咲とはメニューが違う、あれだけ近かった美咲とも心の距離は遠くなっていた。真冬のグラウンドで、違うメニューを続ける。凍りつくような冷たい空気の中、自分のペースで走り続ける私、ほんの20Mほど離れたところで美咲も走っていた。ボロボロに朽ちた枯葉が次々と何かにひっぱられるかのようにグラウンドを舞い上がり横切って行く、私達の間を切り裂くように。あの時の言葉は間違っていた。自分がタイムが出ない事に苛立ちを、それを美咲にぶつけてしまっていた。分かっているのにどうしても美咲に謝れなかった。いやもう今更遅いと。美咲に謝れないまま季節は移り、昼間は穏やかで暖かな季節となった。まだ違うメニューを続けている私達、グラウンドを横切るのは枯葉ではなく、桜の花びら。美咲との距離は枯葉よりは穏やかになったように感じているのは私だけなのだろうか?薄ピンク色の花びらが冷たく凍りついた距離を縮めてくれている。3年生になった私達は春の県大会予選の日を迎えた。


美咲に謝ろうと思っている。本当はもっと早く謝るべきだったと分かっているけど、やっぱり美咲のトレーニングの邪魔にもなりたくなかった。それは言い訳なんだろうなと思いながらも、ここまで来てしまった。


競技場の観客席の下に設けられた。緑色の扉、手で触ると緑の粉がつきそうな、そんな扉の奥、壁沿いにはぎっしりとロッカーが置かれ、真ん中には一定の間隔に長いすが置かれている。

県大会の選手控え室、他の学校の選手達も、それぞれに体を温めている。私は、美咲に近づき、今までの事を謝った。


「美咲、今までごめん、私、美咲の邪魔にはなりたくなかったんだ」


「ううん、葵の気持ちは分かっていたよ」と言った美咲の目には涙が、そして美咲はこう続けた

「私は、葵との距離がこのまま離れて行く事の方がずっと心配で怖かった。でも、もうこれで大丈夫。私こそごめんね」

その涙を拭き取った美咲、表情がぐんと明るくなったように見えた。

「私は葵にずっと一番を走っててほしい、葵が一番なら私はいつもすぐ横にいられた」

「もう一度、すっごく速い葵を追いかけさせて、そして一緒に全国へ!」


今までの事がなかったように、力強くそう言われ、結局、私が慰められた。私に出来る恩返しは誰よりも速く走る事なんだ。

「美咲、今まで本当にごめん、いっぱい支えてくれて、ありがとう。今日は一緒に頑張ろう」

「うん!あたりまえじゃん!今まで一人でこっそりやってきて、こんなところで負けたら承知しないからね」人差し指を立てて、リズムをとるようにしてこう言った美咲。

まだ少し目が赤い美咲を見て、負ける訳にはいかない。心に思ったが言葉にはせずに私は美咲の目を見てしっかりと頷いた。


県大会は二人一緒に結果を出せた。一位は私、二位には美咲がいた。雨がぱらつき始めた表彰台で、「まだ次がある」そんな表情をした私達二人がメダルを持って写っている写真は今の携帯の待ち受けになっている。


県大会から二週間後、あの関東大会へ・・・・・・そう、あの日、私が怪我をしたこの場所

午前中の予選は美咲とは違う組で走った。順調に勝ち進んだ私、もちろん美咲も決勝に残った。

決勝、私達の組は夕方に近づこうとしていた時間だった。私達の組!9人で走るこの決勝、私は美咲と同じ組で走れる。それもレーンも隣。この場所!この場所に!もう一度たどりついた。


私達の順番の順番だ

「葵、去年ここに忘れてきたものを取りに行くよ」と美咲が言った。

「うん、もちろん」と答えた私は左の手の平を上にして美咲の方へ差し出した。美咲の右の手の平が力強く、叩いた。ありうがとう。緊張感が体を包み込む、二人であの同じトラックのスタート位置へと歩き始めた。


私の左隣には美咲がいる。美咲の存在が私に力をくれている、きっと、美咲も同じ気持ちなんだ、その時はもう、それを確信していた。集中力が高まって行くスタートの時。スターティングブロックに足を合わせ位置の確認をして体制を整える、準備は出来た。私は顔を少しだけ傾けて、目線を美咲に送った、美咲もこちらを見た、お互いに少し笑って、そして頷いた。


スターターの声が聞こえる「いちについて~」

その声と同時に目線をこちらに残していた美咲の口元が、こうつぶやいた「on your marks」

スターターの声が続く「ようい~」

すかさず私はこう返した「get set」


私の口元を確認した瞬間、美咲の表情に緊張感が走り、完全に前を向いた。私も目線を変えた。その目線の先には去年たどり着けなかったあのゴール。そのゴールをしっかりと見ていた。全身に力が入る!スターターピストルの音が鳴った!


私は心の中で大きく「go!」と叫んだ、体は一瞬の揺らぎなく前へと出た!

スタートの合図と自分の気持ちが重なった瞬間、踏み出した一歩は力強く地面を蹴って前へ前へと。今まで何百回とやってきたこの練習、だからこそ分かる!今日の私は行ける!さっきまで聞こえていた歓声が遠くに感じるようになった。頭の中は穏やかだ。時間がゆっくりと流れている、そんな頭の中とはまったくと言っていいほど逆に体はどんどんとスピードに乗って行く。行ける!



この一年あった事が頭の中を駆け巡る。美咲が支えてくれた、美咲がここまで連れてきくてれた。

ウォーミングアップの時から出ていた額の汗と感謝の涙が一緒になって頬を伝って後ろへと流れていく。もっと速くもっと速くと。夏が近づく6月の暖かな風を感じて赤色に染まっていく太陽に向かい一年前のあのゴールへ。今、最高の気分で走っている。


「美咲、今日の私は誰にも負けない!」




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