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丑の刻参り殺人事件  作者: 谷川流慕
14/16

第2ターミナル

 一行が成田空港第2ターミナルに到着した時は16時30分。黒田のフライト予定時間までギリギリだったが、CX521便の出発が幸い遅れており、何とか間に合いそうだった。朝比奈は後輩の加藤という空港警察署員に訳を話してゲート内に一行を連れて搭乗口の前まで行った。すると黒田がベンチに座って搭乗時間を待っているところだった。朝比奈は黒田の前に出て話しかけた。


「またこれは妙なところでお目にかかりましたね。黒田鄭太(ていた)さん」

「あなたはこの前の刑事さん……そう言えばNINEグループのほうはつかめましたか?」


「ええ、おかげさまで」

 朝比奈はそう言って警察手帳を見せて言った。「そのことも含めてちょっとお話し伺いたいんですがね」


 黒田は引き攣った笑顔を浮かべ、次の瞬間朝比奈を突き飛ばして逃走した。


「待てー!」


 叫ぶ朝比奈を背に黒田は一目散に逃走したが、その前に城尾が立ちはだかった。


「待ちたまえ。ここは出国ゲートの内側だ。逃げ場所などないぞ」


 城尾はそう言い終わる前に黒田のタックルをまともに食らって真後ろにひっくり返ってのびてしまった。


 服部はその様子を傍観していたが、待合室にラケットを持ったジャージ姿の学生たちが団体でいるのを見つけた。そして彼らのところに駆け寄った。


「すみません、ラケットとボール貸して下さい!」

「は?」


 呆気に取られるテニス学生から服部はラケットとボールを奪い取り、ボールを高々とトスすると、逃げ去る黒田目掛けて思い切りフラットサーブを射ち放った。


「行けぇ!」


 服部から放たれたテニスボールは風切る音と共に猛スピードで黒田の後頭部を捉えた。そして黒田は脳震盪を起こしてその場に倒れ込んだ。そこに空港警察官たちが駆けつけ、黒田を取り押さえた。朝比奈は彼らに悠々と近づき、手錠を黒田に掛けた。


「黒田鄭太、公務執行妨害現行犯で逮捕する!」


 そして黒田と城尾は空港警察官に担がれ、運ばれて行った。



 空港警察署の取調室に入った時には黒田は落ち着きを取り戻していた。そしてNINEグループ「国産品友の会」メンバーの代理殺人を実行していたことを認めた。その話を朝比奈とその後輩である空港警察官、加藤が聞いていた。城尾、服部そして近藤はモニターでその様子を見ていた。


「刑事さんの仰る通りです。私は家庭内暴力を振るう人間が許せなかった。それで国産品友の会メンバーへのDV加害者を事故に見せかけて殺してきました」

「しかし……いくら自分の家族がDVで崩壊したからと言って関係のない他人を殺すことはなかったんじゃないのかね」

「……母親がDVで自殺した時、まず最初に父親を殺してやろうと思いました。それで事故に見せかけて父親を亡き者にするための緻密な計画を立てていた。ところがいざ計画実行という段階で父親も自殺してしまったのです」

「それで行き場を失った殺意を他のDV加害者に向けたというわけかい」

「そうです。私はその後IT企業に勤めて独立し、今の会社を立てました。サーバー利用者の中にDV被害者はいないか探していました。そんな時見つけたのがNINEグループ“国産品友の会”でした。もちろん直接彼らに殺人代行の話を持ちかけても警戒されるでしょう。

 それで私のサーバー利用者の中に丑の刻参り代行サイトを見つけ、そこへの依頼を合図として殺人を請け負うことにしました。もちろん依頼者は呪い代行を頼んだだけで、背後で何が行われているかは全くわかりません」


 朝比奈は話を聞きながら嘆息してタバコに火をつけようとしたが、加藤から「すみません、ここ禁煙です」とたしなめられて引っ込めた。


「それにしても……6人も殺すのはやり過ぎだろう」


 朝比奈が言った言葉に黒田が目を丸くして弁明した。


「6人? 私が手をかけたのは5人ですよ」

「おいおい、この期に及んで嘘をついても仕方なかろう。あんたが殺ったのは練田舞衣、楠元寛治、笹井美奈、松島隆一、伊川務、坂井陽一郎の6人だ。違うかね?」

「その中で坂井陽一郎だけは殺していません。他の5人はIPアドレスから居場所を特定出来ましたが、依頼者のダテクミコのIPアドレスはとあるネットカフェのものでした。それで坂井陽一郎がどこの何者かわからなかったのです。同じ理由で小湊加奈子の居場所も特定出来ませんでした」

「……間違いないか」

「ええ、さっきあなたが言ったようにこの期に及んで嘘をついても仕方ありませんから」


 朝比奈と加藤、そして別室にいた城尾、服部、近藤は目を見合わせた。

いったい坂井陽一郎は誰に殺されたのか、或いは本当に自害したのか。何れにせよ坂井の周辺をもう一度洗い直す必要が出てきた。

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