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丑の刻参り殺人事件  作者: 谷川流慕
12/16

車中の会談

「お待たせしま……‼︎」


 服部が会計を済ませて店から出てくると、目の前で城尾と錦織(仮)が対峙していた。固まっている城尾を見て錦織(仮)は嘆息して言った。


「探偵さん、バレバレなんですよ。ずっと私たちのこと見張ってたでしょう。真紀が教えてくれましたよ、あなた方が警察の協力をしているとね」


 城尾は帽子のツバを持ち、気まずそうに応えた。


「……なら話は早い。ちょっとお話聞かせていただきましょうか」

「ええ、私の車で移動しながら話しませんか。その方がお互い都合が良いでしょう。申し遅れましたが、私の本当の名前は小湊研二と申します」

「探偵の城尾襄です」

「助手の服部礼です」


 こうして簡単に自己紹介を済ませた後、一行は小湊の運転する車に乗り込んだ。小湊が何処へともなく車を走らせると、城尾から話し始めた。


「小湊さん……というと、あなたは小湊加奈子さんの夫ということですかな」

「ええ、まあ」

「そして坂井真紀さんとは、国産品友の会というネットワークを通じて知り合った」

「……その通りです」

「少々プライベートな話になりますが、彼女とはどういったご関係で」


 服部は二人のやりとりを傍聴しながら息を呑んだ。その先は服部にとって聞きたくない回答だ。


「ご想像通り、私たちは恋人関係です。NINE(ナイン)グループ『国産品友の会』というのは、名前からは想像つきにくいですが、都内に住む既婚者で配偶者暴力に悩む者同士励まし合い助け合いましょうという趣旨のグループです。グループ招待ページのメールフォームに入会したい旨を書き込むと、グループへの招待メールが送られてくる仕組みです」


 服部が質問した。

「今でもそのページへ行けば、NINEグループへの招待メールが貰えるんですか?」

「いいえ。そのページは規約違反ということで運営会社からアクセス禁止処分を受けてしまいました。だから新規の加入は不可能です。

 話を戻しますと、グループに加入した私はそこで繰り広げられるトークを閲覧して、男性であっても女性であっても配偶者からの暴力や嫌がらせに悩む人は多いのだなとあらためて思いました。

 私がその中で特に意気投合したのが“シュテフィー”さんという人……すなわち坂井真紀さんでした。彼女はグループの中でも特に苛酷なDVを受けていたのです。殴る蹴るは当たり前で言葉でも耐え難い罵詈雑言を浴びせられていたようでした。私は彼女と友達申請をして個人的にもやりとりするようになりました。やがて直接会って、お付き合いするようになりました」


 服部は小湊の話を聞きながら坂井陽一郎に対して腹わたが煮え繰り返る思いが沸き起こった。そんな奴、殺されて当然だとさえ思った。城尾はそんな服部の思いをよそに、さらに切り込んできた。


「単刀直入に聞きますが、そのグループではメンバー同士で交換殺人が行なわれているのではありませんか?」

「とんでもない。我々自身が手を掛けるようなことはしませんよ。ただ、グループ中にはDV被害者というわけでもないのに参加して野次馬のように他人の書き込みにコメントする連中がおり、そう言った輩の中に怪しげな動きをする者がいました」

「怪しげな動き……?」

「ええ。DV加害者への復讐を呷る連中です。その一人は“ジッポー”、もう一人は“エッフェル”と名乗る人物でした。ジッポーの方はガスライティングという精神的に人を追い詰める方法について説いていましたが、あまり相手にされませんでした。それに対してエッフェルの発言は怪しいなりに人々の関心を集めていました」

「そのエッフェルとやらの発言が、どうして気になるのですかな」

「状況が絶望的な書き込みに対して、しばしばこんなコメントを書き残していくのです。『駄目もとで神頼みでもしてみませんか。このサイトは実績があってかなり御利益が期待できますよ』そしてその下にサイトのリンクが貼ってあるのです」

「それはもしかして丑の刻参り代行サイトではないかな」

「はい、そうてす。だからエッフェルというのは、自分のサイトの宣伝のためにグループに加入しているのだと思いました。ところが、グループのメンバーで丑の刻参りを依頼した人達が次々に御利益があったと報告しだしたのです。それで真紀と話し合って自分たちも丑の刻参りを依頼することにしたのです」

「因みに呪われた人間の中であなたの奥さんだけは生きているが、その理由で思い当たる節はおありかな」

「いえ……ああいうのも当たるも八卦、当たらぬも八卦という世界なのかと……」

「ところで依頼する時はターゲットの身元を特定出来るような個人情報も申告するのですかな」

「一応サイトから要求されるのは名前と写真です。その他の個人情報は私も真紀も申告していません」

「ふむ……それだけだと警察でもない限り相手を探し出すのは難しいな。エッフェルが実行犯だとすると、どうやってターゲットを特定できたのだろうか」

「さあ……そろそろ私も仕事に戻らないといけないのですが、他に話はありますか?」

「いや、そろそろ我々も切り上げることにしますか。お話ありがとうございました」


 城尾がそう言うと小湊は二人を最寄りの地下鉄駅で降ろして去って行った。


 「真犯人は小湊さんの言う“エッフェル”でしょうか」


 服部の問いかけに城尾は頷いて言った。


「ああ間違いないだろう。そして男性らしいとのことだから近藤小百合でもない。そして一般人には知り得ない情報を入手できる人物だ」


 服部はエッフェルの人物像を色々思い巡らしてみたが、さっぱり検討がつかなかった。

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