点と線、そして壁
「点と点を結ぶもの……そうだ、ネットワークですよ!」
服部が突然言い出したので朝比奈と城尾は目を丸くした。
「服部君、筋道を立てて話したまえ。何のことかわからないぞ」
「目に見えない人と人のつながり……ソーシャルネットワークなどで事件の関係者は繋がっているのではないでしょうか?」
城尾はチンプンカンプンだったが、朝比奈が関心を示して服部に聞いた。
「仮に君の言う通りだとして、どうやってそのネットワークを探し出すんだい?」
「丑の刻参りサイトのリンク元を辿るんです。近藤さんの同意があればサーバー提供者に調べて貰えるんじゃないでしょうか」
「よくわからんが、それで行ってみよう」
そして一行は近藤をピックアップしてサーバー提供者であるクロダインタラクティブ社を訪ねた。社長の黒田鄭太は朝比奈が事情を話すとすぐに対応した。
「いろんなところからリンクされていますが、大体は総合掲示板ですね。あとはNINEさんの《《とある》》グループです」
「ナイン?」
城尾が首を傾げたので服部が説明した。
「携帯のメッセンジャーアプリを使うソーシャルネットワークのことですよ。言葉や写真だけじゃなく、スタンプを押して送ったり出来るんですよ」
「君の説明は相変わらずわかりにくいな。そもそも携帯にスタンプを押してどうやって送るのかね」
服部は面倒くさくなって城尾を無視してサーバー担当者に質問した。
「それで、どのグループか特定出来ますか?」
「ここから先はセキュリティゲートの向こうで、当方ではわかりません。NINE本社さんに尋ねるしかありませんが、ああいう大手はなかなか情報開示に対して慎重ですから難しいでしょうね……」
その言葉を受けて一行は新宿にあるNINE本社を訪れた。そこではプライバシー保護の担当者が応対した。
「ご用件の内容はわかりました。ただ、警察官お一人の要請では情報開示は出来ません」
「ではどうしたらいいのかね」
「当社では司法機関から正式な情報開示要請を受け、それをプライバシー保護組織内で適法性、ユーザー保護の安全性について徹底的に検証致します。その上で適正であると判断した場合のみ情報開示する決まりです」
「しかし殺人事件に関与することなんだよ。何とかならないのかね」
「もちろん自殺予告や誘拐等の人命の保護のため、緊急的に対応が必要なケースの場合、例外的に対応します。ただその場合でもプライバシー保護組織での検証は通過しなければなりません」
「わしらの案件は緊急性があるとはみなされないのかね」
「残念ながら……お話を聞いた限りでは朝比奈さんの案件はプライバシー保護組織の審査を通過するのは難しいと思います。もう少し殺人事件との関連性を明確化した上で情報開示命令を取り付けるのが確実かと思います」
NINE本社を出た一行はみな一様に肩を落としていた。そんな時、近藤がふと閃いて言った。
「私に良い考えがあります!」
「良い考え?」
三人は声を揃えて言った。
「はい。私に任せて下さい。服部さん、手伝ってもらえますか?」
「あ、はい……」
そうして服部は近藤の後について行った。
◯
その翌日、坂井真紀は地下鉄飯田橋駅のベンチで電車を待っていた。待ち時間彼女が携帯を見ているところに服部が現れた。
「先輩⁉︎」
「あら、服部君……」
そう言って真紀は席を立った。
「先日は本当に失礼しました。すみません」
「いえ、こちらこそ……」
そこへ若い女性が駆け込んできて真紀にぶつかった。真紀は持っていた携帯を落としてしまい、若い女性がそれを拾って言った。
「すみません、お怪我はありませんでしたか?」
「いえ、大丈夫です。どうぞお気になさらずに」
真紀がそう言うと女は携帯を返して立ち去った。服部も「それじゃ、また」と言って真紀と別れた。
改札口を出たところで服部は先ほどの若い女……すなわち近藤小百合と落ち合った。
近藤の作戦とはこうであった。まず近藤は服部から真紀の顔を教えてもらう。そこで坂井家から真紀を二人で尾行する。そして真紀が携帯を見てNINEを開いているようであれば、ひょっこり服部が現れ、真紀の注意を逸らす。そこに近藤がぶつかって携帯を振り落とし、画面を見る……というものだった。
「うまく行ったのかな」
「ええ、少なくともグループ名はわかったわ。彼女が見ていたのは『国産品友の会』というグループよ」
「国産品? 何だか如何にも事件と関係なさそうなネーミングだな」
「とにかく城尾さんに報告してみましょうよ」
◯
二人が事務所に行って城尾に報告すると、城尾は口角を上げて言った。
「国産品か……なるほどな」
「何か分かったんですか」
「君のタブレットには和英辞典は入っているか? もしそうなら『国産品』で引いてみたまえ」
服部は城尾に言われるままに辞書アプリで引いてみた。そして出てきたワードを見て服部と近藤はハッと息を飲んだ。