05 すくいのない俯瞰
建設途中で打ち切られた高層の建物に忍び込んで階段には上れるようだったから上へ上へと進み、部屋になる予定だったであろう場所の冷たいコンクリートの地面に小さく膝を抱えて顔をうずめる。
一人で静かに考え事をしたかったからとは言え、ここで無くとも良かったような、ここで良かったような微妙な気持ちだ。
自ら死を選んで、実行に移すなんてことは本来ならあってはならないことなのだから、そうしようとしたらこの身体はいくらでも躊躇って動かなくなるだろう。当然だな。
過ごしてきた時間が短ければ短いほど、振り返ることも少なくてすむのに。
多少なりとも変わった事象にいくらか遭遇して、それでも、いまのいままですごしたささやかで幸せな時間に比べたらそれが全てとは言えない。
死ぬに死ねなくて他のことで補う人間もいるらしいがそんなことはしたくなくて、それだったら突発的にすぐに終わらせられることの出来るものを選んで……実行……その実行ができないんだよな。
死ぬために実行に移すような気持ちと行動力は無くなっていたが、いつの間にかそれがなくなったとおもっても、またいつの間にか死にたくなるから、実行に移せなくなったとしてもこの先なにがきっかけかも分からずにそんな思考を繰り返すだろうな。
「……つかれた……」
建物として完成していれば窓でもはめ込まれていたであろう部分から夕焼けの光が差し込んできて、なにをするでもなく空をみる。
夜が近付いていた。
この夕陽が終わって完全に暗くなってしまえば見えていた部分も見えなくなって、階段でも踏み外すかもな。とは思う。
ポケットに入れている携帯が振動して鬱陶しくて取り出し、どこからの着信かを見て仕方なく出る。
「……うるさい……探すな。ついてくるな。ほっといてくれ」
答える暇をあたえず電源ボタンを長押しして画面を暗くした。
怒ってるわけでは無いし、なんの恨みもないが少し悪いことをしたような気がしないでも無い。
長くため息をついた。
おわり




