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04 此処にいるのは……

 僕は椅子に座ったままぼんやりと、なにか見ているようで見ていなかった。こうしていたのはそれほど長い時間でも無いとおもうけど、眠れなかったからこうしていて、いくらか時間はたったのだろう。

「……待宵さん?」

 ドアの開く音がしたあと、名前を呼ばれる。

 その声に特別返すつもりもなくて、テーブルの上ににぎったままのせていた手を開いて膝の上にのせた。

「ルナ……」

 今度は僕が名前を呼ぶ。

 電気をつけていない暗い部屋で背中を向けているから特に何も見えない。

「はい」

「どうしてまた僕の所に?」

「お話の前に……電気をつけてもいいですか?」

 椅子から立ち上がってカーテンを開けると、夜なことに変わりは無いけれどぼんやりした明るさに変わった。

「話を聞いたら眠るつもりだから、これでいいかな?」

 あくまで眠るつもりであって、断言まではしていない。

 また椅子に戻ると、ルナは向き合うように僕の前にあるもう一つの椅子に腰掛けて、こくりと頷いた。

「えっと……あなたが最期を迎えようとした場所のすぐ近くのお部屋に……私の身体があったんです……」

 単純な話に聞こえて実際単純なんだ。今の彼女は息もしているし、触れればあたたかくて、食事もするしなによりも現れたり消えたりしないで、ずっと僕のそばにいる。

「じゃあ、君は誰」

「……私は……あなたが心を作ってくれたから、ここにいます……」

 ここ数日行動を共にしてみてわかったけれど、特別性格も変わってはいないようだし、僕と過ごした時間のことを覚えていることは確かだ。

 ルナとして僕のそばにいてくれるのは、きっと、今のお互いにとっては良いことに見える。

 でも……それでいいのか?

「だから、私はルナです」

 どんな感じで肉体があったのかはわからないけど本来あったであろう誰かの名前や記憶は?

「それでいいの?」

「……この身体の中には、なにも、なかったんです……きっと、本来なら、私がこうしていることはできなかったの……」

「そう」

「私が此処にいるのは、また、待宵さんに会いたかったから」

 薄暗い部屋の中、ルナは嬉しそうとも寂しそうともつかない声でそう言って、僕にむかって微笑んで見せた。

「君がそう思ったのなら、それでいいよ」

 此処で突き放したりしたら、お互いひとりぼっちになる。

 一人なのは嫌いではないけど、ルナにはきっと……耐えられないだろうから。

 それに、僕だって……。

「教えてくれてありがとう。これでよく眠れるかもね」

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