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ヒカリ探し

作者: 瑠璃茉莉

初めて投稿するため、読みにくいかも知れませんがこれから精進したいと思います。


古い図書館から始まるの小さな世界のお話です。


どうぞお付き合い下さい!


これはいまより未来の話。


人類は進歩した。

仮想を現実にしたり、言葉を交わさずとも想いを伝えたり。

車はタイヤを無くし、天候を操ることもできる。

新たなエネルギーで資源不足も改善され、素晴らしい世界になった。

けれど、進歩した分無くしてはならないものまでも無くなったりしている。

人のコミュニケーション能力や運動能力。

隠蔽された数々の犠牲。

天候を気にしなくなった人類は、環境も気にしなくなった。

汚れた海、消えた森林。

郊外に放置されたゴミの山。

だけど、ほとんどの人間がそれが当たり前だと思っている。

いや、そんなこと知らないのかもしれない。

俺、本木もとき 梓諳しおんはそんな世界をおかしいと思っている。

それというのも、古いものをこよなく愛し、新しいものをとてつもなく嫌う祖父の影響だろう。

今は電子書籍といって世界から“本”が消えている。

そんな中俺の家は、図書館なんかをやっている。

勿論、人はほとんど訪れない。

図書館なんかに行くために体を動かすなら、お金を出して電子書籍を買う。

それが当たり前だ。

どうして人類はこんな風になってしまったんだろう。



「じぃちゃーん、ただいま」


図書館の入り口を開けて、いつも通りただいまの挨拶。

そこで、珍しいものをみた。

図書館の利用者だ。

ドアを開いたまま硬直した。

一体何年ぶりの利用者だろう?


「おお!梓諳、早く入れ」


祖父が珍しく上機嫌なのは利用者がいるからだろう。

ん?あれは…

うちの学校の制服じゃないか?


「君、うちの学校の子だよね?」


思わず聞いてしまう。

どうやら何かを探しているようだ。

少し不機嫌そうな目で見られる。

胸のところにある名札には芙雪と記してある。

え、あれ?“芙雪”って…もしかして、芙雪ふゆき 百合ゆり

彼女は学校一の美女と言われている。

確かに整った顔立ち、見惚れるようなスタイル。

モデルみたいだ…。

それにしても、そんな美女が一体なにしにこんな所へ?

「なに探してるの?タイトル言ったら多分わかるよ」

ここにある本は全部読んだ。

面白い本もつまらない本も、楽しい本も難しい本も。

タイトルも内容も場所も大体覚えている。


「学年ワースト6位に何言っても無駄でしょ」


なっ…!

なんでそれを知ってる⁉

しかも何だその軽蔑した目!

噂は本当だったのか。

美人で文武両道、だからなのか他人を見下す癖があるようだと…。

彼氏も作らない。

だから彼女のあだ名は、高嶺の百合。


「あのなぁ…ワースト6位でも分かるもんはわかんだよ」


少しイライラしながら告げる。

確かに馬鹿だが、そんなに見下される筋合いはない。

だけど彼女はこちらを見ようともせず、本棚と向き合っている。


「このご時世に検索する機械もないの?」


不機嫌そうに睨まれる。

仕方ないだろう、俺のじぃちゃんは機械が大っ嫌いなんだから。

俺に携帯すら持たせないんだから。

せめて携帯くらいは…なんて言ったら家から追い出されてしまった。


『そんなもの無くても生きていける!それが嫌なら出ていけっ』


と、怒鳴られた。

その原因は俺の両親の死にも関係あるだろう。


「残念ながらそんなハイテクなものうちにはありません。なんせ本を置いてるくらい古い所ですから。必要ならば俺が検索しますが?」


少し挑発的に言ってみる。

案の定、彼女の眉間に皺が刻まれる。

怒っても美人だな…。

そう思ってしまう自分が悔しい。


「……」


何を言い淀んでいるんだろう?

早く言えよ。

少しずつイライラしてくる。

なんなんだ、自分より下の奴に聞くのがそんなに嫌か?

ふざけんなよっ!


「…の」


文句言ってやろうとした時、なにかをボソッと言った。


「は?なに?聞こえないんだけど」


トゲトゲしい言い方になってしまった。

もっとはっきり話せよ。

なんなんだ!


「た、タイトルを覚えてないの!わかんないの!」


顔を真っ赤にして怒鳴られた。

え、もしかして覚えてないのが、恥ずかしい、とか?

結局俯いてしまっている。


「えーと。…どんな話?ストーリーを教えてくんない?」


ピクッと反応して、更に下を向かれる。

こいつもしかして、人を見下してるんじゃなくて、コミュニケーションとるのが苦手で、そういう態度をとってしまうだけ?

つまり、現代人の特徴の一つ、コミュ障で、それでいて意地っ張り?


「じ、自分で探すから、ほ、ほっといて!」


もう一度睨みつけられて、踵を返された。

はぁ…タイトルもわからないくせにどうやって探すんだか。

どうせ今近づいても、睨まれるだけだし様子をみるか。

この図書館は敷地が狭いため、少しでも本を置けるように二階がある。

その二階から彼女をみていると、何故か絵本や子供向けのところばかりを見ている。

一体何を探してるんだろう。

因みに子供向けの本だけで852冊ある。

探すのはかなり大変だと思うんだけど…。

30分経ったけど、見つけれていないらしい。

頼ればいいのに。

タイトルが分からなくても、内容を言ってくれればたぶん分かる。

自信は微妙だが。


「はぁ…いい加減聞けば?」


焦れったくなって、こちらから声をかけた。

静かな図書館だから、二階からでも声は届く。

それでも聞こえてないフリをしているようだ。


「ふーん…高嶺の百合さんは耳が遠いんだー、聴力弱いんだなー」


挑発してみる。

相変わらず黙ったままだが、皺が刻まれている。

ほんと、単純…。


「頭脳明晰って聞いたけど、効率のいい方法を使わないなんて、意外と“おバカ”さんなんだ…」


どんどん不機嫌になっていくのが見て取れる。

“おバカ”を強調して言ってみた。

案の定、不服らしい。

ん、意外と忍耐強いな。

もう一押し。


「コミュ障で意地っ張りな素顔を、学校で言った…」


「ああ!もう、うっさいわね!」


俺の勝ち。

可笑しくて笑いが止まらない。

彼女には悪いけど、ちょっと面白いなんて思ってしまった。


「なんなのよ⁉なんの恨みがあって私に構うのっ⁉」


化けの皮が剥がれて、饒舌になっている。

そんなに人と話すの、苦手なのかな?

コミュ障って大変だなぁ。


「恨み?そんなの無いけど。ただ数年ぶりの利用者に目的の本を探したいだけ」


古くても小さくても、品揃えはいいのだ。

確かに少し古すぎて読めないものや汚れたものもあるが、ある程度は満足してもらえるはずだ。


「何が目的のものよ!だだのいやがっ…」


その時、彼女の腕時計が鳴った。

腕時計の一部を押すと、そこから画面が現れる。

そこに、男の人が表示され何やら彼女と話し始めた。

いいなぁ…腕時ケータイ。

ネーミングは最悪だけど。


「わ、私帰らなきゃ。もう二度とこないから!」


引き止める暇もなく、机に置いていた鞄をさらうように取り、そのまま走って出て行った。

コミュ障の友達はいっぱいいるけど、あそこまでのはいないなぁ。

あ、今はあまりコミュ障じゃないなあいつら。

俺と関わると人見知りが無くなるらしい。

意味がわからないが、治ったのならよかった。

さて、明日から頑張りますか!



「梓諳、おはよう!」

「おはよう」

「梓諳くんおはよう」

「おはよう、そのイヤリング可愛いね」


男子も女子も先輩もみんな友達だ。

この学校はクラスがない。

だからこそ、他以上に多くの人と関われる。

話しかけたら皆と仲良くなった。

この学校で知らない人はいないくらい。

皆の挨拶の中、今まで近づかなかった彼女を見つける。

彼女に近づかなかったのは、関わりが少なかったのと、近づくなというオーラが出ていたから。

けど、昨日のことがある。

少し息を吸い込んで、駆け出す。

軽く背中を叩いて、おはよう!と言ってみた。

彼女の驚いた顔と周りの視線が一気に集まるのを感じた。


「え、梓諳が高嶺の百合に話しかけたぞ」


そんな声が周囲から聞こえてくる。

彼女もそれに気づいているため、昨日みたいには怒鳴れないはずだ。


「ちょっと、馴れ馴れしく話しかけないでくれる?」


コミュ障のくせに意地っ張りだから、それで今までやってこれたのか。

冷たく言い放たれる。

そのまま歩き去っていく彼女を深追いはしない。

無理にしてもきっと心は開けない。

開けないと、ストーリーを聞き出せない。

あくまで俺の目標は彼女に本を見つけることだ。

そして一日中いろんな人に高嶺の百合を狙ってるのか?と聞かれまくった。

勿論、狙ってない。

そして放課後。

学校のPCルームに行ってみた。

学校から図書室が消えた分、こういうところが増えた。

つまり勉強室だ。

案の定、彼女はそこで勉強していた。


「毎日毎日、ず〜〜と勉強で疲れないの?」


無視。

まぁ、予想通りの反応だな。

パソコンの画面と教科書を見比べて、ノートになにやら書き込んでいる。

うん、馬鹿な俺には理解できないな。

英語か?

多分そうだよな?


「芙雪が探してるのって絵本?」


昨日、彼女が探し回っていたのは子供向けばかりだった。

絵本や童話を探してるのかな、と予想した。

彼女の手が動きを止める。

そして、睨みつけられた。


「お願いだから、話しかけないで。あれはもう諦めたからいいの!」


そう言って立ち上がり、勉強道具を片づけ始める。

そして、全部まとめて出ていくので一緒に出る。

軽いストーカーだけど、別にそういう目的じゃないからいっか。


「芙雪が諦めても俺は諦めない!」


目元にピースして、少しカッコつけてみたけど、思い切りスルーされた。

せめて睨んでくれよ…。

スルーほど哀しいボケはねーぞ。

せめてどんな話か聞けたらなぁ。

大体の想像はつくだろうし、もしうちの図書館になくても、じぃちゃんみたいな古いもの好きのコレクターに譲り受けることくらいできる。

うちの図書館にはプレミアやコレクターが欲しがるレア物が多いのだ。

交換という条件なら譲ってくれるだろう。

数年ぶりの利用者の願い、絶対に叶えてみせる!

若干、図書館の係り以上の熱意を持ちながら数日間、聞きに聞きまくった。



そして一週間経った日。


「あなたってさ、しつこいって言われない?」


三日ぶりに口を聞いてくれた。

最近は無言で逃げられることが多かった。

昨日と一昨日なんか、皆の中に紛れて上手く躱されるから、近づくのが大変だった。


「んーないなぁ…。皆俺のこと悪気のない明るい馬鹿だと思ってるから…」


自分で言ってちょっと虚しい。

普通、自分の携帯ゲームや勉強で忙しくて人と関わりをもたないから、皆話しかけられることが珍しくて、楽しいらしい。

俺はゲームも勉強もしないから皆と話したい。

俺には話しかけやすく楽しいから、コミュ障なのに関われるらしい。

そしてそこから、輪が広まってコミュ障がなくなるとか…。

自覚がないからよく分からない。


「…なんで、そ、そんなに構ってくるの?」


視線を下げたまま呟くように聞かれる。

その声は今にも消え入りそうだ。

なんで2人きりだとコミュ障全開?

他がいると意地っ張りなくせに。

よくわかんねぇ。


「お前が話して、お前の探し物を見つけるまで構うよ?」


下を向いてて見えないだろうけど、笑顔をつくる。

それに、できれば芙雪にもコミュ障を治してほしい。

俺と話したらコミュ障が治るらしいし。


「…わ、わかった。ストーリーを話したら構わなくなる?」


少し長めの前髪から上目遣いにこちらを見る。

恥ずかしくてか、赤く染まった頬と上目遣いのWアタックで一瞬ドキッと鼓動が鳴る。


「ん、あ、あぁ…」


動揺で変な答え方になってしまったが、芙雪は気にしてないみたいだからチャラだ。

そして、彼女から聞いた絵本のストーリーは、読んだことのある本だった。


それは、小さな女の子が隠れてしまった月を探すお話。

色々な星に聞いて、探検して、そして太陽の後ろで見つけるのだ。

月が「太陽より輝いていない」と泣いているのだ、だけど女の子は「昼は太陽が輝いて、夜はあなたが輝かないと、とても困るの」と、月に月自身の大切さを教えて最後は皆、元に戻るというものだった。


「確かあの話は『ヒカリ探し』だった気がする」


帰り道そんな独り言を呟いた。

あれはあの図書館にある!

けど、帰って一気に探す気が失せた。


「じぃちゃんなんで、なんでこのタイミングで…」


いつも通り扉を開けると、中は埃が舞っていた。

じぃちゃんは頭にバンダナを巻き口にはマスク、手にはハタキを持って図書館を大掃除していた。

本を移動して。


「おお、梓諳!おかえり、手伝え!」


あぁ…。

探すの、大変。

どーしよう…。

とにかく彼女にはもう少し待ってもらおう。

少しくらいなら、大丈夫、だよな…?


「ない、ない。ない!ないっ!これも違う、違う、ちがーう!」


身体から一気に力が抜ける。

本の山の中にとうとう寝転がった。

あれから3日。

朝おきて探して、学校行って、帰ってきて探して、晩飯食ってまた探したけど、見つからない。

じぃちゃんが片づけすると、こうなるから嫌なんだ。

どこの棚にどんなジャンルを置いてるか考えてしてるのに、ジャンルもなにも気にせず重ねて置くから、分からなくなる。

分別が大変だと何故気づかない!

詰め寄ると「いやぁ、すまんすまん。気にしとらんかった、梓諳、あとは頼んだ〜」とか言って逃げてくし。

頼んだじゃねぇよ!

こっちの身にもなってくれ…。

一体何回同じことをしたと思って…。


「はぁ…」


そんな風に心で呟くのも疲れてしまった。

ほんとにこの本山どーしようかな。

あ、そうだ。

次の日、学校で芙雪に話しかけた。


「まだ、構ってくる気?しつこいわね。いい加減にしてくれる?」


意地っ張りモードは気にせず、冷たく睨んでくる目も気にせず、お願いしてみる。


「あ、あのさ芙雪さん。俺から最後の頼み、頼みを聞いてくれたらもう二度と話しかけないから」


“頼み”の内容は言ってないけれど、“二度と話しかけない”の一言に獲物が釣れた。


「頼みってのは、この中からあの絵本を探すのを手伝って欲しくて」


学校帰りに図書館に立ち寄ってもらった。

未だほとんど片付け終わってない図書館は足の踏み場もない。

その本山を見て、彼女がドン引きしてるのが見て取れるが、仕方ない。

この中から一人で探すのはあと一週間以上かかる。

ん、あれ。


「わー!待って、待ってって!」


学校の鞄を持って帰ろうとした彼女を慌てて引き止める。

気づいたら横に居ないし焦った。

無言のまま帰ろうとする彼女をすがるように、引き止める。


「ぃや!離してっあんな中から見つけれるはずないじゃない!」


それはそうだけど、2人の方が効率いいじゃん!

だから、頼みます。

お願いしますぅ〜。

その時、芙雪が開けた扉の隙間から風邪が勢いよく入ってきた。

うちの高校の女子制服はスカートが短い。

よって目の前に広がるコレは、すがりついていた俺のせいではない。

断じて。

突然吹いた突風と、学校の法則のせいだ。


「き、きゃあっ!」


顔面に膝蹴りをくらった。

今、自分の鼻から垂れている血は膝蹴りをくらったせいか、それとも女の子のトップシークレットをみたせいか。

あー、隙間風が寒いなぁ。

身体と顔は熱いけど。



次の日は土曜日だった。

いつも通り学校へ向かう。

けど、教室には向かわず、この間のPCルームへ向かう。

流石に土曜日、彼女しかいない。

それを確認して、彼女の脇に立つ。

そして、土下座した。


「昨日は本当にすみませんでした。ふ、不可抗力とはいえ、その…すか、えと、男の未知の世界を覗いてしまって…申し訳ありませんでした」


スカートの中とは言えなかった。

恥ずかしいわ、申し訳ないわ。

………。

あまりにも長い沈黙に耐えきれず、ちらりと盗み見ると汚いものを見るような目で見られていた。

その視線に耐えれず視線を落とすと、スカートから見えている足が目に入る。

白の無地だった。

真っ白な肌によく似合う白のモノ。

めくれたスカートと純粋な白のアレは男心をくすぐるには十分すぎるものだった。

いや、十二分だ。

それにくすぐるなんてものじゃなく、その先をもうそっ…。

…俺はまだ捕まりたくはない。

もう少し高校生活を送りたい。

ごめんなさい。


「…二度と私に近づかないで」


静かに告げて、帰ろうとされた。

だが、それは許せない。

どうしても、ついてきてもらわなきゃいけない。


「マジで色々、ごめんなさい!」


そう言って彼女を担ぎ上げる。

俺は馬鹿な分、体力と力がある。

運動だけならこの学校で一番だ。

彼女を担ぐなんて余裕だ。

それに、軽い…。


「ひやぁぁ⁉な、なにす、お、降ろして、降ろして!」


背中をドンドン叩かれるが痛くもなんともない。

力弱いな…。

あ、でもこれだと、街中に芙雪のパン…を晒すことになってしまう。

それはまずい。

非常によくない。

ゆっくりと降ろすと、顔を真っ赤にして、ものすごい目で睨みつけられた。

まぁ、当然の反応ですね、はい。


「ごめん。でも、これが最後だから、お願いついてきて…」


頭を下げる。

本当にこれで最後だから。


「…わ、かった。ついていったら二度と関わらないで」


けど、と続ける。


「『探して』なら手伝わない、よ…。あんな中から見つからないもの」


違う『探して』じゃないんだ。

そして、無言のまま帰路を急いだ。


「え、これ…」


やっぱり驚いてるようだ。

それはそうだろう。

昨日と半分は、かなり違ってるんだから。

あれから、必死こいて半分だけ片付けた。

初めからそうすればよかったのだ。


「これ…だよな?」


片付けている時に見つけた絵本。

『ヒカリ探し』だ。

見つけたその後、他の本も片付けた。

一階はこれでなんとかすっきりした、のだが…。


「な、なんで泣くんだよ!?」


本を抱きしめたままボロボロと泣き出してしまった。

どうしていいかわからず戸惑ってしまう。


「な、え、ど、どうしたっ⁉ふ、芙雪?おい?」


昨日のことがあって触れない。

背中を摩ってあげたいのだが、どうしよう。

しばらく、ただそばにいた。

10分くらい経った頃だろうか。

ポツリポツリと話してくれた。


「この本ね、小さい頃死んだお母さんが、寝る前に読んでくれたの」


そこで少し芙雪の腕に触れる。

腕を引いて、図書館内に125個ある椅子の一つに座らせ自分もその隣に少し距離を置いて座る。


「お母さんもこの話が好きで、なにより星が好きで…」


死んだ母との大切な思い出のものだったらしい。

だけど、母が亡くなって少しして父が新しい義母を連れてきてから、母との思い出の品は全て捨てられたそうだ。

どんなところに行っても“本”はなく、もう諦めかけていたらしい。


「っ、ぐす…ありが、とう」


涙を拭いながら笑顔を作られた。

この絵本は俺も好きだったな。

そうだ!


「なぁその本、芙雪にやるよ」


俺も笑顔で答える。

昨日のお詫びでもある。

それで許してもらおうとは思わないけれど、彼女の思い出が取り還されるのなら。


「え、でもこれ図書館の…」


「大丈夫。俺は本の数を把握してるけどあの頑固じじぃは気にしてないから」


そう。

一冊くらい無くなっても多分、気づかない。

沢山の本に囲まれていればあの人は気が済むのだ。

バレても俺が怒られるだけだ。

それくらいお安い御用だ!


「あ、そろそろ帰らないとまずくない?昼だしお腹空いただろうし」


家の人が心配とか、この図書館には食い物はないからもてなせないし。

それにあんまり俺みたいな変態といたくないだろうし。

そして少々強引だが、出口まで送って行く。


「あ、ねぇ!」


出口の直前で呼び止まられた。

ん、日本語おかしい?

まぁいっか。

俺、頭悪いし。


「あ、あのさ。えと、その私さ、口下手だから、上手く言えないんだけど…」


必死に言葉を考えているようだ。

確かに口下手だな…。

なにが言いたいんだろう?

急かしはしない、それは逆効果だと思うから。


「あ、あのね、その…友達、になってくれない、かな?私、こんなんだから、友達一人も居なくて」


と、友達?!

俺と芙雪が?

昨日、あんなことがあったのに?

いや、それは置いておこう。

意地っ張りじゃ、友達もできにくいよな。

ただ…


「俺なんかが友達第1号でいいの?」


きの…それはもういい。

俺ってしつこい性格なんだろうな。

気をつけよう。


「うん」


静かに小さく答えてくれた。

いつの間にか友達になっていたことはあっても、こうやって『友達になって』と言われたのは初めてだ。

なんだか嬉しくて恥ずかしい。

それは芙雪も同じみたいで、扉の前で2人して赤面した。


「あ、だからって昨日のことは許さないからね?それとこれとは別の話。また今度話そう」


や、やっぱそうだよね…。


「それから、本のお礼に…勉強教えてあげる。馬鹿なわけじゃないみたいだし」


勉強、勉強教えてくれるのか!

それはすごく、嬉しい!

こんな美人に個人レッスンなんて!

でもやっぱごめんなさい、不可抗力でもすみませんでした。

女の子のそれ覗いちゃうなんて。


「ふふっ。ねぇ、友達って名前で呼び合うんでしょ?」


名前で呼び合う?

別にそんなルールは無いんだけど。


「私も、呼んでいい?」


ちょっと驚いた。

けど、コミュ障にはいい薬かも知れない。

そう思い、いいよと頷いた。

すると、扉を開けて数歩進む。

そして、笑顔で振り返って手を振られた。


「じゃあね!梓諳っ!」


と、言いながら。


…不覚にもその笑顔はとても可愛いと思った。

初投稿で勝手が分からぬまま書いたのでほとんど駄文と思われると思いますが、ここまでお付き合い下さりありがとうございました!


これからもどうぞよろしくお願いします!

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