04 取り引き 〜生後2日半〜
俺と梨奈さんの部屋にスーツでビシッと決めたお姉さんが入ってくる。何の用だろうか。
「貴方が神崎梨奈さんでよろしいかしら?」
「えと…貴方は誰ですか…?」
「…そうね、私の名前を言ってないのに名前を聞いてしまったわね、失礼…んんっ」
謝罪の文を一言、一度咳払いをするとスーツ姿の女の人が自己紹介をする。
「私は人類再生プロジェクトの最高責任者、安藤遥と申します、以後お見知り置きを」
「…はぁ…」
「貴方のお子さんですが条例第3条、簡単に言うと『X染色体の持つ生物、及び人間を発見した時は直ちに引き渡すこと』これに則り貴方のお子さんを保護させていただきます」
くそ!やっぱりか!そりゃ女しかいない世界で俺みたいなのが産まれたら実験台のモルモットになるのが関の山だよなぁ!
「そ!そんな!私たちいまさっきまでこの子を産んだばかりなのですよ!?」
がらがらがら!
その時狙いすましたかのようなタイミングで能天気に千佳さんが俺たちの部屋に入ってくる、袋の中にはすでにビールとつまみのチーたらが入ってた、どうやら外のスーパーまで行って買ってきてたようだ…それにしても昼間から飲むのかよ…
「…何の用ですか?」
「どうも、人類再生プロジェクトの最高責任者の安藤遥と申します、この度はお子さんが生まれたこと深くお祝いさせていただきます」
「…ねぇ、まさか内らの子供取り上げにきたとか言わないよね?」
「取り上げるなんてとんでもない、我々で保護させていただくだけです」
おいおい、流石に今のは誰でもわかるだろ、血を根こそぎ取って血液サンプル、成熟し次第精液も採取して実験に実験を重ねさせていただきますって言ってるのバレバレだぞ
「ふぅん…『保護』ねぇ…」
「ち、千佳ちゃん…」
「安心して梨奈、うちがどうにかするから、こんなところで立ち話もなんですし一度座りませんか?とはいえ小さな椅子しか有りませんが」
「…そうですね、ではそうさせていただきます」
千佳さんはそう一言声をかけお互いに向かい合って座り合う、梨奈さんはベッドの上から身を起こして心配そうに二人のことを見つめている、俺蚊帳の外だなぁ…まぁ当たり前か。
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椅子にどっかりと座った千佳さんは袋からビールを一つ取り出してプルタブを開ける、おい、飲みながら話す気なのかよ…
「…本題に入らせていただきます、いますぐとは言いませんが退院と同時にあれの身柄を引き渡してください」
「あれなんて言わないでください、あの子にも綾って名前があるんです」
「…失礼いたしました、では綾くんの身柄を引き渡してください」
「しばらくは…待ってもらえないのですか…?」
重苦しい雰囲気のまま会話が進んでいく、おもいよぉ…てか俺のことをまるで犯罪者みたいな感じに言わないでくれ、身柄ってなんだ身柄って…
「…それはどのくらいの期間ですか?」
「あ、あの子がせめて成人するまで…」
「無理です、それでは一番研究したい第二次性徴期の間のサンプルを取ることができませんから」
ものすごい簡単に言うと俺の新鮮な精液がほしいってか、まぁ当たり前と言えば当たり前の回答だよなぁ
「じゃ、じゃあ中学生まで…」
梨奈さんがベッドの上から恐る恐る口にしてみる、そりゃあ無理だな、なぜなら__
「それも無理です、子供の第二次性徴期は早い子ですと小学生5〜6年生の頃にはもうやってきたりするのです、それでもまだ遅いです、ですので限度としては幼稚園卒業なさってからでも引き渡していただきます」
と、まぁこんなところだよなぁ、無難な交渉だわな、俺なら情がうつる前にいまここで決断して引き渡すか幼稚園卒業と同時に引き渡すかぐらいだなぁ…
「そんな…」
「ふざけないでください!あの子の…子供の命をなんだと思っているんですか!」
「ふざけてなんかいません、むしろふざけているのはそちら側です、この子は全世界で唯一の男子、それの意味するところがわかりますか?」
「………」
「この子は全人類の希望なのですよ、あなたがたのような何も知らない一般人が価値ですって?冗談はおやめください」
…やめろ…もう…やめてやってくれよ…安藤さん…
「身柄を引き渡してください、でないと条例第3条に違反したことによりあなたがたを武力行使で拘束、その上であの子を回収させていただきます」
「………」
もうやめてくれ…いくらいまさっき目が覚めて記憶が混乱してた俺でもわかる…この人たちはそんな悪い人たちじゃない…っ!ちょっと頭のネジが緩んでるくらいでなんも悪いことなんかしてねえじゃねえか…っ!
責めないでくれよ…子供を持つ親なら当然の反応だろう…っ!
「納得いただけないのでしたら私たちも鬼ではありません、きっちりと謝礼金、1億円ほどご用意させていただく予定です」
「お…お金の問題じゃあ…っ!」
「では何をご用意すればよろしいですか?私たちのできる範囲でしたら一軒家丸ごと、ついでにお車も届けさせていただきますが…わかっていただけませんか…?」
しばらくの間無言の時間が流れる…
息を呑み、一言一言絞り出すように目頭に涙を溜めながら千佳さんが呟く。
「…では…幼稚園卒業の時に…っ!」
千佳さんと梨奈さんの顔はすでに涙とぐちゃぐちゃに歪んでいて見るに堪えないくらい泣きじゃくっていた…
「ご理解いただき感謝いたします、それではまた…後日お伺いしてサインをいただきます」
そう言いながら安藤遥は俺たちの部屋からすました顔で出て行きやがった…
今まで希望に満ち溢れた幸せな時間から一転、『取り引き』を終えた彼女たちに残ってたのはただ一つの『絶望』だけだった…
本日の更新の分となります
今日はバイトがあるので夜中の投稿は厳しいので夕方に投稿させていただきます
次回の更新もできれば明日したいと思います、ではでは