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043 第一章刹那31 容喙


 放課後。瞬と二人で時計棟に向かう。


「今日からテスト準備期間だけどさ、執行部も活動禁止になるの?」


 執行部も活動禁止になるのではないか。そう思って朝から不安に駆られていた俺。刹那に訊こうとも思っていたが瞬に訊いてみた。


「あー、執行部は活動休止しないよ。というかテスト期間中にも仕事はある」


「そっか」


 よかった。胸につっかえていた物が取れたみたいにスッキリした。


「なんだよ、十八。ニヤニヤして……。いや、待てよ……そうか! ……お前、さては!」


 ホッと胸を撫で下ろした俺を見て、何やら盛り上がり出す瞬君。


「さてはって?」


 瞬はたまにこうして意味不明になる。俺も人のこと言えないけど。


「お前、観覧車の中で刹那とどうなった!? いや、刹那はどうだった!?」


 くわっと目を見開いて詰め寄って来る瞬。何を勘違いしてるのかすんごい興奮状態だよ。どうなった? どうだった?


「いや、刹那は優しかったよ」


「――んなぁっ!! お前っ急展開すぎだろぉっ! っていうか優しかったって、十八がリードしなくちゃ駄目だろぉっ!」


 何が?


「いやぁ……俺とした事が何やらドキドキしちまうじゃねぇか……。自分の姉貴が身近なヤツとなんてよ……。深いぜ、ディープだぜ、15禁突入だぜ」


 何故かほんのり顔を赤らめて意味不明発言を連発する瞬。


「えーと、瞬? 悪いけど瞬の考えてるような事は一個も無いよ?」


 瞬の考えてる事はわかるが、目の前でこうまで盛り上がられると逆に冷静になれる。


「……むぅ、つまらんなぁ……。ちょっとは焦ってくれてもいいじゃんかよぉ」


 俺が冷静な返しをした途端に口を尖んがらせて顔をしかめる瞬。そんなこったろうと思っていたが、やっぱり俺を焦らせようとからかっていたらしい。


「まぁ俺が手を貸さなくても順調に進展しているみたいじゃないか」


 変なノリを解除した瞬。いつも通りの口調で言う。


「進展してるのかどうかはわからないけど、ある程度は普通に話せるようになって来たよ」


 それにその『普通』は瞬のお節介のお陰に決まってる。


「……そうか。えー……どうだ? 刹那と一緒にいれそうか?」


「…………」


 たくさんの解釈で捉える事が出来そうな言葉。


 いつかの質問と重なる言葉。


 あの時は『生徒会はどうだ?』と、聞いてくれた。俺がらしくない期待を描き始めたあの時。……本当に俺の親友はこういう時だけわかりやすい。そして、どうしようも無い位にお節介だ……。


「ああ、大丈夫。お前がいる限り大丈夫だよ」


 俺は知ってる。明日への期待がどれだけ馬鹿げているか。どれだけつらい事なのか……。


 瞬は変わり始めた俺を心から心配してくれているのだろう。だから隣にいてくれる。言葉を返せば笑ってくれる。


「そうか……まぁいいけどな。とにかく、多少の制限はあるが執行部はいつも通りだ。安心して刹那にアタックしろ」


 にゃはは笑いでそう言うと目の前の扉に手を掛ける瞬。


 瞬が手を掛けた扉は会長室の扉。瞬と喋りながら歩いていたらいつの間にか会長室に着いていたみたいだ。


 ノックの後、扉を開ける瞬。同時に俺の暖かい感情が強くなろうとする。


「――十八っ!! ちょっと来なさい!!」


「えええぇぇぇっ!!」


 扉が開き切っていない内に部屋の中から怒声が響く。刹那の声である。ほわりと拡がろうとしていた暖かい感情が行き場を失ったのか変な声を上げてしまった。


「な、なんだなんだ? 刹那。どうしたんだ?」


 俺の前に立つ瞬も驚いた様子で中を覗き込んでいる。


「うっさいわね! ほらっ! いいから机の前に立ちなさい!!」


「わ、わかったよ」


 尚も続く刹那の大声に俺は慌てて中に入る。何か知らんけど怖い。というか会長室全体が息苦しい位の圧迫感で包まれてる気がする。恐る恐る机の前に立って刹那の方を見ると明らかに憤慨している刹那に睨まれる。


 なんで?


「あなたにはちょっとがっかりしたわ」


 怒りの表情もそのままにそう言うと大きなため息を吐く刹那。


「な、何が、かな?」


 刹那の怒ってる理由が全くわからない俺は恐る恐るだが訊く。かなりビビってる。


「これは! どういう! 事なの! 十八!」


 バンバンと机を叩きながら言う。っていうか怒鳴る。刹那の示した方を見てみると数枚のコピー用紙。既にびっしり印刷されてるそれを取ってみる。



 2年F組、塩田十八

 二学期中間考査結果


 現国 65点

 英語 52点

 数学 74点

 化学 66点

 etc……


 などなど、その他の教科もどれを見ても平均点よりちょっと上くらいの点数。


 総合平均点 68点


 by徳川志乃



 ……徳川先生、ひどいや。


 まぁ、勝手に公開された俺のテスト結果だが、別に悪くは無い。むしろ全教科を平均点オーバーしている訳だからいい位なんじゃないか?


「俺の中間の結果みたいだけど、これがどうかしたの?」


「どうもこうも無いわよ! あなたがこんなしょっぱい点数取ってたなんてがっかりもがっかりよっ! このゾウリムシッ!」


 単細胞生物?


「なっ……そんなに駄目なのかよ?」


 どうやら俺のテスト結果が気に入らないらしい刹那。でも赤点を取っている訳じゃないんだから、何もそこまでって感じである。


「駄目に決まってるでしょう! このクロレラッ!」


 単細胞植物だ!


「いいかしら!? 私達生徒会執行部はね。生徒達の代表なの! お手本なの! そのお手本がそこら辺の生徒とどっこいの成績じゃ困るのよ!」


 朝見た優しい雰囲気の刹那の面影は欠片も無い位におっかない刹那。というか凛々しかった会長の面影もさっぱりだ。


「そ、そんな事言われたって……どうしろってのさ?」


 完全にビビってる俺。ヘタレ全開で言う。


「だから決まってるでしょう! 勉強するのよ! べ、ん、きょ、うっ! 明日からテスト終了までバイト禁止よ!」


「――なっ! そんなの無理に決まってるだろ!」


 突然の刹那の発言に勢い良く反論する俺。


「これは決定事項です。拒否は許されません。生徒会が終わったら一緒にleafに行くわよ!」


「ちょちょちょっと!? なんでさ!」


「私がお店に直談判してあげるわっ!」


 をいぃぃ! とツッコミたいが刹那のあまりの怒濤の勢いにどうにも出来ない。


 何か瞬は終始『うんうん』ってにこやかに見守ってるだけだし。






 そして。


 レストラン&ダイニングバーleaf


「お、おはようございま〜す……」


 いつも通りにバイトがあった俺はいつも通りにキッチン直通の勝手口から出勤する。


「ああ。十八君。おはよ……?」


「おぃ〜っす。塩田ぁ……って、あれっ?」


 店長と永島さんがいつものように挨拶を出来なかったのも仕方ないだろう。


「こんばんは。失礼します。初めまして。昨日はどうも」


 仏頂面の刹那が一緒だからです。っていうか、もうちょっと普通に挨拶しようよぉ。


「あ、ああ。えぇー……、確か刹那ちゃんだったよなぁ?」


 遊園地で一度会っている永島さん。見るからに困った様子である。


「はい、どうも。今日は店長さんにお願いがあって参りました」


 会長室の時の勢いを残した刹那。何だか強気だよぅ。


「えっ、俺にかい?」


 当然の反応だが、驚く店長。


 既に諦めモードの俺は苦笑いで傍観中。永島さんが『どういう事だぁ? この野郎』みたいな目配せを送って来るが『俺が聞きたい位です』って視線を返すしか無い。実際本当に誰か教えてほしい。





 しばらくして。


「うん。いいよ」


 笑顔の店長が言う。


「ちょっとちょっと! 店長ぉっ!?」


 店長はあっさり刹那の『テスト終了までバイトしない』を了承してしまった。


「十八君の成績やテストの点がこのバイトのせいなら俺も時貞さんや(ひさし)に申し訳ないからね」


 時貞は俺のじいちゃん。悠は俺の父さんの名前。店長は俺の父さんと親友だった。


「で、でもディナータイムに一人欠けるのはつらくないですか?」


 こんなにあっさり了承されるとは思っていなかったので、半ば必死に追いすがる俺。


「大丈夫、大丈夫。その分は永島君に頑張ってもらうから」


「なんですとぉーー!!」


 店長の楽観的なプランにかったるそうに傍観していた永島さんが素頓狂な声を上げる。


「ありがとうございます。店長さん。永島さん」


 全く衰えない勢いの刹那はさも当然とでも言わんばかりに言う。


「あ、いやぁ……。別にいいけどよぉ……」


 うぅ……、永島さん。申し訳ないっす。


「いい彼女さんじゃないか。十八君」


 にこやかに笑う店長が妙な事を言う。


「それはありません。出来の悪い役員を持った生徒会長の役割を全うしているだけです」


 不愉快を露にしたような低い声で言わんといて。せめて笑っといて。


「幼馴染みから絶賛格下げ中だなぁ。塩田ぁ」


 永島さんも流して下さいぃ。


「じ、じゃあ今日のところは仕事してもらうけど明日からテストが終わるまで来なくていいよ。十八君」


「そんな……店長……」


「はっ! 最低でも平均点を90まで上げてもらうわよ! 十八!」


 ひぃぃ! そのしてやったりな表情怖いよ!



 刹那はやり終えた感に満足そうにさっさと帰って行った。






 その後。恒例のアナログ皿洗い中。


「さっきよぉ、あの刹那ちゃんが言ってたけどよぉ。オメェ、役員うんぬんって何だぁ?」


 皿洗いをしながら永島さんが訊いて来る。


「ああ。俺ってこないだ生徒会執行部に入ったんですよ」


 パリン


「……はぁ?」


「えっ?」


「オメェが……生徒会?」


 皿洗いの手を止めた永島さん。じと〜っとした目で見ながら訊いて来る。っていうか割れたよね?


「ま、まぁ……」


 肯定してみる。


「ああっ? なんで?」


 今度はすんごい嫌そうな顔で訊いて来る。


「いや、なんでって言われても……」


「ぷっ、はははははは!! どうせ雑用とかかぁ? オメェが生徒会とか何よ! 笑えるぜぇ〜!」


 今度はすんごい大爆笑された。まぁ実際雑用だけどさ……。


 何か悲しい……。



 しばらくバイトに来ない俺への腹癒せだろうか……その後も永島さんに散々いじめられた。




 そんな訳で今日からテスト終了までの二週間。勉強漬けの毎日になりそうである。






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