ドラゴンでなら全裸は有りでしょう。 中篇
キーン キーン
小屋の中に槌音が響く。
その音でうつ伏せのオレは意識を取り戻した。
――頭が痛い。
槌音が頭にガンガン響く――更にはマグナムも痛い。
そういえば背後から鈍器で殴打されたんだっけ……。
さっきの女思いっきりなぐりやがったな。
俺が辺りを見回すと、あたり一面鉄の柵。
出口はない。
――これは…。
鉄の檻じゃねえか!!
オレはどうやら気を失ったままここに入れられたらしい。
檻の外を見回すと――そこはぼろい作業小屋だ……。
炉の前には鍛冶道具が並べてあった。
檻の周りは、武器――大砲が並べて有る。
なるほど、ここは鍛冶屋か。
オレは立ち上がり炉の方に視線を向けると、其処には作務衣を着た女性が居た。
年の頃20代後半の逞しい女性だ。
彼女の腕は力こぶが盛り上がり、筋は槌を打つ度に踊っている。
――胸はそこそこ有るが、すべて筋肉のようだ。
まるで女子プロ選手だ。
まさか、殴ったのは此奴かよ……。
しかし、こいつに殴られてよく無事だったよなぁ
一瞬オレの背筋が寒くなった。
竜のままで来た方が良かったか……。
オレの視線に気が付いた女性は話しかけてきた。
彼女の表情は憐れみの表情が浮かんでいる。
「あんた正気に戻ったかい?」
「正気?」
「たまに居るんだよね。 身内や恋人が化け物に襲われて、幸せだったあの日に戻りたいとすべてを忘れて変態的行動に逃げる奴が」
「オレは……」
オレが言葉を発しようとしたとき、耳元で声が聞こえた。
――リースだ。
まだ不可視で隠れているようだ。
「あなたの鼓膜を直接揺らして聞こえるようにしています。 このまま、頭おかしかった事にした方が良くないです? 言っときますけど、檻に入ったままじゃ竜に戻れませんよ」
「何故戻れないんだ…」
オレは呟いた。
女性は気の毒そうな表情を見せている。
「どうやら正気に戻ったようだね……。 最愛の人と過ごした時間は二度と戻らないから価値があるのさ。 化け物用の檻から今出してやるよ」
オレの頭がおかしかった……――だと。 オレは竜神だぞ?
その言葉がオレの喉まで出そうになった時、耳元でリースの声が囁いた。
「頭が混乱しておいた事にしましょうよ……。 このままじゃ出してもらえませんよ?」
仕方ない。
オレが混乱して居たことにしよう。
――なんたる屈辱……。
「オレは混乱していたようだ、迷惑をかけた」
「――気にする事は無いさ、あんたも被害者さ……」
女性は小さく笑った。
彼女は檻の前まで歩み寄ると、鍵を開けオレを出してくれた。
――オレは檻から出ると伸びをした。
こんな狭い場所は苦手なんだよなぁ……。
「あたしの名前はフレア、あんたの名前は?」
彼女は突然、俺の名前を名前を訪ねてきた。
オレの名前は数百年言わないから完全に名前を忘れていた。
オレが俯くと、股間のマグナムが視線に入った。
――そこから浮かんできた名前は……。
「オレの名前はハリーだ」
「ハリーさんか、良い名前だね。 ……とりあえず粗末なナニ出してるんじゃないよ!! 何か穿きな」
フレアは近くに掛けて有った男物の下着を投げ付けた。
オレの顔に下着があたる。 ――臭いし、汚ねぇ~。
――ついでに服も飛んできた。
……後、オレ様の何は粗末じゃねぇ
耳元でリースの声が囁いた。
「だからあたしの服を貸しましょうかと言ったのに」
オレは考えた。
――結果は変わらない気がするが――否っ! 女装のほうが更に不味いわ。
「あんた、飯は食ったのかい?」
フレアは唐突に話しかけて来た。
「食ってないぞ、それがどうした?」
「お前に餓死されても困るからな、なんか食わせてやる」
「良いのか?」
「この村は墓穴掘る人手も足りないからな。 あたしに付いて来な」
フレアは部屋の奥に行った。
それに続く俺たち。
””
台所に着いた。
そこは地獄だった。
ボロボロの部屋に、釣り合うようなみすぼらしいテーブル。
――まるで世紀末的な世界だ。
部屋に居るのは、祠にいた幼女。
あとは料理を作るフレア。
オレはテーブルに座り料理を待った。
幼女は汚い物を見るような目でオレを見ている。
「フレア様、なぜこの男が居るの?」
「ユナ、我慢しな、こいつに死なれても困るだろ?」
「――はい……」
ユナはオレを睨み付けていた。
――オレが何をしたぁぁ~。
(全裸で出ただけじゃ無いか)
――暫く経つと、フレアが鍋に入った何かを運んできた。
劣悪な臭いがする物体ーいや料理だろうか?
オレが中を覗くと……――色が悪い粥が鍋に少し、雑穀――だと……。
しかも他はなし。
神竜と知って鳥の餌を食わすのか?
オレは鳥じゃねえぞ。
「さあ、みんなで喰うよ」
フレアは、かけた茶碗を配ると鍋の物体をみんなに継ぎ分けた。
「ありがとう フレア様」
「しっかりお食べ」
「あんたも喰いな」
「お おう」
――フレアはオレの欠けた器にも粥を注いでくれた。
器に少し…。
おいおい……。
これじゃ腹の足しにもならないだろう?
彼女の方の器をみると、オレのよりさらに少ない。
――しかも自分の分は少な目だと!?
この女、この量で体がもつのかよ……。
ダイエットにしてもやり過ぎだろ!?
「「いただきます」」
ガキはさも美味しそうに粥を啜って居る。
――見かけより、意外とうまいのか?
おれも喰おうとした。
粥には顔が写っている。
……絶望的な臭いがするが……。
だが、問題は味だ。
――味も問題外だった。
口腔内を絶望が支配する。
――しかし空腹には勝てずにすすり込んだ。
なんちゅう所だよ、食後の菓子でも期待だな。
――ドコからともなく、甘い匂いが立ち込めた。
もしかしたら、菓子でもでるのか?
「食後の菓子でもないのか? 飴でも良いぜ、なんか甘いものでも喰いたいな」
オレがその言葉を発すると、食卓の空気が凍り付いた。
ガキ二人は泣きそうな顔になり、フレアは顔を真っ赤にして居た。
何かオレが地雷でも踏んだのか!?
「ハリー」
「どした?」
「あんたは簡単に飴っていうけどな、飴ってどうやって作るのか判ってるのか?」
「そんなもの勝手に転がってるんじゃねえの?」
オレがそう言うと彼女は呆れたような表情でつぶやいた。
「あんたの頭はどんだけ沸いてるんだ? よいか飴ってのはな…」
フレアは飴の作り方を説明し始めた。
「貴重な食料の麦を発芽させてな、これも貴重な米を柔らかく炊いて冷ますんだ。
そいつに麦芽を混ぜて保温して、出来た甘い液を煮詰めに煮詰めてやっと出来る代物なんだよ」
オレはその作り方を聞いて愕然とした。
――勝手に転がって居る物じゃないのか?
「何……――だと!? じゃあ作れば良いじゃないか?」
「どんだけ世間知らずなんだよ。 この村の何処に飴の材料や釜を炊く燃料があると言うんだ? 考えて物を言え、この粗チ○やろう」
そういえば、風呂すら無いとリースが言ってたな。
おれは窓の外を見渡したがドコも炊煙があがっていない。
ほとんど食ってないのかよ……。
その時、彼女の服の裾からちらりと彼女の体が見えた。
――あばらが浮き出てやがる……。
自分の分までユナやオレに食わせてたのか!?
――なんて奴だよ……。
「じゃあ この村で飴を作ったのは何時だ?」
フレアは考えだした。
「――数年前か、いやもっとか? 平和だった時は結構、婆さんが作ってたんだけどな」
「何があった?」
フレアの表情が曇った。
「化け物が現れて村を荒らし始めたんだ。 おかげで喰ってくのもやっとさ。 武器は売れるけどさ」
「化け物?」
「おたくの所もでたんじゃないのか?」
「……」
オレは考えた。
こんな化け物が出てるなんて聞いて無かったぞ!?
フレアは淡々と続けた。
「最近じゃ 巨大な地竜も現れて若い娘を生け贄を捧げるようになってるんだ。 若い美人な娘を喰らうと満足して帰っていくのさ。 それまでは畑や村を破壊し尽くすんだよ」
耳元でリースの声が囁く。
「美人な若い娘を食べるまでは帰らないって、その地竜相当なスケベですねぇ。 実は正体は転生者じゃないんですか?」
その話をフレアがするとユナは泣きそうになった。
「ごめん、あんたの前で今日話すのは無神経だったね。」
「どう言うことだ?」
「今日の生け贄は、この子の姉なんだよ……、男たちが武器をもって戦ってるけど勝ち目は無いさ」
フレアがその話をするとユナが号泣し始めた。
彼女はさめざめと泣いている。
「おねえちゃんを誰か助けてよぉ。 神様にお願いしたけど何も起きないし、もう信じない!!」
――オレは俯いた。
オレはやっと彼女の思いを理解した。
――彼女の願い……――それは、彼女の姉を救う事だったのかよ。
今更ながら、オレの心は罪悪感で一杯になって来る。
ごめんよ~ユナ!!
「ごめんな、ユナ。 きっと男たちが化け物を退治してくれるよ」
フレアがユナを慰めたが彼女の表情は暗いままだ。
――泣きやむ気配は無い。
余程、ヤバい状況なのかよ……。
「分が悪い勝負なのか?」
オレはぽつりと呟いた。
「巨大な地竜なんだが、そいつの巨大なアギトは一口で数人の男を飲み込んでしまうくらい巨大で、息は一息で男たちを一瞬で吹き飛ばすんだ」
フレアは辛そうに答えた。
「――それ、死に行くようなものだろ?」
「だからと言って、無抵抗にユナの姉をヤツに食わせろと言うのか?」
「……」
「あたし達にも人間の意地が有るからね。 あたしが男ならさ、出来るだけ足掻いてミミズに傷の一つでも付けてやるんだけどさ。 あははっ……」
彼女は乾いた笑い声をあげている。
――その眼には涙が浮かんで居た。
もし、彼女が男なら武器を手に地竜討伐に参加するのだろうが、女の彼女には参加できない悔しさがにじみ出ていた。
――そう言う事か……。
負けれねぇ!!
俺の魂の奥底から闘志が湧いて来た。
――まるで活火山のように際限なく湧き出す。
……下からも。
その時、耳元でリースの声が聞こえた。
「やっとこの子の思い、差し出した供物の価値わかりましたか? あの飴はこの子がずっとずっと大切に持っていた貴重な飴だったんですよ。 あなたにはただのゴミのような供物に思えたのかも知れませんが」
「判って居るさ、痛い程な!……――まだそいつとの戦いは間に合うか?…」
「あんた、いきなりどうした? 地竜との戦いならそろそろ始まる頃だろうけどさ」
唐突に口を開いたオレを不審そうに見ながら、フレアは答えた。
「……そいつは何処でやってるんだ?」
「村はずれの荒野、もと畑だけどな。 そこが地竜の巣さ」
「ありがとう」
「あんたまさか行くつもりなのかい? 行くならうちの大砲でも持っていきな」
フレアは心配そうにオレを見つめ、目で外に置いて有る大砲に目を落とした。
オレもその大砲を見たが、オレのブツとは比べるまでも無い……。
「いらねえさ、大砲なら有る…」
「おい、ハリー。 また頭がおかしくなったか!?」
「最初からマトモだ!」
そう言うとオレは台所をぬけ走り出しだした。
荒野に向かって――全速力で。
――サイズの合わない服が脱げる。
ズボン、上着……――下着迄ずり落ちて来ているのが判る。
――だが、かまわねぇ!!
オレは、ひたすら走る。
――間に合ってくれ!!!
祈る様な気持ちで村を抜け、村はずれの荒野を目指す――。
――オレがつく頃には全裸になっていた。
後編へ続きます。