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飛行機雲

作者: ren

 なんていうこともない木曜日。俺はチャイムが鳴ると同時に、学校を出た。遊ぶ予定があるわけではない。用事があるわけでもない。……部活を引退した高校三年生で、自習室を使わないやつの日常なんてこんなもんだ。


 最寄駅から自宅までの道のり、重いカバンを自転車の前に乗せてのろのろと通い慣れた道を走っていく。今日は良い天気だ。


 ――あー、サッカーしてえ……。


 きっと今頃後輩達は、良い汗かいてるんだろうなと思うとちょっと寂しくなった。俺の同期の中では、未だに後輩の面倒を見るためだけに部活に顔をだすやつもいる。そして俺は、そいつに冗談だか本気だか分からない様な口調でお前も来いよと誘われていた。


 その言葉には強制力も何もなく、実際俺は引退してから一度も誘いにはのっていなかった。行きたいのはやまやまなのだが……。


 ちらっと前かごに視線をやり、俺はまた溜息をついた。そこには先週受けた模試の問題が、まだ手付かずのままである問題が入っているはずだった。


 どことなく気持ちが晴れないまま、俺は涼しいというよりは寒くなってきた風を全身に浴びながらただひたすらに家を目指す。


 家まであともうちょっとというところで、俺は赤信号に引っかかった。


 ――ちっ、ついてないな。


 この信号、田舎にしては結構待たされる時間が長いのだ。どちらかというと諦めの様な気持ちになりながら、俺は今まさに青になったばかりの信号を見た。すると……。


 ――あれは……。


 俺の視界の右端には、一つの飛行機雲が写っていた。それが普通のものだったら、俺はすぐに視線を下に向けて目の前をビュンビュン走っていく車を眺めていたかもしれない。しかし――。


 ――なんであんなに真っ直ぐなんだ?


 その飛行機雲を描いている機体は、まるで天を目指すかのように一直線に上昇していたのだ。


 ふっと脳裏に浮かんだのはスペースシャトルの打ち上げだったが、さすがにそれはないと思えるぐらいの常識はあった。いやでも、普段見る飛行機雲なんかよりずっと太くて立派で。やっぱりなんか違う様な……?


 俺は今思えばアホみたいに、その雲を見つめ続けていた。真っ直ぐに上った飛行機は、やがてちょっとずつ角度がついて……俺の目の前を横切っていった。なんてことはない、普通の飛行機だ。ただちょっと秋の空が澄み渡っていたから、いつもよりはっきりと、遠くの方から見えただけじゃないか。


 余りにもしょうもなさに脱力しながら、俺はそれでも飛行機雲を見ていた。丁度夕焼けが進んで青く、赤く、そして暗くなり始めた空に徐々に混じっていく白のライン。


 ――こういうのを綺麗、っていうんだろうな……。


 そして信号は待ち望んでいたはずの青になり、俺はまたペダルを漕ぎ出した。


 空を見たぐらいで、将来の不安とかその他もろもろが消えるわけじゃない。それでも久しぶりに晴れ晴れとした気分にひたりながら、俺は思った。――明日は部活、覗いても良いかもな、と。

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― 新着の感想 ―
[一言] 高校の終わりってこの話のように今まで打ち込んできたことへの情熱の残り香と、これからの進路への不安でなんとも言えない感じがありますよね。 読んでいて色々思い出しました。 とにかくリアルな“…
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