~ドライブ①~
あの日から、俺の日々が変わった。
平日は、『次の休みはどこへ行こうか』と地図を開き、休日の前にはガソリンを満タンにした。待ちに待った休日は、香枝を助手席に乗せてドライブを楽しんだ。
最初は、初期登録されていた単語を並べるだけで、会話にすらならなかった。しかし、学習機能が優れているせいか、話しかければかけるほど、会話が成立していくようになった。
おかげで、仕事で疲れた俺の心は、香枝との会話によって潤いを与えられた。
あれほど、毎日がつまらなかったのに、今では生きていることが楽しくて仕方がない。
「香枝を買って正解だったよ」
俺はよく、香枝にそう言う。
購入するかどうかは、かなり悩んだ。
なぜなら、その金額は簡単に決められるような額ではなかったからだ。
香枝が届くまでは、営業マンの口車に乗せられたのかもしれないと、不安がつきまとっていた。万が一、自分が思っているようなものでなかったら、そのときは返品するんだと、何度も自分に言い聞かせていた。
しかし、ここにいる香枝は、もう手放すことなどできるはずのない、素晴らしいパートナーになっていた。
「香枝がいない生活なんて、考えられない」
俺は、ホコリで汚れた香枝の体を、温かいタオルで優しく拭き上げた。
さすがに、風呂に入れるわけにはいかないので、週末は必ずすみずみまできれいに拭くのだ。また、それが俺の楽しみの一つになり出していた。
「香枝、明日は休日だよ。どこへ行こうか」
香枝は、嬉しそうに俺を見て言った。
「あなたと、なら、どこでも、いい、です」
なんとも健気な香枝だ。
実際の人間の香枝は、決してこんなことは言わなかった。
どこに行きたいかと聞くより先に、自分が行きたいところを言ってきた。それも、大概がショッピングだった。
今、ナビの香枝を目の前にして思う。どうして、あんなにワガママな香枝が好きだったのだろう、と。
今では、別れて良かったとさえ思うくらいだ。
「香枝は最高に可愛いね」
「あり、が、とう」
ただ、欲を言うなら、もう少し抑揚のある喋り方をして欲しい。確かに当初に比べたら、雲泥の差で流暢に話せるようになってきている。しかし、やはりどこか機械的な喋り方であることは否めないのだ。
「当たり前か……」
俺は、香枝の手を愛しい思いで撫でながら呟いた。
「なにが、です、か?」
言葉に出せば全てに返事をしてくれる。独り言なんて有り得ない。
今までどれほどの独り言を言ってきたのだろう。
「なんにでも返事をされると、困ることもあるもんだ」
俺は笑ってそう言った。
「どうして、ですか?」
やっぱり、今回も返事をしてくる。
これはこれで楽しいのだが。
俺は地図を開いて、行きたかった場所を探し始めた。




