~名前は 香枝~
久しぶりに読み返したら、『これは面白い!』と自画自賛。そこで、ととのさんに読んでいただいたところ、『とっても、面白いです。ぜひ、ケイタイ小説に書き換えてみたいのですが!』という嬉しいお話をいただきました。ということで、これを原作にととのさんがケイタイ小説としてアップしているので、久乃☆の短編小説と、ととのさんのケイタイ小説を両方お楽しみいただけるとよろしいかと・・・(^▽^;)http://otona-novel.jp/viewstory/index/21936/?guid=ON
今、俺の目の前には、箱の中に横たわる美しい女性の姿がある。
それは、一か月前に注文した人型ナビだ。
ここ半年、ブームを巻き起こしているそれは、数種類の中から好きなタイプを選ぶようになっていた。
男性の人型なのか、女性なのか。年齢はどのくらいなのか。顔つき、体型、背の高さ。全てが自分の注文通りなのだ。
俺は添付の説明書に目を通し始めた。
「なるほど、宣伝の通り俺の好みに設定されているということか」
購入時の説明では、『細かいアンケートに記入すれば、その通りに設定してお客様のところにお届けします』ということだった。
つまりは、電源を入れれば、俺の好みの女性が息を吹き込まれるということだ。
「おっと、このまま電源を入れても、裸じゃしょうがないよな」
箱の中の女性ナビは、裸の状態で届けられているのだ。もちろん、それも説明されていた。ゆえに、契約時に洋服の購入も勧められたのだ。
女性の洋服だけならまだしも、下着までとなると、さすがに買いに行くのもはばかられる。そこで俺は、カタログの中から俺の好みの洋服を購入し、ナビが届く時に一緒に届くように頼んでおいたのだ。
俺は、一緒に届けられた洋服の箱から、真っ白はワンピースと真っ白な下着を取り出すと、丁寧に着せにかかった。
人形だとわかっていながらも、どうしてか心拍数が上がる。指も震え、下着を履かせることも恥ずかしい。
それでも、なんとか全てを着せ終わり、電源を入れるとナビはゆっくりと目を開けた。
肩にかかる程度の髪の毛と、ぽってりと厚みのある唇。目は二重で、パッチリと開かれている。
「まずは名前をつけてあげてください、か」
俺は、じっくりとナビを見つめると、かつて付き合っていた女の名前を思い浮かべた。
「香枝……君は、香枝……だよ」
愛していたのに、どうしても別れたいと言われ、別れることを了承しないわけにいかなかった。別れの理由は最後まで教えてくれなかった。
「香枝。これから、いろんなところにドライブに行こうね」
彼女と行きたかった場所は多々ある。
結局、行けずに終わってしまったのだ。
彼女がいなくなって、他の女性と行こうとも思ったが、どうしてもその気にならなかった。彼女と別れてから、次の恋を探すことができなかったのだ。
しかし、香枝に似たナビを手に入れたことで、これからはどこへ行くのも寂しくない。
俺は、人型ナビ・香枝に向かってニッコリと微笑んだ。




