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007-1

 街外れの廃工場。


 神咲学園から自転車で二十分ほど離れている。


 俺は汗だく。


 梓はいつも通り涼しげ。


 鍛えている藤代は全然余裕。


 彩音に至っては、チカラで自転車を操作したので全く疲れた様子はない。


 汗だくの自分がやけに馬鹿らしく思えてしまう。


 つか、梓と藤代の疲労知らずは、異常だろ。


 息を整えつつ、手の甲で額に滲む汗を拭いながら、梓たちの様子を確認する。


 三人は険しい表情を作りながら、廃工場を睨んでいた。


「びっくり」


「これは、まずいんじゃない」


「一般人でも気づけるレベルですわね」


 三人は、廃工場を見据えたまま、それぞれ言葉をこぼす。


 緊迫した眼差しは、ボスを目の前にした主人公たちって感じだが、何がそんなに深刻なのか俺にはサッパリわからない。


 ポンコツに成り下がった俺の探知能力は一般人にも劣ることが多いからな。


「……すまん。三人が何を言いたいのか全くわからん」


 俺の一言に梓だけでなく、藤代も彩音も驚愕した後、深々とため息をつきながら肩を落とす。


 三人の哀れみの視線がやけに癪に障る。


 俺だって廃工場に何か憑いていることくらいわかる。


 ヤバそうな感じがするのもわかる。


 なんで三人が同じような反応なのかわからない。


「翔太、本気(マジ)なの?」


「鬼灯の霊視が弱いってのは知ってたけど、コレがわからないの?」


「さすがを通り越して、感動すら覚えてしまいますわ。鬼灯くん、よく退学処分になりませんね」


「ちょ、言い過ぎだろ。俺だってヤバいのが憑いてるってわかってる。ただ、三人が同じ反応するのがわからないってんだよ」


「……翔太、本気(マジ)なの?」


「同じセリフを繰り返すんじゃねぇよ」


「大切なことなので二回言いました」


「神代に同意するのは非常に癪なんだけど、同意してしまう」


 藤代の言葉に彩音が「うんうん」と頷く。


 なんかマジでヘコむんだけど。


「まあ、翔太が霊視弱いのは、いつも通り。ぶっちゃけ、私には驚くにも値しない」


「だったら、同じことを二回も聞くなよ……」


「翔太のことをよく知らない藤代と白木のために、言ってあげただけ」


「……鬼灯くんと神代さんは、どんな間柄ですの? 普通なら、こんなに霊視の感度・精度が悪ければ誰にも教えないと思いますわよ」


「確かに。ちょっと弱いなら笑い話の一つになると思うけど、鬼灯並みの霊視の弱さだと人には言えないレベルよ。入学前の能力測定で落とされるんじゃない、普通なら」


「……そうなのか?」


「そうなのか、って鬼灯くんも入学前に能力測定受けたでしょう」


「えっと――」


「翔太の霊視は波が激しいから。測定受けた時は、翔太が調子がいい時だったからギリギリ通過できた」


 俺の言葉を遮るようにして、梓が口を開く。


 藤代と彩音が怪訝そうな顔をしながら、俺と梓の顔を見比べる。


 梓は、いつもと変わらない無表情。


 俺にはその表情に焦りが見え隠れしているのがわかる。


 俺の場合、一般生でも特待生でもないからな。


 強いて言うなら罪人か、モルモットか。


 梓がわざわざフォローしてくれたんだ。俺が何か言って台無しにすることはないだろう。


「まあ、そんな感じだ。調子がよけりゃ、藤代や白木に霊視で負けないぜ」


「……鬼灯、神代の名前が入ってないんだけど」


「そうですわ。神代さんの名前がないのは不公平でなくって?」


「二人とも、梓の感知領域を知らないのか?」


「知らないけど、自信がありそうだし、半径一キロくらいじゃないの」


「精度が良いって言われるしきい値が半径五百メートル以上、かつ誤差十メートル以内、言いますわよね」


 藤代と彩音の言葉に梓が「ふふん」と鼻を鳴らす。


 あまりにも余裕のある梓の顔に藤代と彩音の眉がピクリ、と動く。


 梓としては、ちょっとした自慢なんだろうが、お前の行動は誤解を招きやすいことを少しは踏まえて欲しいところだ。


「……梓は普段、封印具で抑えてるけど、全開なら半径十キロは感知できるんだぞ。俺が調子が良い時で半径一キロくらいだから、勝負にならねぇ」


「じゅ、十キロ!」


「なんですの、その範囲は!」


「まあ、普通はそんな反応になるよな。神代家の秘術つーか、秘伝つーか、血の為せる技つーか、まあ、真似して誰でもできるようなものじゃない」


「えっへん。伊達に神代を名乗ってるわけじゃないのです」


「一応フォローしておくけど、名家っていいもんじゃないぞ。俺の記憶で一番多い梓の姿は血だらけだぞ。死んだらそれまでの才能しかなかった、で処理されるような家だからな」


 俺の言葉に藤代と彩音は一瞬、ほうける。


 一呼吸置いて、言葉の意味を理解した二人は梓を見る。


 二人の顔には、なんとも言えない感情が漂っていたが、梓がそれに気づいた様子はなく、わずかに頬を染めて恥ずかしそうにしていた。


 俺は一息ついて、藤代と彩音を見つめる。


 俺の様子に何かを感じ取った梓が「余計なことは言わなくていい」と目で言ってきていたが俺は無視する。


「まあ、俺が言うことじゃないが、『神代』って名前で梓を誤解している連中が多い。藤代と白木は『神代』の名を背負うことがどんな意味があるのか、少しでも考えてくれるとありがたい」


 俺の言葉に藤代と彩音は静かに頷く。


 梓は顔を隠すようにそっぽを向いていた。


「……っと、無駄話が長くなっちまったな。ま、ヤバそうなヤツがいたとしても様子見くらいなら、このメンバーでなんとかなるだろ」


 そう言って、俺たちは廃工場に足を踏み入れるのだった。

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