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005

「ふぅ、ご馳走様」


「お粗末様でしたわ」


 俺は彩音の作ってくれた軽食を食べ終え、手を合わせる。


 藤代の件でドタバタしたにもかかわらず、彩音が用意してくれた料理は美味かった。


 たまに自炊している俺としては、彩音の手際の良さに少し憧れてしまう。


 まあ、「もう我慢できない」って某シリアルのCMみたいな台詞を口にして梓が出来上がる前に食い始めるからぐでぐでになるのが主な原因だけどな。


「鬼灯くんは緑茶が好みでしたわよね。粗茶で申し訳ないのですが飲んでいただけたら嬉しいですわ」


「店で緑茶なんて扱ってないだろ。入れてもらえるだけでありがたい」


「私にはないの?」


「ええ、鬼灯くんは特別ですから。神代さんと藤代さんには冷たいお冷でも勿体無いくらいですわ」


 笑顔のまま、梓にさらりと言い返す彩音。


「藤代、出番。きっつい一言、言ってやりなよ」


「ちょ、いきなりあたしに振らないでよ。白木さんとやりあうと食後の至福な時間が台無しになるじゃないの」


「大丈夫。ここは仮面(ペルソナ)毒舌の領域(テリトリー)。私たちに安息の地などあるわけない」


「少し同意する部分は……あるけど、美味しいご飯を食べさせてもらった手前、神代に同意は出来ない」


「チッ、コレだから優等生は……。すぐにヘタれた自分を正当化する」


「へ、ヘタレじゃないわよ。あたしは一般的な常識を話しただけじゃない」


「それがヘタれってこと。ね、翔太」


 梓は俺が絶対賛同する、と確信に満ちた表情で俺を見てくる。


 妙にキラキラ輝いている梓の瞳。


 俺は一口、緑茶をすすり、息を吐く。


「すまん、白木。梓にもお茶を頼む。冷たいものや、コーヒーを飲むと腹を壊すんだ、梓は」


「――ッ! 翔太、ヒドい!」


「ヒドくねぇよ。梓が体調崩して面倒見るのは俺なんだから、梓が体調崩さないようにするのは当然だ」


「……つまり神代さんは、体調を崩して鬼灯くんに迷惑をかけたくなかったわけですね」


 呆れた様子で彩音は肩をすくめて見せる。


 彩音の視線から逃げるように梓はそっぽを向いて、吹けない口笛を吹いて誤魔化す。


 髪に隠れて見えないけれど、きっと耳が赤くなっているだろう。


 梓も恥ずかしがらずに素直に温かい飲み物が欲しい、と言えばいいのにな。


「白湯では侘しいでしょうから、緑茶にして差し上げますわ。ついでに藤代さんの分も用意いたしましたわ」


「……ありがとう」


「驚きましたわ。神代さんでも礼を口にすることがあるんですね」


「あたしも驚いた。てっきり言ったとしても鬼灯くんだけかと思ってた」


「私、出来る乙女だから。言うときは言う。私を見直してもいいよ。さあ、尊び敬って」


 自慢げな顔で胸を張る梓に藤代と彩音はため息をつく。


 あれが梓の照れ隠しとは、二人はまだ気づいていないだろうな。


「鬼灯くん、この後はお暇ですか?」


「暇じゃない。予定ぎっしり」


「……わたくしは鬼灯くんに聞いてるのであって、神代さんに聞いているわけではございませんよ」


「うん、それくらいわかってる。翔太の今日の午後は私としっぽり二人っきりで過ごすから、暇じゃない」


「……それは初耳だけどな。俺の今日の午後は、部屋の掃除と溜った洗濯物をを片付けるくらいしかないぞ。特に急ぎの用事はない」


 俺の返答に梓は不満そうに頬を膨らませる。


 部屋の掃除には、梓の部屋も含むが口にすると面倒そうなので黙っておく。


「なら、丁度良かったですわ。数日前、常連さんが気になる話をされていましたわ」


「気になる話? 神咲学園の裏の顔がバレたとかか?」


「鬼灯、地元の人には公然の秘密状態よ。まあ、暗示とかで口外出来ないように細工したり、情報を握りつぶしたりしてるけどね」


「そいえば、風紀員の仕事に学園の秘密を守ることもあるんだっけ。藤代は暗示とか出来るのか?」


「……出来ないわよ。風紀員で得意な生徒が任命されて初めて任につくものなのよ。好き勝手にやったら停学処分で済まないわ」


「翔太、藤代は猪突猛進のおバカだから、暗示とかで使えるわけがない」


「なら陰険そうな神代はバリバリ使えるわけね」


 睨み合う梓と藤代。


 俺は梓と藤代のやりとりにため息をつきながら、話を進めてくれ、と彩音に視線を送る。


「簡単に言いますと、町外れの廃工場に出るらしいのですわ。あの辺りに目立った地脈はありませんので、偶発的精神転写体の可能性は低いと思いますわ」


「恣意的精神転写体になると、霊障としては危険度が高くなるわよ。なずな教諭に相談した方がいいわよ」


「玄谷先生は、テンションで対応が変わりすぎますわ。確たる証拠がなければ、問題が起こるまで後回しにされかねませんわ」


「なずなちゃん、意外とめんどくさがりだからなぁ」


「意外じゃない。授業の実習の多さが面倒くさがりを如実に表してる」


 梓の言葉に藤代も彩音も「うんうん」と頷く。


 なずなちゃん、やっぱり威厳ないじゃん。


「常連さんにはお世話になっていますので、様子見くらいしたいと思ってましたの。もしもの場合、わたくしだけだと対処に困るかもしれないので、皆さんがいらっしゃってラッキーだと思ってましたわ」


「……タダ働きはしない」


「そう神代さんなら言われると思いましたわ。先ほどのお食事代は、わたくしの奢りですわ。鬼灯くんが調理したからチャラ、というのはなしですわ。材料費や光熱費がございますから」


 彩音の切り返しに梓が「ちっ」と舌打ちをする。


 俺たちは、とりあえず彩音に廃工場について話を聞くことにした。



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