水色と藍色
何故、あのときあの少女の言葉を信じてみるのも
面白いかな、なんて
がらにも無いことを思ってしまったのだろうか
そう、あのときはこんなことになるとは
考えてもいなかったのだ
あの少女の姿は今はもう隣にはない
ついでにあの白熊もどこかへ行ったようだ
「『先に私があのなかに入るんで!とろさんは私が大声で名前呼ぶんで、その時に突入してください!』」
そういった彼女は数分前に馬鹿正直に正面玄関から入っていったのだ。
今はあの少女の足音だけが耳につけた無線から聞こえるだけである
いや、まてよ、おかしくないか
小規模といっても相手は正真正銘のマフィア
いくら見た目はコンビニにでも行きそうなただの少女でも
さすがにマフィアの本基地に正面から堂々と一人で入っていったら
間違いなく大騒ぎになるはずだ
それなのに少し、いや、かなり静かすぎやしないか?
それにあの時もだ
私は何故あの少女が隣に来ていたの事に
すぐに気づけなかったのだろうか
自惚れではないが
私はそれなりに場数は踏んでいるし
人の気配を読むのがとくいだ、
それにもかかわらずあの少女の事は気づかなかった。
もしかしたら、あの少女はヘラヘラしているように見えて相当な手練れなのかもしれない、いやきっとそうなのだろう
「(そう言えばまだ彼女の名前 知らない)…」
おかしなことだ、任務は始まっているのにバディの名前を知らないなんて
不思議に思っていると
耳元から聞こえる音の雰囲気が変わる
「『Hi,hanz. It’s been a long time.How are you?(こんにちは、ハンズ、久しぶりだね、調子はどう??)』」
「『Oh!!Smith! How have you been?(おぉ!スミスじゃないか!元気にしてたか?)』」
突然聞こえる流暢な英語
女の声は先ほどまで隣にいた少女のもの間違いなさそうだ、
喋っている相手の男はハンズというらしい
「(あの子英語しゃべれたんだ…)」
話の内容から
二人は知り合いのようである
「(もしかしてこちら側のスパイか?)」
そう考えるのが筋だろう
いや、まてよ?…ハンズ?
確か相手側のボスの名前はハンズ・ ウルフ…
『ボスそいつは一体!!?いつからそこに!!』
『あまり騒ぐなスミスは私の友人だ』
ボス?友人?無線から聞こえる会話に元々強くない思考回路が崩壊しそうになる
「『相変わらず、気配を消すのが癖なのかスミス』」
「『えへへ~すみぺろっ☆』」
「『全く君は変わらないね。何はともあれよく遊びに来てくれたね、君のことだからてっきり私が言ったことを忘れてると思ったよ』」
「『ちょっとした用事でこの近くに来てたからね、あぁ、そういえば~ってハンズのこと思い出したの』」
会話からあの少女の名はスミスということがわかり
話している相手は今回の最終標的である敵のボスであることがわかった。
そして二人は友人同士であることも…
やっとのことで全てを理解したとたん
最悪のシナリオがいっきに頭に浮かぶ
さっきまで私の隣で笑っていた少女は本当のバディじゃないかもしれない
寝坊した本当のバディはあの少女にどこかに幽閉、最悪の場合は殺されているかもしれない
コンビニにでもいくような格好をしていたのも、自分に名を名乗らなかったのも
熊を可愛がるあの笑顔も
全部、全部、全部
「(騙されえいたのか?)」
気が動転しそうなのを無理矢理落ち着かせ
とりあえず報告しようとララさんに電話を掛ける
「もしもしララさん?」
『あれ?とろ?どうしたの任務途中じゃ』
不思議そうに聞いてくるララさんに
最後の望みをかけて一つの質問をする
「今日のさ、私のバディの名前教えてもらっても言い?」
『あれ、言ってなかったか『ーー』だよ、というより一緒にいるなら本人に聞k』
バキッ
つい力を入れすぎて買ったばかりの傷ひとつなかった水色のスマホが真っ二つになってしまった。
ハンズはあの少女のことをスミスと呼んでいた。
そして今ララさんが答えた名前は…
「(倒す相手が一人増えたところで何も変わらない)」
スマホ壊れちゃったし
ララさんには事後報告でいいかな




