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召喚しちゃうぞ!〜四の姫と兎の隊長さん  作者: 十海 with いーぐる+にゃんシロ
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【15】隊長VSおいちゃん

 

 方や、金髪の男……ロベルトは腕組みして薬草店の店主をにらみ付けていた。


「何かご入り用で?」

「貴様、ディーンドルフとデキてると言うのは本当か!」


 ロベルト・イェルプは万事に置いて直情的な男だった。


「えーっとぉ」

 

 フロウは蜂蜜色の瞳をぱちくり。くしくしと人さし指で顎の下をかいた。

 あー、なんか前にも聞いたなあ、こんな台詞。だが、これで確定した。こいつは間違いなく騎士団の一員で、ダインをよーっく見知っている人間だ。ディーンドルフなんて堅苦しい呼び方してる所や、年齢から判断しておそらく上司、いや、先輩か。


(あ)


 カチリと頭の中ではめ絵の断片が組み上がる。


『ロブ先輩がこっちに来るんだ! 隊長に就任したんだって。訓練所で俺のことガキの時分から鍛えてくれた人なんだ。嬉しいなあ。懐かしいなあ』


 わんこが顔中くしゃくしゃに笑み崩して話していた。


『ずーっと東の交易都市に居たんだけど、これからは一緒に勤務できる。伯母上の荷物と手紙まで届けてくれたんだぜ!』


「あんた、もしかしてロブ先輩か?」

「ぐっ」


 びくっと男の肩が震え、動きが止まる。

 大当たり。


「やっぱりな。ダインの奴から聞いてたよ。訓練所でずーっと世話になった人なんだってな? まあ立ち話も何だから、座りなよ」


 カウンター前の椅子を勧めた。

 座るのを確認してから(背筋は見事なくらいにびしっと伸びていた)、コンロからヤカンを下ろし、ティーポットに香草茶を入れて湯を注ぐ。砂時計をひっくり返して抽出時間を待つ。

 さらさらと砂が落ちる間、フロウはのんびりした口調で話を続けた。


「あいつ、言ってたぜ。王都の訓練所で、あんただけが『公平に』厳しくしてくれたって。他の奴と分け隔てなく。それがすごく嬉しかったんだとさ」

「……ふん」


 小ばかにしたように鼻を鳴らした。太い、きりっとした眉がしかめられる。


「そこまで、あいつはお前に自分のことを話してるのか!」

「まーな。もともと隠し事するような奴じゃないし?」

「うむ、それは認めよう」

「まあ、アレだ。デキてるっつーか、懐かれてはいるけどな」

「何?」


 砂が落ち切った。こぽこぽとカップに茶を注いで勧めた。


「どうぞ。においが少しきついかも知れないけどな」

「いや、平気だ」


 ずぞ……と一すすり。それきり、黙ってカップの底をにらんでいた。

 急かすこともなくフロウが待っていると、不意に男は口を開いた。


「あいつは、同じ年に入った訓練生の中でも、ずばぬけて居た。剣の腕も、乗馬も。粘り強くて決して諦めない、意志の強さも。見込みがあった。だから鍛えた。それだけだ」


 一度に言い切ると、ロベルトはふーっと深く息を吐いた。それからおもむろにごくり、と茶を含み、飲み下す。どうやら熱いのは平気なようだ。


「目をかけていたんだ。後輩として。あと1、2年も一緒に居たら色事の手ほどきもしてやれただろう。だがその前に俺は転属を命じられて、それきりだ」

「そうだってなあ? 東の交易都市に赴任してたんだって?」

「ああ」


 だん、と拳がカウンターに叩きつけられる。


(おっと)


 ぴくりと眉をはね上げたが、それだけ。相手に自分を傷つける意図がないのはわかっていた。

 多少は驚いたが、脅えるほどではない。


「俺が見ている限り、あいつの理想の女性はずっと姉上だった。何かにつけて、姉上、姉上と……ディーンドルフは重度のシスコンなんだ! それが、男に走るなんて、信じられん」


 ぎろり。薄いスミレ色の瞳でにらみ付けられる。


「単刀直入に聞く。貴様はあいつを騙して、たらしこんで、いいように弄んでいるのではないか? もしそうなら……」


 ぎりっと拳が握りしめられ、むきむきと二の腕に筋肉が盛り上がる。


「ほう」


 軽く口笛を吹きたくなった。なかなかに、いい体をしてらっしゃる。


「まあ、確かに最初に声かけたのは俺だったけどな」

「やはりそうか!」


 ぐぐぐっと逞しい腕が構えられ、めらめらと見えない炎が燃え上がった。


「おいおい、早まるなよ? ひっついて来てんのは、むしろダインの方なんだ」


 首をすくめて、慌てて付け加える。危ない危ない。あんなぶっとい腕で殴られたら、さすがに身が持たない。


「何?」

「別に、あいつを拘束しているつもりはないってことさ。俺の側に居るのは、全てダインの意志だ。あいつがそーゆー奴だってこと、あんたが一番良く知ってるんじゃないか?」


 ぷしゅうっとロベルトの体から物騒な気配が抜けた。


「それは……確かにそうだ」


 がくりと肩を落とすロベルトの瞼の裏に、先日、馬屋で見た風景が蘇る。

 いい笑顔だった。


「できれば、とっととまっとーな相棒なり相手なり見つけてくっついてくれりゃいいって思ってるくらいだ。こんな性悪のおっさんとツルんでいてもいい事なんざないさ。まだ若いし、あいつ、家柄だっていいんだろ?」


 何なんだ、この後ろ向きな態度は。貴様の方には気持ちはないのか。あいつが一方的に慕ってるだけだと言うのか? 


(それでは、あいつが、ただの阿呆じゃないか! それでいいのか、ディーンドルフ……)


「家柄だけは、な」


 憮然として答える。内側にくすぶるもやっとした苛立ちが声音に溶け込んでいた。


「だがハンメルキン男爵家でのあいつの境遇は、必ずしも恵まれてはいない」

「え、ハンメルキン? 男爵?」

「知らなかったのか」


 眉をしかめて舌打ち一つ。余計なことまで口にしてしまったか。だが言いかけた以上、途中で口をつぐむ訳にも行かぬ。


「ああ。ディーンドルフは、育て親の……伯母の家名だ。あいつは父親の家名は滅多に名乗らん。家督の相続権もない。兄がいるからな。れっきとした正妻の子で、由緒正しい跡継ぎが」

「そうだったのか」

「あてが外れたのではないか?」

「いや、別に? 何つーか、妙に育ちがよさげだな、とは思ってたけどな。そんだけだ」

「そうか」


 貴族の子だからたらしこんだ、と言う訳でもないのか。


「ああ、でも一つだけ、羨ましいことがある」

「何だ?」

「あの目だよ。真面目に魔術師なり、巫術師なり目指してりゃあ、いい線行ったろうによお。ったく残念っつーか、惜しいっつーか」

「…………………」


 呪われた目。忌わしい目。これまで自分の知る限り、あいつの左目はずっとそう罵られていた。蔑みの対象だった。騎士団の中で孤立し、苛められる絶好の理由となっていた異相が、この男にとっては……。

 誉むべき才能だと言うのか。


「……魔法使いめ」


 吐き出す言葉はわずかな苦さを含み、通り過ぎる舌を。口の端を歪ませる……ほんの少し。あえてその味に名をつけるとしたら悔しさか、あるいは一種の敗北か。


(認めるしかないのだな)

(それでいいんだな、ディーンドルフ。お前は騙されてる訳じゃなくて、自分からここに。己の安らげる場所を見つけたのだな……この男の傍らに)


「ところで、さ、ロブ先輩よ?」

「ロベルトだ」

「OK、ロベルトさん。このお茶、懐かしかないか?」

「え?」

「あんた東方の交易都市に居たんだろ? あっちの方の珍しい薬草が昨日届いたんでな。さっそく茶にしてみたんだが………」

「っ!」


 ぎょっとしてロベルトは空になったカップを睨んだ。そう言えばこの男、自分は一口も茶を飲んでいない。


(謀られたかっ!)


「………冗談だよ。安心しな。確かに交易都市から仕入れた茶葉だが、あんたの送ってきたアレは入ってない」


 そう言って男はにししっと歯を見せて、楽しげな声を漏らした。

 全てわかっていたと言うのか! 自分は、この男の手のひらの上で転がされていただけだったのか……。


「貴様……」

「あんたがどう言う意図で送り付けてきたかは知らないが、こっちとしちゃ、貴重な薬草と種が手に入って多いに感謝してんだぜ?」


 すました顔で茶をすすると、フロウはにんまりと笑いかけた。


「ありがとな」


     ※


「これからもご贔屓にー」


 にやにやとほくそ笑む中年親父に見送られ、ロベルトは薬草店を出た。


(くそーっ、くそーっ、くそーっ)


 ぎりぎりと歯を食いしばる。


(あんのヒゲ中年がっ! 前言撤回だ。絶対に俺は認めない。認めないぞ!)


 もはや後輩が心配だからとか。騙されてるのなら道を正してやろうとか。そんな当初の目的とは、微妙に違った方向に突っ走りつつあるのだが……

 ロベルト自身はまるで、気付いていないのだった。


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