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召喚しちゃうぞ!〜四の姫と兎の隊長さん  作者: 十海 with いーぐる+にゃんシロ
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【11】騎士様残念すぎ

 

「さーてっと、糖分エネルギーも補給できたことだし」


 大きなフルーツケーキ1ホールが切り分けられ、各々の胃袋に消えた所で……もちろん、その中には小皿に載せられた『ちっちゃいさん』の取り分も含まれていた。

 三杯目のハーブティーを飲み干すと、ナデューはおもむろに優雅な仕草で口元を拭った。ハンカチを取り出す仕草から指の運びの一つ一つにいたるまで、流れるようにあでやかに。

 思わず目が吸い寄せられるニコラに気付いてか、くっと口元が上がる。


「そろそろ実習にとりかかろうか、ニコラ君」

「はいっ」


 そう、四の姫ニコラが今日、店に来たのは他でもない。師匠であるフロウの立ち合いの下、初めての召喚に挑戦するためであった。

 

「もちろん、私は手は貸さないよ。見届けるだけだ。指導はフロウに任せる。君の師匠は彼なんだからね?」

「はい!」


 頃合いを見計らってフロウが後を引き継ぐ。


「よし、じゃニコラ。まず準備すべきものは何だ?」

「『器』!」

「上出来」

「ね、師匠。私、前から不思議に思ってた事があるの」

「うん、何だ?」

「ナデュー先生もいるし、いい機会だから教えてほしくって……」


 ニコラは腕組みして眉を寄せ、じとーっと見上げた。褐色の髪に緑の瞳、のっそりと背の高い男……ダインを。がっちりした肩の上では、ちびが上機嫌。美味しい美味しいフルーツケーキをもらったばかりだからだ。

 器用にバランスをとりながらダインの首にえりまきのように巻き付いて、ごろごろとのどを鳴らしている。


「どうしてダインは、『器』を使わずにちびちゃんを実体化できてるの?」

「んー、それはだな」


 ゆるりとした仕草でフロウはダインの左肩を叩いた。


「こいつは、この左目そのものが器みたいなものだからな」

「目が?」

「ああ。意識を集中すると、魔力の流れや力線、境界線を見ることができるんだ」

「そんなことできるの?」


 ダインはちらりとフロウを見た。すかさずフロウがうなずく。目元を和ませ、青年は改めてニコラに向き直り、ゆっくりと頷いた。


「…………うん。『月虹の瞳』って言うらしい」


 ニコラはぱちぱちとまばたきして、それからにゅうっと口を曲げた。


「ずるーい」


 言われてダインはむしろ、ほっとしたような顔をした。フロウがにやにやしながら付け加える。


「だろ? ずるいだろ? だけどその代わり、ものすごーく大ぐらいになる」

「だと思ったんだ」


 ナデューがうん、うんと頷き、ちびの顎の下をくすぐった。


「フェレスペンネをこの世界で実体化させるには、とんでもない量のエネルギーが必要だからね。普通は『器』でその分の負担を軽減させるのだけど……この場合は全部、宿主であるディーテ君にかかってるからねえ」

「あ、それはちょっとイヤかも」


 大ぐらいになった自分を想像したらしい。ニコラはますます眉をしかめ、うぇええ、と口を歪めた。


「ふぇれすぺんね。そーゆー名前なのか、こいつ」

「うん。『翼のある猫』とか『鳥の猫』とか。古い言葉で、そんな意味だよ」


 途端にダインは得意げに目を輝かせ、ずいっと胸を張った。


「聞いたか、フロウ! やっぱ『とりねこ』でいいんじゃねえか!」

「……お前、だいぶ端折ってるだろそれ」

「異相は異界と通じている証なんだよ」


 にこにこしながら、ナデューは上体をかがめてニコラと視線を合わせた。


「ディーテ君の『月虹の瞳』然り。私のこの前髪に一筋混じった赤い髪も。金色の瞳もね」


 ナデューは前髪に混じる赤い髪を指ですくいとり、生徒によく見えるように掲げた。


「異界と触れる時間が長ければ長いほど、術者の異相は増えて行く。『器』を使うと、その影響を減らすこともできるんだ。専門の召喚士を目指すのでもない限り、あえて異相を得ることもない。見た目の変化は、何かとリスクが高いしね」

「……はい。『器』って、大事なんですね」

「うん、うん。わかってくれて嬉しいよ」


 ニコラは左手にはめた銀の指輪に視線を落とした。流れる水の意匠を施された銀の台座には、透き通った水色の宝石……アクアマリンがはめ込まれている。初めてここに来た時に、フロウからもらったものだ。


「この指輪はどうかな?」

「あー、残念だがそいつに使い魔を宿したら『満室』になっちまうぞ?」

「満室?」

「魔術の発動体としちゃ、使えなくなっちまうってことだ」

「そっか……それは、困るなぁ」

「何、心配すんな。器になりそうな装身具なら、在庫には事欠かない……って、ん?」


 フロウの視線が、ニコラの襟元に止まる。彼自身の瞳と同じ色合いの、蜂蜜色の宝石をはめ込んだブローチに。


「ちょっと待てニコラ、それ、見せてみろ」

「どうぞ。おばあさまからいただいたの。若い頃身につけてたんですって!」


 ニコラから受けとったブローチを日に透かし、裏、表、台座の金属と、一通り調べてからフロウはうなずいた。


「これは……使えるな。どうだ、ナデュー?」

「うん、いいね」


 即答。つまりプロの召喚士のお墨付き。


「琥珀は見た目の大きさよりも軽い。何せ水に浮くくらいだ。樹脂が土の中で化石になって、何かの拍子こぼれおちて川に流れ、海にたどり着き、磨かれて浜辺に打ち上げられる」

「じゃ、これ海で採れたの?」

「おそらくな。琥珀は人魚の涙、なんて伝承もあるくらいだ。真珠の採れない北の海では、そう呼ばれてる」

「ほえー……」


 感心したように一声うめいてから、ダインがぽそりと言った。


「で、結局何が言いたいんだ」


(あー、ほんっと知力の残念なわんこだよ、お前さんは!)


「つまり、二つの属性を帯びてるってことさね。上質の琥珀の属性は木であり、同時に水なんだ。どっちもニコラとは相性がいい。使い魔を宿す『器』としては、うってつけの素材だってことなんだよ。わかったか?」


 ダインはおもむろに目を閉じて、それからもう一度開いた。その瞳を一目見るなり、ニコラはぽかーんと口を開けた。


「わあ………きれい………」

「そっか、お前さん、見るのは初めてだったな」


 ダインの左目は、月光のごとき白い光の渦に覆われていた。

 渦巻く月色の光には、雲母を砕いたようなきらめく欠片が浮いている。赤、青、緑、スミレ色、そして黄色。ありとあらゆる色の欠片が。それは絶えずゆらめき、一秒たりとも同じ形をしていはいない。

 時折、本来の緑の瞳が透けて見える、


「きれい。ほんとに『月の虹』だ……」


 かすかに頬を赤らめつつ、ダインはじっと琥珀のブローチを見つめた。

 

「ああ、確かに二種類の光が宿ってる。木の枝と葉っぱみたいな緑色と、流れる水。蛍みたいにぽわーっと青く光ってる……長い間、海を漂っていたんだな、この石は」

「見えるんだ」

「うん」


 ニコラはぐんにゃりと口を曲げ、だんっとばかでっかいブーツの上からダインの足を踏んづけた。


「ってぇええ!」

「やっぱ、ずるい!」


 あろうことか、フロウまでもが一緒になってうなずいていた。


「だろ? ずるいよな?」


 ちびはちゃっかりと天井の梁に避難し、ひっそり見下ろしていた。しっぽをもわもわに膨らませて。

 その隣には、ケーキのかけらを抱えた家付き妖精『ちっちゃいさん』たちがずらぁりと並び、文字通り高みの見物に興じていたのだった。


「きゃわ?」

「きゃわわ……」

「きゃーわー」


 一斉に肩をすくめ、ぽふっとちいさなちいさなため息をつく。誰のことを話題にしてるかは、言うまでもない。

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