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第一話

 古びた地下通路内に一定の間隔で配置された電灯の頼りない明りの中で、藤原亮司は自分の先を走る女を見た。

 女にしては長身でスラックスに包まれた脚は長くしなやかさを感じさせ、白いブラウスの上からでもくびれた腰が見て取れた。つややかな黒のロングヘアをなびかせながら走るさまは、それだけで見る者を虜にするだけの力がある。

 自分が絶対の忠誠を誓う彼女に姐さん、と彼は声をかけた。

「合流地点まであとどれくらいですか?」

 彼女が止まるのを見て尋ねる。

 振り返った彼女は、やはり美しかった。細い眉に切れ長の目。上からいくつかボタンを外したブラウスから豊かな胸が僅かに覗いている。

 しかし何よりも特徴的なのは全身から立ち上る圧倒的な存在感だった。

 オーラとでも呼べばいいのか、少しでも眼力のある者ならば実際に見て取れるほどだ。

「まだ先さ」

 今まで結構なペースで走っていたにも関わらず息ひとつ乱さずに答えた。

 彼女は亮司の所属する組織のトップだが今はほかに護衛は居らず、最悪の殺し屋に追われていた。

 ジャック・ウィリアムズ。もとはある落ち目の組織の組員だったが、かつての栄光を取り戻すために戦闘用サイボーグの研究を始め、試験的に改造手術を実行した。彼はその被験者であり、唯一の成功者だった。

 いや、()成功者か。

 実験終了からしばらくして、彼に手術を施した研究員を全員殺害。その後組織から逃亡。神出鬼没に世界を渡り歩き、彼が現れた街では必ず血が流れるという。彼の名前と得物に刃物を使用することからついた仇名が”切り裂きジャック”……らしい。

 初めて聞かされたときはどこの映画だと思ったが、奴は紛れもなく実在の人物だ。しかも、今この瞬間も自分たちに迫っている。

「どうやら、間に合わないみたいですね」

 その声に込められているのは諦めと僅かな後悔、そして莫大な喜びだった。

 それを感じ取り、意味を理解したのだろう。彼女はそのようだね。と答え、

「あとは任せたよ」

 それだけ言って、亮司を残して走り去って行った。 

 


 通路は暗く、五メートルほど先はもう見えない。

 彼女と別れてから三分ほどすると、落ち着いた歩調の足音が聞こえてきた。いよいよ登場だ。

 足元から徐々に姿が闇から現れる。

 曇りひとつない革靴。糊の効いたグレーのスーツ。量販店で買った亮司のものとは値段が数桁違うだろう。皺のないシャツ。落ち着いた茶色の髪は後ろに丁寧に撫でつけられている。顔には柔和な笑み。

 いかにも人のよさそうな紳士だが、その右手にはその穏やかな雰囲気を粉々に破壊する全長三十センチほどの巨大なナイフが握られていた。

 間違いない。こいつが”切り裂きジャック”だ。

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