追いつかないリアル
バタバタしているうちに年末になり、推薦枠に収まった級友が冬休みの相談をする頃、僕らは本格的に受験勉強を始めた。僕もヤブも第一志望は公立の高校なので、試験日まではまだ間がある。Pちゃんはもう悪ふざけにも加わらず、授業が終わるとまっすぐに家に帰った。
「充は受かるだろう?俺なんか、行くとこねえよ」
不貞腐れたヤブと一緒にいると、僕も行ける高校がないような気になる。まだ社会に出る気なんてさらさらなく、今更焦っても仕方のないようなことで、却って焦りが出てくる。家で勉強したくないのは相変わらずで、ハンバーガーショップに午後から夜まで入り浸って問題集を解き、遊んできたような顔で家に帰る。
「ちゃんと先を考えて勉強してる?」
母の言葉はただただ鬱陶しく、父に至っては顔を見ることすら嫌悪感が先に立つ。
「迫田君、その髪の色は少し明るすぎるわ。戻しなさい」
担任に話しかけられ、それも不愉快だ。
「地毛ですけど」
もちろんこれは嘘で、母にも散々注意されているのだ。生まれつきの明るい髪色を更に赤くして、なんとなく大人になったような気がするだけで、実際のところ、幼い顔つきが変わるわけではないし、中学生以上に見えないことも自覚はしていた。
「黒く染めればいいって言うんですか?髪の加工は禁止ですよね」
担任はふうっと溜息を吐いた。
「とにかく、中学校を卒業するまでは中学校の校則に従ってくださいね」
「はいはい」
いい加減な返事をしながら、言いなりになるつもりなんて、まったくないのだ。
Pちゃんの受験日は年明けすぐで、推薦枠でも気を抜くわけには行かないらしかった。時々根を詰めるらしく、酷い顔色で登校したりした。
「あんなに必死にならなくたって、Pちゃんなら私立で学費免除、ヨユーだろ」
Pちゃんが知っていて、僕らが知らなかったことは山ほどある。学費免除になっても、制服や教科書は有償だし、修学旅行の積み立てもPTA会費もあり、アルバイトには学校の許可が必要なのだ。知らなかったんじゃない、知ろうとしなかったのだとわかるのは、また後の話になる。
必死にはならないままに、今まで手も付けなかった受験勉強をして、多少なりとも成績は上がっていく。大切なことは他人を不快にしないことではなく、自分がいかに不愉快にならずに過ごせるかだ。二学期の終わり、教師は悔いのない冬休みを過ごせと言った。そして僕らは、学校帰りに制服のままゲームセンターに遊びに行き、帰宅したのは夕食後の時間だった。母は僕の顔を眺めた後、横を向いて溜息を吐いた。
「うるせえな」
「何も言ってないよ。あんたの人生を、母ちゃんが変われるもんでもないしね」
自分で散々それに似たことを言っている癖に、腹を立てた僕は、食事を摂らずに部屋の扉を閉めた。真剣にならなくてはと思う度、真剣になれない自分に焦りが立った。