鬱屈なんて言葉
闇雲に問題集を散らしても、成績はある程度上がるのだ。次の模擬試験では、僕の受験ランクは一つだけ上がり、母は少々安心した顔をした。
「少なくとも、中退者多数の学校じゃなくなったわね」
つまり、退学者が多数いるような高校に行けば、僕もつられてドロップアウトすると、母は考えていたわけだ。それについては自分自身が同感で、その後にアルバイトをしながら夜遊びする自分が透けて見える。ただ、それも気楽で面白そうだな、と思ってしまうんだけれど。
「浦上君だって、頑張ってるじゃないの。この前、スーパーで買い物してたわ」
「えー?コンビニで弁当、売ってるじゃん」
母の馬鹿にしたような溜息は、いつも僕を苛つかせる。
「コンビニのお弁当の金額で、三回分の夕食が作れるのよ。お金は天から降ってくるものじゃないの」
「当たり前じゃん。降って来たら、拾うよ。Pちゃんのオヤジが仕事しねえだけじゃん」
言い捨てて、テーブルの上の蜜柑に手を伸ばしたら、母が強く僕の手の甲を打った。
「痛てーな。ウザいんだよ、死ねばいいのに」
死ねば、なんて僕たちの中では日常語で、それに深い意味なんてない。
「母ちゃんじゃなくて、死ぬのはあんたにしなさい。出て行きなさい」
「なんで俺が出なくちゃならないの?」
「死なせたいような人に養われるのはイヤでしょう。出て行け!」
鋭くなった母の言葉にうんざりして、自分の部屋に引き上げるのもいつものことで、スクールバッグを開けて出てきた体操服を、ドアの前に投げ捨てる。
洗濯機の中に入れることもせずに、翌日に綺麗になった体操服がベッドの上に乗っているのを見て、僕が言うことも決まっていた。
「俺の部屋に勝手に入るなよ、キモいな」
世話を焼いてもらうのは当然で、気に喰わないことは当り散らして、それでも身体の中に鬱屈が溜まっていく。自分が何にイライラしているのか、自分で見当がつかない。
受験勉強を進めなければ、自分の可能性を自分で小さくしてしまうことは、もう既に理解している。けれど、可能性は何のために広げなくてはならないのだろう?これからJリーグの選手になれるわけでもなければ、アイドルになれるわけでもない。両親のようにちまちまと、金がどうとか残業がどうとか言いながらの生活は、ちっとも魅力的じゃない。じゃあ何がしたいのかって聞かれると、まったく見当はつかないのだ。




