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ケンタウロスの王子が見つけたキラキラと小人

作者: 恵京玖

 とある王国に呪われた王子様がいました。

 王子様の名前はハロルドと言い、ケンタウルスのように腰の部分から四本足の馬でした。王様はハロルド王子が呪われてしまって、嘆き恐れていました。

 しかし母親であるお后様はハロルド王子をたくさん愛してあげました。そしてハロルド王子は誰よりも早く走ることが出来たので、お后様はよく褒めてくれました。そして兄であるロイド王子も、人とは違うハロルド王子を助けてあげてとお后様は言っていました。

 しかしロイド王子とハロルド王子を生んだお后様は死んでしまって、すぐに新しいお后様を迎えました。だけど新しいお后様はケンタウルスのようなハロルド王子の事を忌み嫌い、話しかけても返事をしてくれなかったり、「呪われている」と悪口も言います。

 ハロルド王子も新しいお后様と仲良くなりたかったのですが、ことごとく嫌われてしまって悲しい気持ちになりました。ロイド王子もハロルド王子は「良い子だよ」って伝えますが、新しいお后様は聞く耳を持ちません。

 そんなある日、新しいお后様に赤ちゃんが出来ました。ハロルド王子は兄になれると思って嬉しくなり、早く生まれてほしいって願っていました。

 でも王様と新しいお后様は「ハロルド王子が赤ちゃんを傷つけるかもしれない」と思い、ハロルド王子を真っ暗な牢屋に閉じ込めてしまいました。


「待って! 僕は赤ちゃんを虐めないよ!」


 そう訴えましたがハロルド王子の言葉を王様も新しいお后様も聞いてはくれませんでした。




***


 牢屋で過ごすようになってしまったハロルド王子は、毎日泣いていました。そんなある日、牢屋の高い壁の隙間から光がさして、星屑のようなキラキラした物が降っているのに気が付きました。


「うわあ、綺麗。星屑だ」


 でもハロルド王子が取ろうとしましたが星屑は取れません。


「とても小さいから取れないのかも……」


 本当は小さな埃が日の光に当たって光っているだけなので手に取れないのですが、ハロルド王子は見ているだけで悲しい心が消えていくような気がしました。そしてこれを【キラキラ】と呼んで、キラキラが見える時はずっと近くで見ていました。


 ある日、ハロルド王子がキラキラを眺めているとガサゴソと音が聞こえてきました。


「何だろう?」


 ガサゴソと言う音が大きくなっていき、キラキラも見えなくなりました。怖くなってハロルド王子は隙間を見上げました。

 やがて隙間から少し多めの砂が落ちてきたと思ったら、「うわ!」「ぎゃあ!」と声と一緒に小人二人がキラキラと一緒に降ってきたのです。

 急いでハロルド王子は落ちてきた小人たちを捕まえました。ハロルド王子の小さな手より、少し大きな小人でした。


「ああ、びっくりした。いきなり床が無くなるんだもん」

「でも落ちた場所は地面じゃなくて良かったね。痛くなかったし……。あれ?」


 小人たちがハロルド王子と目があいました。そして「うわあ! 人間だ!」と騒いで、小人たちはハロルド王子の手からすぐに降りて牢屋の檻の隙間から逃げ出そうとしました。


「あ、ちょっと待って! 僕は君達を捕まえないよ」


 ハロルド王子のそう言うと小人たちは振り向いた。彼らはハロルド王子の姿を不思議そうな顔で見ていました。その顔にちょっと悲しそうな顔をしてハロルド王子は「僕、足が馬なんだよ」と言いました。


「うん、そうだね。ケンタウルスのアルトみたい」

「アルト?」

「森の中に住んでいる俺らの友達のケンタウルス。まだ仔馬だけど、君の方が小さいね」

「ケンタウルスって森の中に住んでいるけど、何で牢屋にいるの?」


 小人たちがハロルド王子の所に駆け寄って、尋ねてきました。

 久しぶりにお話しできるけど、悲しい話をしないといけないのでハロルド王子は泣きたくなりましたが、頑張って話します。


「あのね、僕、王子で生まれた時から馬の脚だったの。新しいお母様に赤ちゃんが出来たけど、もしかしたら僕が傷つけるかもしれないから、牢屋にいるの」


 我慢していた涙が溢れてきて、小人たちが「ごめんね」「悲しい事を聞いて」と言ってハロルド王子を慰めてあげます。

 泣き止んだハロルド王子に小人たちは名前を言います。


「僕、レジー」

「俺はアル」


 ハロルド王子は「どうして、こんな所に来たの?」と尋ねました。するとアルはいたずらっ子みたいな笑みを浮かべて「冒険だよ」と言いました。更にレジーは言います。


「あのね、お山みたいに大きくて真っ白い建物が僕らの住処から見えたんだ。だから行ってみようと思ったんだ」

「でも普通の山みたいに簡単に入れなくて大変だったんだ。大きな門があったり、大きな建物には隙間が無かったり……」

「それでね、建物の端っこにあるボロボロの塔があって、そこに隙間があったから入ったんだ」


 レジーとアルの話しを聞いて、ハロルド王子はちょっと微笑みました。久しぶりの外の話しだからワクワクしたのでした。

 お城にあるバラの園庭で真っ白いバラが咲いていたとか、大きな馬車が走っていたとか……。そしてレジーが「赤ちゃんの泣き声が聞こえた」と話すと、ハロルド王子はパアッと顔が明るくなりました。


「赤ちゃん、生まれたんだ!」

「うん。赤ちゃんの面倒を見る人が王子様って言っていたよ」

「うわあ。僕、お兄さんになったんだ」


 ハロルド王子が目を輝かせました。でもすぐに泣きそうな顔になります。


「僕、一体、いつになったら外に出れるのかな……」


 そう言って再び、ポロポロと泣いてレジーとアルが必死で慰めます。


「ごめんね。僕、いっぱい泣いて」

「ううん。だってこんな所に閉じ込められているんだもの。悲しくなるよね」

「出られたらいいのにね」


 そうして小人たちは「また明日、会おうね」と言って、牢屋の隙間から帰って行きました。




 その日から小人のレジーとアルは牢屋に遊びにやってきます。小さな可愛らしい花を摘んで来たり、カマキリと戦った事を身振り手振り使って話しました。ハロルド王子も自分の持っている絵本をレジーとアルに読み聞かせてあげました。

 ハロルド王子もレジーとアルとっても楽しい時間でした。

 

そんなある日、ハロルド王子も二人の小人に夕飯に出たクッキーをプレゼントしました。


「うわ、クッキーだ!」

「美味しそう!」


 小人と同じくらいの大きさのクッキーをレジーとアルはすぐに食べてしまいました。その姿にハロルド王子はクスクスと笑います。

 

「そう言えば、アルトとお仕事をした時もクッキーをもらったね」

「そうだね」


 レジーとアルの話しを聞いて、ハロルド王子は「ねえ、アルトってケンタウルスだよね」と言って質問します。


「その子って、いつも何しているの?」

「森の中で色んなお手伝いをしているよ。木の精霊のお使いとか、川の精霊に頼まれて川の掃除とか」

「色々とやっているね」

「あと森を通りたい人間の道案内とか」


 人間と言う言葉にハロルド王子は興味津々です。そして「森に人間が通るの?」と聞くと小人たちは「もちろん」と返事をしました。


「でも色んな人がいるよ。お礼にクッキーとかお菓子をくれる人もいれば、アルトに酷い事を言う人もいる」

「でも一番、酷い奴はアルトや俺らを捕まえようとする人!」


 アルは怒って言います。


「俺達、人間の世界じゃ珍しいから、檻に入れて見世物にするんだよ!」

「優しい人もいるけど、恐ろしい人もいるんだよ」


 レジーとアルは恐ろしい人間の話しで夢中だけど、ハロルド王子は「でも森の中でお仕事できるんだ」と呟きました。

 その言葉にレジーとアルは「うん、お仕事はいっぱいあるよ」と話しました。


「もしハロルド王子が外に出たいって思ったら、僕も手伝うよ」

「俺も手伝う」


 レジーとアルの言葉にハロルド王子は「ありがとう」と言いました。




 小人たちが帰ると隙間からキラキラと光が消えてしまいました。夜になったのです。いつも夜になるとハロルド王子は心細い気持ちになります。

 牢屋にはハロルド王子が読んでいた本やおもちゃがある中に、ランプがあるので付けますが小さな灯りです。つけても心細い気持ちは晴れません。


「夕飯、まだかな」


 ハロルド王子が呟くと塔の扉が開く音が聞こえてきました。足音はとても軽やかだったので、すぐに誰なのか分かった。


「ロイド兄様!」


 ハロルド王子がそう呼ぶと、兄であるロイド王子はニコッと笑った。手には夕飯を持っていて、「ハロルド、夕飯だよ」と言ってパンとシチューを渡しました。

 すぐにハロルド王子は食べました。レジーとアルが来ないと、ご飯の時間とロイド王子が来る時間しか楽しみが無いのです。

 全部、食べ終わった後、ハロルド王子は「ねえ、ロイド兄様」と話しかけました。


「赤ちゃん、生まれたの?」

「うん。元気な赤ちゃんだよ」

「そうなんだ。良かった」


 自分の事のように喜ぶハロルド王子にロイド王子は悲しそうに笑います。

 久しぶりに来たロイド王子にハロルド王子は小人のレジーとアルの話しをします。そして森の中にアルトと言うケンタウルスがいる事も。


「僕と同じケンタウルスがいるんだって。その子と会ってみたい」

「……駄目だよ。ハロルド王子はずっとお城から出たこと無いでしょ」


 実はお城の中では自由に歩いていたハロルド王子ですが、お城の外には出た事がありません。ケンタウルスの王子様なんておかしいからです。国のみんながびっくりしてしまいます。

 でもハロルド王子は更に言います。


「でもね、アルトって子、森の中にいるみたいだよ」

「そうだろうね。森の中に隠れているんだろうね」

「……でも、時々、森を通りたい人間のために道案内をしているみたいだよ」


 その話しを聞いてロイド王子はちょっと嫌な顔をして、「森に行きたいの?」と言います。ハロルド王子はためらいがちだけど頷きます。


「森はもっと危険だよ」

「でも森の中には僕と同じ子がいて、お仕事したり、自由に歩いているんだよ」

「でもハロルドはお城以外の事を知らないでしょ」

「うん」

「森の中は危ないよ。オオカミもクマもいるんだから」


 ロイド王子は冷たくそう言いました。確かにハロルド王子はお城の外は知らないし、森の中はもっと知りません。それにオオカミやクマに会っても、どうしたらいいかハロルド王子は分かりませんでした。

 でもハロルド王子は小さく「でも牢屋の中には居たく無いよ」と呟きます。


「夜になると真っ暗だし、一人で寂しいよ。お城にいられないのなら、森の中にいたいよ」


 悲しそうに言うハロルド王子にロイド王子は何にも言えませんでした。

 ロイド王子が帰ると、ハロルド王子は泣いてしまいました。


 いっぱい泣いた夜が明けて、朝になりました。ハロルド王子の目の周りは真っ赤に腫れていました。そして鼻も真っ赤です。

 牢屋の隅にある手鏡を持ってハロルド王子は「酷い顔」と呟きます。


「レジーとアルが来たら心配しちゃうかも……」


 心配そうにハロルド王子は呟いたが、レジーとアルは来る気配が無かった。いつも降り注いでいるキラキラをあってもハロルド王子の心は晴れません。


「今日は来ないのかな?」


 毎日来るとは限らないのですが、とても悲しい気持ちになっているハロルド王子はレジーとアルに会いたくてたまりません。

 けれど隙間からキラキラが消えて、光が無くなって行きました。もうすぐ夜が来る……とハロルド王子が思った時です。


「よし! 開いた!」

「ハロルド王子!」


 隙間ではなく塔の扉の方からレジーとアルの声が聞こえてきました。

 檻の柵から廊下を見るとレジーとアルが走ってきた。いつもはここから来たことが無いのでハロルド王子は驚いて「レジー、アル。どうしてここから来たの?」と聞きました。


「あのね、いつもの時間にハロルド王子の所に行こうと思ったんだ」

「でもお后様がお城のキッチンでハロルド王子の夕飯に毒を入れろって命令していたんだ」

「え? 嘘……」


 ショックな事を聞いてハロルド王子驚き、涙が出てきます。するとアルが「大丈夫!」と言って、檻についたカギ穴に針を入れました。


「アルトの待ち針を持って来たから、これを使ってカギを開けるよ」

「開いたら、逃げよ! ハロルド王子!」


 慰めるようにレジーとアルは言いますが、ハロルド王子は首を振って「逃げられないよ」と言いました。


「僕ね、お城の外に出た事が、無いんだ。ここから出たって、何にも出来ないよ」


 ハロルド王子はポロポロと泣いてそう言うと、レジーは「そんな事、言わないで!」と怒ります。


「このままだと死んじゃうかもしれないよ! 僕は死んだハロルド王子なんて見たくない!」

「でも……」

「森の事もみんな教えてあげる! だから森の中に逃げよう!」


 レジーの言葉にハロルド王子は「ありがとう」と言って、涙を拭きました。

 カギを待ち針で開けていたアルは「よし! 開いた!」と言って、檻を開けました。そしてアルとレジーはハロルド王子の背中に乗りました。


「よし! 行こう!」


 そう言ってハロルド王子は走って行きました。




 塔から出たハロルド王子に家来たちは驚いて、腰を抜かす者もいました。

 ハロルド王子は「うわあ、ごめんなさい。僕、逃げるから」と言ってお城の周りを走り回ります。

家来たちも「待ってください!」と捕まえようとしますが、ハロルド王子の方が逃げるのが早いので捕まる事はありませんでした。でもどこもかしこも家来がいっぱいで、ハロルド王子やレジーとアルは、どこに逃げればいいか分からないからです。


「どこに行けばいいんだろう……」


 ハロルド王子が悩んでいると「ハロルド!」と呼ぶ声が聞こえてきました。ロイド王子です。ハロルド王子は「うわ、兄様」と驚き、逃げ出そうとしました。

 すると「待って! ハロルド!」とロイド王子は呼び止めます。


「お城の裏口に行って!」

「え? どうして?」

「森に逃げるんだろ? だったら森の近くの裏口に向かって! 僕が家来たちにハロルドはお城の中に入ろうとしているって言うから」

「兄様……。ありがとう!」

「ううん、ごめんな! 守ってやれなくて!」


 ロイド王子の言葉にハロルド王子は再び泣きそうになりました。しかし我慢して裏口の方へ走って行きました。

 裏口にも家来はいるのですがハロルド王子を捕まえるため、居なくなっていました。すぐにハロルド王子とレジーとアルは裏口から逃げて、森の中へと入って行きました。


 ハロルド王子は振り返ることなく、森の中を走って行きました。レジーとアルは必死に王子の背中にしがみ付きました。

 やがてハロルド王子は疲れ果てて、大木の下にうずくまって眠りました。




 眩しい光がハロルド王子の瞼に差し込みました。眩しさにハロルド王子は目を開けると、木漏れ日の光からキラキラが降り注いている事に気が付きました。


「ああ、キラキラってここにもあるんだ」


 ハロルド王子の言葉に「キラキラって何?」と知らない声が聞こえた。パッと横を見ると知らない少年が立っていた。多分ロイド王子と同じくらいの年、そして腰から下が馬の脚になっていました。


「もしかして、アルト?」

「そうだよ。ハロルド王子」


 アルトがそう言うと、ひょこっとレジーとアルが顔を出しました。


「おはよう! ハロルド王子!」

「おはよう! ちゃんと森の中で生きられたじゃん」


 レジーとアルがそう言うとハロルド王子は泣きそうになったけど、にっこり笑って「おはよう」と言いました。








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