第90話:言いたい事を言って、すっきりしました
「とにかく僕は、君が欲しいだけなんだ。アイリーンさえ僕にくれるのなら、王位はジルバードに譲ってあげてもいいよ」
あまりにも愚かな事を言うレドルフ殿下に、皆が口をあんぐり開けて固まっている。
「兄上、いい加減に…」
ジルバード様がレドルフ殿下に何か言いかけたところで、ゆっくり制止した。
そして、笑顔でレドルフ殿下を見つめた。
「レドルフ殿下、あなた様はご自分で望んで私と婚約を解消したのを、お忘れでしたか?その上、婚約者だった私に暴言や暴力の数々を振るい、挙句の果てに婚約者がいながら、レア様と関係を持っていた。
私が何も知らないとでもお思いですか?
まあ、私もあなた様という婚約者がいながら、ずっと私の傍に寄り添ってくれているジルバード様に惹かれておりましたから、同罪ですが…
いいですか!はっきりと申し上げます。私はレドルフ殿下が、大嫌いです。あなたの顔を見るだけで、虫唾が走るほど嫌いなのです。あなたと結婚するくらいなら、この身を捨て、来世での幸せを選びますわ。
それくらい私は、あなたが嫌いなのです!たとえこの世が亡びようと、あなたと結婚することなど決してありません!もしあなたが魔王になっていたとしても、私はこの命を懸けても、あなたと戦います。4000年前の私のようにね!
分かりましたか?私は王妃になりたい訳ではないのです。大好きなジルバード様を支えたいから、王妃になりたいのです。ジルバード様が王にならないのなら、私が王妃になる事もありません!どうかもう、私の前に二度と顔を見せないで下さい!」
今までにない大きな声で、はっきりと告げた。
「そんな…どうしてそんな悲しい事を言うのだい?そうか、僕がレアを選んだことを、未だに怒っているのだね。だから君は…」
「兄上…一体何を言っているのだい?話にならない!兄上を地下牢に連れて行け!」
「承知いたしました」
あきれ顔のジルバード様が、レドルフ殿下を連れていくように兵士たちに命じている。
「離せ、どうして王族の僕が、地下牢に入れられなきゃいけないんだ。ジルバード、貴様、どこまでも僕の邪魔をするのだな!絶対にアイリーンは渡さないからな!!」
そう叫びながら、連れていかれたレドルフ殿下。目は血走り、髪の毛は逆立っている。
「アイリーン嬢、レドルフが本当にすまなかった。まさかあいつが、本当に魔王になろうとしていただなんて…」
「アイリーンちゃん、ごめんなさい。我が息子ながら、恐ろしいわ…あんな風に育ててしまった私にも、責任があるわ。どう償えばいいか…」
そう言って、何度も何度も頭を下げる陛下と王妃殿下。
「お2人とも頭をあげて下さい。それよりも、その…はしたないところをお見せして、申し訳ございませんでした」
いくら言いたい事が溜まっていたとしても、さすがに言い過ぎたかしら?とはいえ、言いたい事を全て言えたので、私自身はすっきりしているが。
「お見苦しいところなんて、何一つないよ」
「そうよ、何よりもそこまでジルバードを大切に思ってくれていることが、私たちはとても嬉しかったの。どうかこれからも、ジルバードをよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
私が頭を下げた瞬間、なぜか拍手が沸き起こったのだ。
「アイリーン、今日は疲れただろう。さあ、帰ろう」
「あなたが無事で、本当によかったわ。魔王との戦いに続き、闇の一族との戦いまで。本当にお疲れ様」
「まさか俺の妹が、ここまで凄い人間だっただなんてな。アイリーンは俺の自慢の妹だ」
「お父様、お母様、お兄様…」
3人が私をそっと抱きしめてくれた。私に魔力がないせいで、散々辛い思いをさせてきた大切な家族。そんな家族を守るために、私はずっと頑張って来たのだ。
「はい、帰りましょう。さすがに疲れましたわ。お母様、今日は一緒に寝てもいいですか?」
「まあ、甘えん坊さんね。もちろんよ、今日は一緒に寝ましょう。それから、明日はあなたの大好物の料理を、料理長に頼んでたくさん作ってもらいましょうね。ジルバード殿下、明日は私達に、アイリーンを譲ってくださいね。この子は今までずっと、頑張って来たのですから」
「妻の言う通りです。それにアイリーンは、まだマクレス公爵家の令嬢ですからな。アイリーン、明日は4人でゆっくり過ごそう。お前にはずっと、辛い思いをして来たからな。しばらくはマクレス公爵令嬢として、令嬢らしく好きな事をしなさい。
陛下、アイリーンは十分すぎるほど頑張りました。しばらくは、自由にさせていただきますね」
そう言って笑ったお父様。それにつられて、お母様とお兄様も笑っていた。3人の笑顔を見た瞬間、胸が熱くなった。
辛い事も沢山あった。でも、大切な家族を笑顔に出来ただけで、今までの苦労が一気に吹き飛ぶのを感じたのだった。
次回、最終話です。
よろしくお願いします。




