第9話:耐えられるかどうか
「あなた、どうしてジルバード殿下のご厚意を、断ったのですか?せっかく王宮医師を手配してくださるとおっしゃってくださったのに。もしかしたら、アイリーンの病名も、分かったかもしれないのに」
「母上の言う通りです。それにジルバード殿下は、アイリーンをずっと気にかけていて下さったお方なのに。あのような言い方をするだなんて。父上は一体、何を考えているのですか?」
「落ち着いてくれ。我が家の医者は、かつて王宮で医者をしていたほど優秀な人物。彼の性格上、何が何でも病名を見つけ出すだろう。そんな彼が、こんなにあっさりと“原因不明”と言ったんだ。
そこが引っかかってね」
「旦那様のおっしゃる通り、お嬢様の体調不良の原因は特定しております。どうやらお嬢様は今、莫大な魔力が一気に体に入り込んでいる様で。今までお嬢様は、平民以下のわずかな魔力しか持っていなかった。だから急に膨大な魔力が体に入った事で、体に猛烈な負担がかかっているのです。
どうして急に、こんな膨大な魔力がお嬢様の体に宿ったのかはわかりません。ただ、ひとつ言えることは、やはりお嬢様は、マクレス公爵令嬢だったという事です」
「何だって!アイリーンの体に、膨大な魔力だって。それじゃあ…」
「お父様…どうやら私は…ジャンティーヌの…生まれ変わり…のようです」
「アイリーン、君も気が付いていたのかい?自分の中に宿った膨大な魔力の存在を」
そっと頷いた。
「そんな…どうしてこのタイミングで…」
お父様が、その場で崩れ落ちた。
「この事が世間に知られたら、今度こそアイリーンは祭り上げられます!散々アイリーンに酷い事をしていた奴らの為に、どうしてアイリーンが命を懸けて戦わないといけないのですか?父上、このまま内密に」
「私もその方がよろしいかと思い、あの場で原因不明と申し上げました。今までお嬢様が、どんな理不尽な目に遭って来たか!それなのに、今更魔力が蘇ったからといって、お嬢様を貴族どもに利用されたらと考えると…
申し訳ございません。感情が高ぶってしまって…」
「君の言う通りだ!アイリーンは散々酷い目に遭って来たのだ。この国の為に、命を捧げさせるつもりはない。それに今は、この話しはどうでもいい。
それで原因は分かったが、どうすればアイリーンの熱や痛みは治まるのだ。治療法は?」
「治療法はありません。お嬢様がこの膨大な魔力を、自分の物として適応させる以外方法はありません。その為に今、お嬢様の体は魔力と必死に戦っていらっしゃるのです」
「それじゃあ、もしも膨大な魔力が適応できなかったら…」
「その時は、お命の危険も…」
「そんな…今更魔力などいらないのに!どうして必要ない魔力の為に、アイリーンがこんなに苦しまないといけないの?どこまで神は、アイリーンを苦しめさせれば気が済むのよ。
お願い、今すぐアイリーンの体から、魔力を追い出して。この子は元々、ほとんど魔力を持っていなかったじゃない。お願いよ、私からアイリーンを奪わないで」
お母様が、泣きながらお医者様に訴えている。
「申し訳ございません、奥様。その様な事は…」
出来ないだろう。そんなこと、分かり切っている。私はどこまで家族を泣かせたら、気が済むのだろう…
「お母様…私は…死んだり…しません…だから…」
「アイリーン、無理に話さないで。こんなに優しい子が、どうしてこんなにひどい目に遭わないといけないの?どうしてよ!」
お母様が私のベッドに顔をうずめて泣き叫んでいる。
「落ち着きなさい、魔力が暴走しようとしている。きっとアイリーンは大丈夫だ。とにかく、少しでもアイリーンの痛みが和らぐよう、方法を考えよう。大丈夫だ、アイリーン、きっと君は助かるから」
お母様は泣き叫び、お父様やお兄様も辛そうな顔をしている。私はいつも彼らを傷つけてばかりだ。
これ以上彼らを悲しませたくはない。だからこそ、何とかこの状況を、耐え抜かないといけない。
でも私、この激痛と燃える様な熱さに、耐えられるだろうか…
次回、ジルバード視点です。
よろしくお願いします。




