第89話:どうしようもない人ですね
「アイリーン!」
「「「「アイリーン様」」」」
「アイリーン、大丈夫かい?よかった、無事で」
その場にへたり込んでいた私の元に、ジルバード様達が駆け寄ってきた。ずっと結界をやぶろうと、彼らも相当の魔力を使っていたのだろう。息が上がっている。
さらにその奥からは、騎士団や陛下、王妃殿下、そのほかの貴族たちもやって来た。今回の件は、侯爵以上の貴族たちには話をしてあった。
ただ、非常に危険な戦いになるため、皆には決して王宮の裏の丘には近づかない様、念を押していたのだが…
「私は大丈夫ですわ。それよりも、皆様こそ大丈夫ですか?まさかあの男が結界を張ってくるだなんて。やはり私1人で向かうべきでしたね」
「君を1人で向かわせるだなんて、あり得ない!すまない、まさかあそこまで、我々が役に立たなかっただなんて…」
「同じ光の一族の末裔なのに、妹に全て押し付けてしまっただなんて、兄として恥ずかしいよ。アイリーン、怪我はないかい?まさか君の体に、あれほのまで莫大な魔力が眠っていただなんて…あんなにも綺麗な魔力は、初めて見たよ」
「最後、闇の魔力を持った男を倒した時、まるで複数の方たちが戦いに参加している様な、複数の位置から光の魔力が出ているように見えましたが、あれも光の魔力の力なのでしょうか?」
コテンと首をかしげているのは、ミミア様だ。もしかして、皆には私以外の人物は見えていなかったのかしら?
「実はあの時、私の中に眠る魔王に殺された、マクレス家の令嬢たちも一緒に戦っていたのです。どうやら光の魔力は、奇跡を起こすことが出来る様で。魔王への思いが人一倍強い彼女たちが、私に力を貸してくれたのです」
「まあ、そうだったのですね。その様な事が出来るだなんて、光の魔力とは、恐ろしいほどの力を持っているのですね」
「ええ、そうですわね。だからこそ、使い方を間違えると大変な事になるのですよ。光の魔力も、闇の魔力も…」
真っすぐと元男爵の方を見つめた。
「わ…私は悪くない。ただ我々は、闇の魔力を後世に残すために動いただけです」
「闇の魔力を後世に残すために、兄上を利用してこの国を滅ぼすつもりだったのだろう?なんて恐ろしい男だ。すぐにこの男を捕らえろ。それから、クレスロン元男爵家の一族を、1人残らず捕まえろ。きっとこの男が、彼らの居場所を知っているはずだ」
ジルバード様が、近くにいた騎士たちに指示を出す。
「待って下さい。レドルフ殿下は自ら魔王になる道を、ご自分の意思で選ばれたのですよ。この国とアイリーン様を手に入れるために。私だけ責めるのは、おかしいでしょう」
皆がレドルフ殿下の方に、視線をやった。
「ぼ…僕はただ、この国をもっと良くしたかっただけだよ。そもそも僕は、何も悪い事をしていないのに、王太子をはく奪されるのはおかしいだろう。王太子の僕は、この国のルールにのっとり、魔王との戦いに参加しなかったのに。
それに、アイリーンだって!ジルバードさえいなければ、僕が全てを手に入れられたのだよ。アイリーンも、この国もね!」
そう言って叫ぶレドルフ殿下に、そっと近づいた。
「確かにあなた様は、この国の第一王子で、正当な王位継承者です。王太子でもあるあなた様が、魔王との戦いに参加する必要はないと、法律で決まっております。
とはいえ、陛下や王妃殿下、さらに貴族の当主たちやその夫人たちまで、自ら魔王軍との戦いに出ているにも拘らず、何もせず王宮で豪遊していたと聞きましたわ。まさしく国中が一致団結して戦っている中、その様なご自分勝手な事をなさっている方に、この国を託せますか?もちろん、戦いに出る必要はないかもしれませんが、それでも後方で治癒師として支援する事も出来たはずです。
それもしなかったあなた様に、他の貴族も絶望したのではないのですか?」
「確かに君の言う事も一理ある。でも、君の件は?君は王妃になりたいのだろ?だからジルバードとの婚約を選んだ。もし僕が王太子のままだったら、君は僕のものだったんだ。それなのに、ジルバードが卑劣な手を使って、僕からアイリーンを奪ったんだ!」
この期に及んで、この男は何を言っているのだろう。ジルバード様が、卑劣な手を使った?レドルフ殿下から、私を奪った?ここまで愚か者だっただなんて…




