第88話:最後の戦い【その7】
ふと後ろを振り返った。そこには、必死に魔力をぶつけ、何とか壁を壊そうとしているジルバード様やお兄様、友人たちの姿が。その瞳には、涙が溢れている。
彼らも私の為に、必死に戦っている。それなのに、私がここで負けるわけにはいかない。
それに何よりも、この魂に眠る皆とも約束したのよ。今度こそ、幸せになると!魔王のせいで、令嬢らしいことも出来ず、愛する人と結ばれる事も出来ず、痛みと恐怖、悲しみの中亡くなった彼女たち。
“死を目前にして、泣いているのかい?無理もない、君はまだ十代の子供だ。神様も酷いお方だ。こんな小娘に、これほどまでの試練を与えるのだから。本当に可哀そうな娘だ。大丈夫、今楽にしてやるからな”
「可哀そうな娘?誰の事を言っているのかしら?私には、大切な家族や友人、愛する人、沢山の大切な人がいますわ。ですがあなた様には、大切な人がいるのですか?4300年もの間生き続け、幸せだと感じる事はありますか?可哀そうなのは、あなたの方ですわ!」
そうよ、私には私の事を心配し、大切に思ってくれる人たちがいる。悲しいときに一緒に泣き、嬉しいときには喜びを分かち合える人たちが。愛し愛され、その温かな温もりを、幸せな気持ちを与えてくれる人もいる。
でも、この男にはなにがあるの?ただ闇の魔力を守るために、いきながらえているだけ。そんな男に、私は負けない!
“うるさい女だ!目障りな奴め、さっさと地獄に落ちろ!”
「きゃぁぁぁぁ」
再び恐ろしいほどの黒い霧が、私を襲った。もうダメかもしれない…
そう思った時だった。
“アイリーン、しっかりしなさい!”
“そうですわ、あなたは私達の無念を晴らしてくれた人。こんな男に負けてはいけません”
「あなた達は…」
私の前に現れた7人の女性。それはかつて魔王との戦いで命を落とした、私の中に眠る女性たちだ。彼女たちからも、溢れんばかりの光の魔力が放出される。
“何だと!なぜアイリーンが8人もいるんだ?分身の魔力か?”
「いいえ、彼女たちは、あなたが生み出した魔王によって殺された、私の中に眠る女性たちですわ。彼女たちの強い意志が、形になって今私の助っ人として、来てくれたのです」
“そんなバカな!かつて魔王に殺された女たちが、出てきただと?それも光の魔力を使いこなしているだなんて…そんな事があるのか?”
「あなた様は、光の魔力の事を、よくご存じないようですね。闇の魔力が憎しみや憎悪で力が増幅する様に、光の魔力もまた、誰かを助けたい、幸せにしたいという強い気持ちで、力が増幅するのです。
そして光の魔力は別名、奇跡の魔力と呼ばれています。常識では考えられない事を、起こすことも可能なのですよ。今のようにね。さあ、最後の戦いを終わらせましょう。皆様の手で、一緒に」
光の魔力の事は正直知らなかった。それでも使いこなしていくうちに、光の魔力の特性が不思議な事に脳裏に入って来たのだ。本当に不思議な魔力だ事。
きっと今ならこの男に勝てる!
“”“”“ええ、もちろんですわ。最後の戦いを、私たちの手で終わらせましょう!”“”“”“
8人の心が1つになった瞬間、今までに見た事もないほどの膨大な真っ白な光が、私たちの手から放出された。
“な…何だこの光は!嘘だ!闇の力を持ったこの私が、こんな小娘ごときにやられるはずはない!1億年前のご先祖様たちの無念を、今晴らせるはずだったのに!
ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ“
まばゆいばかりの光に包み込まれた男は、そのまま光と一緒に目の前から消えたのだった。
終わった…
これで本当の意味で、戦いが終わった。
「皆様…ありがとうございました…」
私が声をかけた瞬間、7人の私の中に眠る女性たちは、にっこり微笑むと、一斉に私の中に吸い込まれるように戻って行った。
彼女たちに会う事は、もう二度とないだろう…なぜだかそんな気がした。
こうして私の最後の戦いは、無事幕を下ろしたのだった。




