第8話:お父様の決断
「アイリーン嬢は、何を言っているのだい?こんなに苦しんでいる君を、このまま放っておく訳にはいかない。可哀そうに…俺が代われるものなら代りたい。どうして神は、アイリーン嬢にのみ、こんなに試練をお与えになられるのだろう。
すまない、今の俺には君に何もしてあげられない」
私の手をギュッと握り、今にも泣きそうな顔でジルバード殿下が訴えてくる。どうしてここまで、私の事を心配してくれるのだろう。私は出来損ないの英雄として、皆に嫌われているのに。
「お嬢様、準備が整いました。奥様、お坊ちゃま、ジルバード殿下、一度お部屋から出ていただけますか?」
お医者様が3人を外に出したのだ。そしてありとあらゆる検査が行われた。
「これは…なんて事だ。こんな事があるのか?あり得ない。一体どうしてこんな事が…」
何度も何度も、同じ検査を行うお医者様。既に平常心を乱している様な、異様な状況だ。
「これは間違いない。でも、どうして」
「お医者様…落ち着いて下さい…もしかして大量の魔力が…私の中に入った事で…このような事態が?」
「お嬢様は、ご自分で感じ取られていらっしゃるのですか?この膨大な魔力を!少々お待ちください」
そう言うと、お医者様が外で待っていたお母様やお兄様、ジルバード殿下を部屋へと招き入れた。
「アイリーンが酷い熱と激痛で倒れたと聞いた!アイリーンは大丈夫なのか?それで、検査の結果はどうなのだ?」
さらにお父様も、血相を変えてやってきたのだ。きっと私の為に、お仕事を放りだしてきてくれたのだろう。本当に申し訳ない。
「皆様、精密検査の結果なのですが…それがどの検査をしても、原因が不明でした。一体どうしてこのような症状が出ているのか、さっぱりわからなくて…」
この人、何を言っているの?原因は分かっているじゃない。
「お医者様…」
「とにかく原因は不明で、治療法はありません。このまま様子を…」
「お待ちください!原因が不明とは、どういうことですか?治療法がないだなんて、こんなに苦しんでいるのですよ。一度王宮の医師に見せましょう。きっと何か原因が見つかるはずです!すぐに王宮の医師を手配…」
「ジルバード殿下、お気持ちは有難いのですが、アイリーンは先ほどレドルフ殿下との婚約を解消したばかりです。アイリーンは、ただの公爵令嬢です。ですので、王宮の医師を手配するのは控えさせていただきます」
「公爵はこのまま指をくわえて、アイリーン嬢が苦しむ姿を見ているつもりですか?俺はこれでも第二王子です。王宮医師の手配くらい…」
「その様な事をすれば、また世間からアイリーンが何を言われるか分かりません。アイリーンはもう、王太子殿下の婚約者でも何でもない、ただの公爵令嬢なのです。
あなた様が騒げば、またアイリーンが悪目立ちしてしまいます。どうかもう、そっとしておいてください。お願いします」
お父様がジルバード殿下に、頭を下げたのだ。
「あなた、何を言っているの?せっかくジルバード殿下が、お医者様を手配してくださると言って下さったのに。このままアイリーンを…」
「君は黙っていてくれ。これは家長でもある私の判断だ!ジルバード殿下、今日はお引き取り願えますか?我が家には我が家のやり方がありますので」
「…承知いたしました。出しゃばったマネをして、申し訳ございません。ですが、アイリーン嬢が心配です。またお見舞いに来ても、よろしいですか?」
「第二王子でもあるあなた様が、我が家に頻繁に通われるのは…」
「周りに気が付かれない様に、そっと来ます。ですのでどうか俺に、アイリーン嬢に会う権利を下さい。このままではアイリーン嬢が心配で、公務にも支障が出そうなのです」
「分かりました。ですが、頻繁に会いに来るのは慎んでください。どうか今日は、お引き取り願えますか」
「承知しました。アイリーン嬢、また来るから。それでは失礼いたします」
最後にそっと私に触れ、治癒魔法をかけて去って行ったジルバード殿下。もう私の事は気にしないで下さい、そう言いたかったが、激痛から声を出すことが出来なかった。




