第78話:まだ終わっていません
“アイリーン、君は僕のものだ!ジルバードなんかには渡さない!君が僕の言う事を聞かないのなら、この国は…ジルバードの命はない”
目の前には魔王の姿が。
“お願い、止めて、レドルフ殿下。分かったわ、あなたの言う事を聞くわ。だからどうか、これ以上この国を滅茶苦茶にしないで…”
“アイリーン、俺の事は気にしないでくれ。それより兄上を!”
“アイリーン様、あの男は私たちが何とかします。どうか安全な場所に…きゃぁぁぁ”
“アイリス様!カミラ様!お願い、これ以上大切な人を傷つけないで。止めて!!”
「…リーン、アイリーン、しっかししてくれ。アイリーン!」
パチリと目を覚ますと、心配そうな顔のジルバード様の顔が飛び込んできた。
今のは、夢?
「アイリーン、涙を流しながらうなされていた様だけれど、大丈夫かい?すごい汗をかいているじゃないか。とにかく湯あみを。アイリーン、聞いているのかい?アイリーン」
「ジルバード様…私…」
さっきの夢…セリーナから聞いた、魔王が誕生した4000年前の光景の様だった。セリーナから魔王誕生の話を聞いたうえ、私の不安な気持ちも重なり、あんな夢を見たの?
「アイリーン、大丈夫かい?こんなに震えて。もしかして、魔王の夢を見たのかい?可哀そうに。でも、魔王はもうこの世にはいないから、大丈夫だ」
「いいえ…魔王はいつでも誕生する…条件さえそろえば…」
夢の中の魔王は、間違いなく私が倒した魔王の姿そのものだった。でも私は、彼の事をレドルフ殿下と呼んでいた。それにさっきのレドルフ殿下の憎悪に満ちた目…
もしレドルフ殿下が、闇の魔力を持つ者の一族に接触し、彼らの力を得たら…そうよ、いつでも魔王は誕生できるのよ。そもそも前の魔王だって、元々第二王子だった。
でも…私の早とちりかもしれない。
それでも少しでも可能性があるのなら、その芽を摘んでおく必要があるわ。
「ジルバード様、大切なお話があります。至急陛下とお父様、お兄様、それから、ルリアン様達をここに呼んでください。お願いします、一刻を争うのです」
一刻も早く動かないと、とりかえしのつかないことになってしまうかもしれない。もう二度と、あの悪夢を繰り返さないためにも!
「分かったよ、すぐに皆を集めよう!」
尋常ではない私の様子を見たジルバード様が、急遽皆を集めてくれた。
「皆様、急にお呼び建てして申し訳ございません。ルリアン様・ミミア様・アイリス様・カミラ様、男爵家の様子はどうですか?」
「今家宅捜索を開始しているのですが…なぜか屋敷はもぬけの殻で…今元男爵たちの行方を追っているところですわ」
「そうですか…」
男爵たちが姿をくらませただなんて…増々嫌な予感がする。
「それでアイリーン、私たちを急に呼び出した理由はなんだい?君がわざわざ私たちを呼び出すだなんて、ただごとではないのだろう?」
「はい…実は私が意識を失っていた3日間、私の魂の中に眠る前世の私と話をしておりました。直近の前世の私、ジャンティーヌを含め、7人の女性がいたのです。
彼女たちは魔王と戦い、命を落とした人たち…その中で、魔王の誕生に大きく関わっていた女性がいたのです。今から4000年前に生きた女性、セリーナ・マクレス。彼女の生きた時代に、魔王が誕生したのです」
私はセリーナから聞いた話を、ここにいる人たちに丁寧に話した。魔王は実は当時の第二王子だったこと、クレスロン元男爵家の先祖が、闇の一族と交流があった事。闇の一族のちからで、魔王が誕生してしまった事。
以降4000年もの間、私たちは宿命に苦しめられていた事を。
「それじゃあ、魔王は元々我々の先祖だったという事か…憎しみや悔しさ、悲しみと絶望が積もり積もって、闇の魔力の力を借り、魔王になったと…そして今私たちにこの話をしたという事は、レドルフが…」
「レドルフ殿下が魔王になるかどうかは、私には分かりません。ただ…妙な胸騒ぎがするのです…私の取り越し苦労であって欲しい。でも、もし可能性があるのなら、その芽を摘んでいく必要があると思い、皆様に話しをしたのです」




