第77話:胸騒ぎがします
「それでは早速、ジルバード殿下の王太子殿下即位と、アイリーン嬢との婚約発表の準備を行いましょう。命を懸けて魔王と戦ったお2人が国を治められるとは、何と素晴らしい事なのでしょう」
「きっと国民たちからも、祝福の声が上がる事でしょう。それにしても、めでたいですな」
「他の貴族にも、早速報告をしないといけませんな」
貴族たちも、話しに熱が入る。
そんな中…
「ふざけないでくれ!どうして第一王子でもある僕を差し置いて、ジルバードが王太子になるのだよ。僕が何をしたというのだい?何も悪い事をしていない僕から、王太子の座もアイリーンも取り上げるだなんて、そんなのおかしいだろう?」
不満の声を上げたのは、レドルフ殿下だ。
「ジルバード、どうして僕から大切なものを次から次へと奪っていくのだい?僕が君に、なにをしたというのだい?僕は絶対に君を許さない…絶対に君から取り返して見せる。アイリーンも、王位も!」
真っすぐジルバード殿下を見つめるレドルフ殿下の赤い瞳からは、憎悪がにじみ出ていた。
“魔王…”
私の頭に浮かんだ文字、そう、まるで今のレドルフ殿下は、魔王の様だったのだ。4000年前、第二王子だったディーノ殿下は、憎しみと悲しみ、怒りを募らせ魔王になった。
私はディーノ殿下を知らない。ただ…なぜだろう、今のレドルフ殿下と魔王になったディーノ殿下と被るのだ。もしかすると私の魂の中に眠るセリーナの記憶が、無意識に私に何かを訴えているのかもしれない。
「とにかく、僕はジルバードを王にする事なんて、絶対に認めないから!アイリーンの事だって、絶対に取り戻してみせる」
そう叫ぶと、レドルフ殿下は去って行ってしまったのだ。
「ジルバード、レドルフはああ言っているが、気にする事はない。今回の魔王討伐の件で、貴族たちからもレドルフの行動には不満の声が上がっていたから」
「そうよ、ジルバード。あなたはこの16年、本当に苦労したのだから。レドルフの事は私達が何とかするから、気にしなくてもいいのよ。アイリーンちゃんも、気にしないでね」
そう言って陛下と王妃殿下はほほ笑んでいる。
でも…
「アイリーン、兄上の事は気にしなくてもいいよ。そもそも、あんなにアイリーンの事を傷つけ、ぞんざいに扱っていたのに、今頃アイリーンを欲しがるだなんて!とにかく兄上の事は忘れよう。さあ、こっちにおいで。クレスロン男爵家の件に関しての令状も出さないといけないし。
父上、少しお話よろしいですか?」
「ああ、もちろんだ」
「アイリーン、部屋で少し待っていてくれるかい?こっちだよ」
ジルバード様に連れられ、客間にやって来た。
「すまないが、父上と少し話をして来るから、ここで待っていてくれるかい?すぐに戻るから。君たち、万が一兄上が来ても、絶対に部屋に入れないでくれ」
「「承知いたしました」」
そう言うとジルバード様は、私のおでこに口づけをして、部屋から出て行った。
「アイリーン様、お茶とお菓子を準備いたしますね。アイリーン様は、甘いお菓子がお好きでしたよね」
使用人が、美味しいお茶とお菓子を入れてくれた。
「ありがとう、頂くわ」
久しぶりに食べる甘いお菓子が、口の中に広がる。もう魔王はいない、これからは、何も心配することなく甘いお菓子を食べ、美味しいお茶を頂き、綺麗なドレスを着て夜会に参加したり、お茶会に参加したりできる。
貴族学院に通い、今まで出来なかった楽しい学院生活も待っている。これからは、公爵令嬢として…王太子殿下の婚約者として、幸せになれる…
…本当に私、幸せになれるの?本当に全てが終わったの?これで一件落着なの?
全てが終わったはずなのに、言いようのない不安が襲う。この不安は一体何なの?
ああ…なんだか疲れたわ…
少しだけ、休もう…
そう思い、ゆっくりと瞳を閉じたのだった。




